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    osame_jr

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    osame_jr

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    間に合わなかったけどバレンタインの師弟。
    …いや、バレンタインは前振りでだしに使っただけですね。
    みんな生存ハッピー時空です。

    一緒に食べるともっと美味しい アジトは甘いにおいに満ち満ちていた。若い娘っ子たちの好みそうな菓子の甘ったるいにおい。
     今は平日の昼間だから、もちろん高校生たちは学校に行っていてアジトにはいない。だが、チョコパーティをするんだと楽し気に昨日狭い台所でキャッキャとはしゃいでいた頃から漂っていたものが染みついてしまっている気がする。
     そう、今日はバレンタインデー。食品メーカーの煽りに乗せられて世間が浮かれ回るイベント……なんて言っちまったもんで、案の定絵梨佳に睨まれた。「情念渦巻く厄介な日」って言葉は何とか飲み込んだ。
     一昔前までは女から好いた男に告白をするという趣旨のイベントだったはずだが、商魂たくましい製菓業界の努力により本命、義理に飽き足らず友チョコだのはたまたご褒美チョコなんて物まであるらしい。
     他所の国では男から女にプレゼントを贈るだとか、チョコに限らず身近な人間に贈り物をするだとか国によって文化は様々だとはエドの蘊蓄だ。そんな風習のおかげで、日頃の感謝としてアジトの面々にもチョコを振舞おうという女子高生たちのありがたい心遣いをいただけるわけだ。
     さりげなさを装っておかれている青や白を基調とした菓子のカタログは後で確認しておくとしよう。
     というわけで、女子高生プロデュースのチョコパーティ会場になったアジトの空気はおっさんには少々きつい。
    「ちょっと出てくる」
     デスクに並んだディスプレイに向かっている凛子に声をかければ、急ぎの報告書などもないので特に引き留められることもない。
     そのままアジトを出ようとしたら奥の資料置き場と化している小部屋から暁人が顔を出した。
    「ちょっと待って、僕も行くよ」
     いつものボディバッグをとって後に続いて来る。
    「特別用事があるわけじゃねえからついてこなくてもいいぞ」
     靴を履きながら狭い玄関で順番を待つ暁人に言うが、暁人のやつは困ったような曖昧な笑顔を浮かべた。先に玄関を出て靴を履く暁人を待ちながらその表情の意味を考える。真面目な性格の暁人がサボりの為に意味もなくついて来るとは思えない。買い物であれば一緒に来る必要はないし、荷物を持つ人手が必要ならそう言うだろう。
     お待たせと言って隣に並んだ暁人と歩き出す。横目に伺ってみても特別な様子は見えない。
    「オマエに限ってサボりってことはねえだろうし、何か相談したい事でもあるのか」
     見当がつかない事に悩んでも仕方ないし、今更変に遠慮する間柄でもない。率直に聞いてしまった方がすっきりしていいだろう。
    「別にそういうわけでもないんだよね」
     それなら何だというのかというのを隠しもせずに胡乱な目を向けてやれば、暁人はまた微妙な顔をする。
     暁人の意図がわからないから今一つ行き先が定まらずだらだらと歩く。オレ自身ちょっと外の空気を吸おうと外に出てきただけで、決まった目的もないから困ることもないのだが。
    「アジトの中がさ、目一杯甘い香りがしたじゃない?ちょっと外の空気が吸いたくなったんだよ」
     暁人の口にした理由に納得しかけて、おやと思い出す。
    「オマエ、苺大福だの甘いもんも好きだったろう」
    「う~ん、前より甘いもの好きじゃなくなっちゃったんだよね。和菓子は良いんだけど、チョコとか生クリームとかはほどほどが良いな」
     どことなく残念そうにも見える表情に甘味への未練がのぞいている。
    「人の事年寄り扱いしてたくせにな」
    「あいにく、女郎ラーメンはまだまだ美味しく食べきれるから」
     意地悪い笑みを浮かべてやれば、それ以上にやり返してくる。かわいくない奴だ。
    「なんか最近食べ物の好み変わったのかも。前より、和菓子とか和食を食べたくなったり、おつまみ系が美味しく感じるんだよね」
     ラーメンの話から最近の食の事が思いだされたのか、暁人が何とはなしに言う。
     若者にしては渋いラインナップにも思えるが、大人になれば甘いものより酒に合うものを好むようになるものだろう。特に男なら。
    「お暁人くんもお子様舌から大人になってきたってことじゃねえのか」
     暁人は思い出したり考えるように頭上に揺蕩っていた視線をオレに向けてきた。
    「大人になったっていうより、KKの味覚に引っ張られてる気がするんだよね」
     確かに言われてみればオレは洋食よりも和食の方が好きだし、酒も飲むからつまみを飯の代わりにしてしまう事もザラだ。最近はそれも暁人による食生活改善(オレだけじゃない。エドと凛子もだ)で減ってきてはいるが、代わりに暁人が和食を食べる機会も増えたのかもしれない。
    「味覚が似てきたってんなら、こっちもどうだ?」
     ポケットから煙草を取り出してやれば、それはいらないとすげなく返された。
     仮に乗ってきたとしても止めたけどな。体に良いもんでもないし。
     煙草はともかくとして、自分が美味いと思う店に付き合わせることができるやつがいる事に悪い気はしない。特に暁人は飯を食う時、大層幸せそうな顔をするから食わせ甲斐がある。
    「今度、オレの行きつけの店に連れて行ってやるよ」
    「え、本当?何系?」
    「そりゃ、行ってのお楽しみってやつだ」
     話だけでもパッと表情が明るくなる。本当にかわいい奴だ。

    END
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