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    aimai_moko0817

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    aimai_moko0817

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    伊藤ふみやに狂わされた1人の女性の話。
    全く甘くないけど一緒に住んでる描写があるので、苦手な方はご注意ください。
    ほかのカリスマは出てきません。

    追憶の幻肢痛伊藤ふみやは、”神様”なんだろう。
     夕飯の支度中、冷蔵庫の中央に鎮座するプリンを見て、私はふとそんなことを思った。
     長年忘れられない彼の面影に抱いている感情が恋慕ではないと気付いたのは最近のことになる。彼が何者で、どうしてこんなに忘れられないのか。ずっと抱えていたその問いに対するアンサーが、神様だと思うとやけにすとんと胸に落ちた。

     彼――伊藤ふみやに出会った日のことはよく覚えている。忘れるわけがない。学生時代から住んでいた1DKの安アパート。その前で倒れていたのだ。
     出会わなければよかったと、心底そう思う。

     その日は週末だというのに残業で、終電一本前の電車に乗って帰途についていた。入居の決め手にもなった駅前のスーパーは既に閉まっている。家には思い出すまでもなく食料がなくて、少し遠回りをしてコンビニに寄った。
     外からは煌々と輝いて見える店も中に入れば侘しいもので、食べたかったホットスナックのショーケースは既に電源を落とされていた。品揃えがまばらになった寂しい商品棚には、売れ残りの期間限定弁当だけが残っている。さっきまで一人で職場に残っていた自分の姿と重ねてしまって、その気持ちをかき消すようにカゴに入れた。ジャンバラヤ弁当とかいうよくわからない商品なのがちょっと不服だったけど。
     お気に入りの缶チューハイも忘れてはならない。アルコール度数が高めのそれは、リベンジ夜更かししがちな私を強制的にシャットダウンするのに一役買ってくれていた。
     レジに向かうと、さっきまで気だるげに立っていたはずの店員の姿がない。店内を見回すと近くのスイーツの棚が目に入った。
     普段は甘いものを食べることは少ないけれど、今週も頑張ったしプリンくらい買おうかな、と珍しく手に取った。

     住宅街を抜ける帰り道は暗い。狭い道の傍らにぽつりぽつりとある街灯には蛾が群がっている。真下を歩くのが嫌で、車道の真ん中を歩いた。
     こんな時間に一人歩きをするのは正直こわい。こちとら丸腰の女性なのだ。
     背後に人はいないか、建物の陰に誰か潜んでいないか、周囲に注意を配って警戒する。不審者が飛び出して来たらどう対応するか考えながら歩くのがいつもの癖だった。
     最難関は自宅前。うちのアパートは道に面して駐車場、奥に建物という配置だ。両隣のマンションが敷地いっぱいまで建てられているせいで見通しが悪い。
     部屋の前の様子が近づかないとわからないのは嫌だけど、そうそう何かあるものでもない。

     でもその日、車の陰に人が蹲っていたのだ。足が止まる。暗闇の中でもわかる鮮やかなオレンジが、ゆっくりと大きく上下を繰り返していた。
     誰? どうしてここに? こちらに気づいている様子はない。今なら逃げられる。どこへ? こんなのシミュレーションにない。
     動けないまま固まっていると、それが小さく唸っているのに気が付いた。酔っ払いか、病人か。まさかゾンビなんてことはないだろう。家に入るには真横を通らなければならない。見て見ぬふりしてすり抜けることができなくて、恐る恐る近づく。
     少し迷って声を掛けた。だって、こんなの普通じゃない。
    「あの……あの、大丈夫ですか?」
     緊張で掠れた私の声に応えて、苦し気な表情を浮かべた少し幼さの残る顔がこちらに向いた。
     これがすべての始まりで間違いだった。さっさと家に入って警察に電話して、保護してもらうのが正解だったのだ。でも、その時はそんな考えが浮かばなかったし、もし思い至ったとしてもそうしなかっただろう。
     焦点の合わない紫の瞳を見たとき、他人に託したくないと思うくらい彼に見惚れてしまったから。

     私の家までは目測3メートル。玄関と部屋のドアを開けて、ドアストッパー代わりに荷物を置く。
     戻って肩を貸すと、覚束ない足取りながらふらふらと歩いてくれた。半ば引きずるようにして彼を家に誘導する。意識は朦朧としているようで、声掛けに返答はなかった。
     無事家に入ったと安心したのも束の間。わずかな土間の段差を超えられなくて一緒に床に倒れ込む。
     大丈夫? と聞くも、どうやら限界だったらしい彼はすでにぐうぐうと寝息を立て始めていた。起こそうとしてみたが反応はない。
     自分より一回り以上大きな体は私の力だけでは起こせそうになくて、狭い玄関からなんとか自分だけ脱出する。
     もとはオールバックだったであろう髪は滲んだ汗で乱れていた。濡らしたタオルで顔と首を拭うと表情が少し和らいだような気がする。
     そのまま転がしておくのも忍びなくて、申し訳程度にタオルケットを掛けた。
     どうしよう。つい連れ帰ってきてしまった。さっきまであんなに慎重に夜道を歩いていたはずなのに、見知らぬ男の子を家に入れるなんて。私らしくない。
     ああもう、どうにでもなれ! 自棄になって買ったばかりの500ml缶を開ける。持ち歩いていたせいかプシュっと勢いよく泡が溢れ、ぐびぐびと飲まざるを得ない。強いアルコールを喉に感じた。
     ほどなくして酔いが回る。疲労と睡魔も手伝って、お弁当も食べないうちに床に座ったままソファに凭れて寝てしまった。

     次の日、目が覚めるとタオルケットが掛かっていた。温かい。まだ纏わりつく眠気を引き寄せて二度寝しかけて気づく。こんなの誰がしてくれる?
     彼氏は随分前に別れたし、田舎の親は予告なしに来ない。家に遊びに来るほど親しい友達もいない。ああ、そうだ。昨日の男の子。思い至ったところでバッと意識が覚醒した。
     そうだ、あの男の子! 昨日寝ていた場所には誰もいない。出て行った? キッチンの方に視線を移す。いる。
     そこには、あまりにも平然とプリンを頬張っている彼がいた。
    「あ、起きた。おはよう」
     無表情な顔から、落ち着いた低音が放たれる。昨晩の苦しそうな様子は欠片もない。
    「お、はようございます」
     彼の方が明らかに年下なのに、ここは私の家なのに、なぜだか敬語になってしまう。左手に持っているそれは昨晩私が買ったプリンじゃないだろうか。プリンだけじゃない、この部屋の全てが急に自分の物じゃなくなったような気がして居心地が悪い。
     せめて会話の主導権を握ろうと質問を投げかける。
    「えっと、具合平気?」
    「なにが」
    「えっ、昨日倒れてたんだよ。覚えてないの?」
    「ああ、そうだった。わりぃね。助かった」
     作戦は呆気なく失敗した。完全に彼のペースだ。このぶんだと本当に昨晩体調が悪かったかすら怪しい。
     
     しばらく話してみてわかったこと。伊藤ふみやくん、19歳。昨日この辺りで体調が悪くなって倒れていたところを私に助けられた男の子。火事で家がなくなって、友達のところを転々としている……らしい。”らしい”というのは、本人が自発的に口にしたわけではないからだ。
    「俺、家ないんだよね」
    「えっどうして。彼女に追い出されたとか?」
    「え」
    「図星? 違うの? じゃあ火事で焼け出されたとか」
    「そう、それ」
     ことごとくこんな調子だ。掴みどころがない、というのはこういうことを言うのだろうか。なんとなくだけど、悪い人には思えなかった。第一、犯罪者の類ならもうとっくに行動しているだろう。
     人恋しさもあったのかもしれない。結局、そんな嘘か本当かわからない言葉を都合良く鵜呑みにして「じゃあしばらくうちにいなよ」なんて言う私もどうかしていた。

     ふみやくんの定位置は二人掛けソファの左側。長らく真ん中にしか座らなかったせいで偏っていたクッションが日毎に均されていく。ただそれだけのことが無性に嬉しい。
     彼は驚くほど生産的なことを何にもしなかった。本棚の本を読み漁って、ご飯を食べて、お風呂に入り、たまにぼーっと何かを考えている。
     ここ数年をせかせか生きていた私にとって、スローライフを送る彼の存在は意外にも心地よかった。

     ふみやくんと一緒に暮らして、スイーツを食べる機会が増えた。日々マルチタスクをこなす私にご褒美が必要だと説いたのがきっかけだったけど、彼自身甘いものが好きらしい。いつもの低い声で「めちゃめちゃテンションが上がっている」と言われたときには、嘘つけ、と思ったものだが、最近読み取れるようになってきた表情から察するに本当らしかった。
     体よく強請られているような気もするが「そんなに頑張らなくてもいいんじゃない?」という甘美な言葉は、独り身にはよく沁みた。
     一緒にスイーツを食べる時間はとても幸福で、日頃のストレスが全て塗り替えられるような感覚を齎してくれる。お酒はもう必要なかった。
     心が満たされていく充足感を得てはじめて、自分が飢えていたことを知った。

     一緒に映画を観ることも多かった。アクションもホラーもSFも恋愛も、どんなジャンルを見ても彼の表情は変わらない。脚を広げて手を組んで、じっと画面を見据えていた。
     その眼差しは真剣に映画を味わっているようであったし、さながら生き物を観察する研究者のようでもあった。
     ソファに並んで鑑賞中、ベッドシーンが出てきたときは正直ドキっとした。期待していたわけじゃない。私は生来臆病なのだ。これだけ一緒にいて何もなかったんだから今更、という気持ちと、彼も年頃の男の子なのだし、という事実が私を葛藤させた。
     気づかれないようにふみやくんの様子を伺うと、彼は意にも介していないようで、年甲斐もない自分の考えに顔が熱くなった。
     スプラッターを一緒に見たときは、この素性のわからない青年にいつか殺されるんじゃないかという思いが頭を過った。恐怖より先に、それでもいいか、と思った。投げやりな気持ちではない。死にたいわけでもない。ただ、ふみやくんに殺されるなら別に構わないと思った。
     当然そんなことが起きるはずもなく、彼はいつものようにただ黙って画面を眺めていた。

     自分の変化と、いつの間にか馴染んでいたこの生活の異常性を自覚したのは、会社近くのケーキ屋で同僚に遭遇したのがきっかけだった。
     6号サイズの箱を抱える私は、それは嬉しそうな顔をしていたらしい。ゴシップを嗅ぎ付けた記者のような顔で「彼氏の誕生日?」なんて聞いてくる。
     このところ残業もそこそこに早く帰る日が増えていて、社内で少し噂になっていたんだそうだ。
     もちろん彼氏なんていない。これはふみやくんと食べるケーキだ。それにお互い誕生日でもない。というか、私は彼の誕生日を知らない。誕生日どころか、本人が口にした名前と年齢以外なにも知らないのだ。
     そんなことを考えている間にも同僚は矢継ぎ早に質問して、話を掘り下げようとしてくる。
     ふみやくんのことは内緒にしておきたかった。後ろめたいわけじゃないけど、自分だけの宝物としてひっそりと持っておきたかったのかもしれない。
     終わる気配のないインタビューを愛想笑いで曖昧に濁してその場を後にした。
     ケーキ屋を出て、さっきの同僚の言葉を思い出す。私にとって、ふみやくんは何なのだろう。ふみやくんにとって私は――。考えれば考えるほど、もやもやとした気持ちが澱のように心に溜まっていく。

     自宅のドアを開けると、帰宅を告げる言葉より先に「おかえり」が聞こえてきた。彼の視線は手元の本に固定されたままだ。今日は何を読んでいるのだろう。
     ティーバックの紅茶を淹れてケーキの箱を開けるタイミングになって、ようやく本を閉じたふみやくんがのそのそと食卓に着いた。
     私は切り分けたケーキを皿に移しながら、努めていつものトーンで長らく気になっていた質問を投げかけてみる。
    「ふみやくん、いつまでうちにいる?」
    「え、いや」
     想定はしていたけれど、やっぱり歯切れが悪い。きっと目も泳いでいるんだろう。見てしまうと言いづらいから、ケーキに目を向けたまま続ける。
    「言いづらいんだけど、家賃とか食費とか」
     残業が消えた分、日々量の増えるスイーツの分、家計が圧迫されているのも事実だった。
    「まあまあまあ」
     一瞬狼狽えたように思えた声は既に冷静さを取り戻していて、言外に引き際を告げている。このままだと居なくなるな、という直感があった。

     あの一件以降、彼のことは対等な人間ではないと思うことにした。踏み込まないことで、私はこの関係を良好に保ち続けますよという意思表示をしたつもりだ。
     ふみやくんはペットのようで、弟のようで、崇拝する偶像のようで。甘いものは貢物。次第に量の増えるこれを供給し続ける限りはうちにいつまでもいてくれる気がした。――していたのに!
     ある日「ただいま」と玄関を開けると、そこに彼はいなかった。とっくの昔に靴箱の奥にしまっていた白いスニーカーも、あのオレンジのブルゾンもどこにもない。
     リビングを兼ねたダイニング、寝室、お風呂。広くない部屋は一瞬で回れてしまう。希望を持つ暇もない。およそ人なんて隠れられないカーテンまで開け放して彼の不在を確認した瞬間、私はとうとうその場に崩れ落ちた。

     たぶん、4日。私は虚無だった。ひたすら泣いて、疲れて寝てはふみやくんが忽然と消えてしまう悪夢で目を覚まし、家中の甘いものを胃に収めていく。
     手掴みで口に運んだショートケーキ。甘ったるいジャム。ザクザクとした食感のクッキー。
     とにかく甘いものを詰め込めば、ふみやくんと食べたときに感じた幸福感がまた得られるんじゃないかと思って、1リットルのアイスクリームは溶かして飲んだ。
     体が次第に甘いものを拒否する。喉が辛いのは次々に詰め込む甘味が焼き付いたせいか、泣きすぎたせいか。
     ケーキ屋で会った同僚が上司を連れて家に来た。無断欠勤が続いて心配だったのだという。そんなところまで気が回るわけもなかった。同僚の手によって数日ぶりに電源の入れられたスマートフォンには3桁にも及ぶ不在着信通知が来ていた。私はありったけの有給休暇を消化して会社を辞めた。
     家は引き払った。ふとした瞬間にふみやくんの存在がちらつくから。あの家には長く住んだし、彼以外に時間を過ごした人もいたのに、どうしたってふみやくんのことが頭から離れない。
     都会に疲れた、と尤もらしいことを言って実家に戻った。おおらかな両親は「しばらくうちにいなね」と、いい歳して突然帰ってきた娘を優しく迎えてくれた。
     しばらくは本棚の本を読み漁って、ご飯を食べて、お風呂に入り、たまにぼーっと取り留めのないことを考える。それはあの時のふみやくんみたいな生活だった。
     手あたり次第に本の山を崩す最中、たった一か所だけしおりの挟まれていたページを見つけた。そこには『手に入らなかったものほど強く印象に残る』という言葉が綴られていて、本当にその通りだと痛切に実感した。

     移ろう季節に取り残されたくなくて探し始めた仕事は存外あっさり見つかって、日常の忙しさが少しづつ彼の存在を薄めた。寝て起きて働く。元通りのシンプルな生活。極力余計なもので心を乱さないように仕事に打ち込んだ。
     恋人ができた。こんな私の頑張っている姿が好きなのだと真剣な表情で伝えてくれる誠実な人だ。「頑張らなくていいんじゃない」と軽く笑ったふみやくんとは真逆のことを言う人だった。
     初めてのデート中、人波の中にあのオレンジ色を見つけた。オールバックの黒髪も健在で、見間違えようがなかった。繋いだばかりの彼氏の手を振り払って走っていきたい衝動に駆られたが、すんでのところで思いとどまる。行ってどうするのだ。
     プロポーズをされた日の夜、幸せいっぱいの中、信号待ちの向かいの道にふみやくんの姿を見つけた。背格好も顔つきもあの日々のまま変わっていなかった。
     信号が赤から青になって、これから結婚する彼が私の手を引く。カッコーと鳴る音がやけに響いて聞こえた。金縛りにあったかのように固まってしまった体の中で、唯一動く目が通り過ぎる青年を追う。
    「いいんじゃない」
     微笑するときのあの穏やかな声が通り過ぎていく。
     快活で誠実な彼氏と結婚した私は、伊藤姓になった。
     新生活に彼が提案してきた引越し先は、ふみやくんと暮らしたあの家と同じ路線だった。内見のために快速で通り過ぎたあの駅のホームに馴染みのあるシルエットが佇んでいるのを見た。
     そして、子どもができた。なんとなく男の子だろうという予感があった。そしてそれは的中することになる。
     夫に”ふみやくん”の話をしたことは1度もなかった。どんな奇縁か因縁か、夫が連ねた名前の候補に「ふみや」があった。そっと選択肢から外したとき、私は上手く笑えていただろうか。

     夫が好きな、動画投稿サイトのチャンネル。そこで最近見た、神様の話。
     曰く、神様には人の言葉や価値観がわからないらしい。人間が動物の言葉や価値観を理解できないのと等しく同じことだ。
     タバコを例に挙げる。仮に1箱500円だとして、500円稼ぐためにどのくらい仕事をしなくちゃいけないか、人間は己の価値観で理解している。
     働いて稼いだ500円でタバコを買って、それを1本でも神様にお供えして「神様お願いします。このたばこをあげますから、願いを叶えてください」と願い事をしたとする。もし神様がタバコを欲していたら「OK、タバコもらうね。その代わり力を貸すよ」となるかもしれない。
     でも、神様には人の価値観がわからないから、1本じゃ足りないなとか、だから2本頂戴、3本頂戴、1箱頂戴とエスカレートして、その1箱が足りなくなったときにはもっと頂戴、もっと頂戴となるのだという。
     日毎に量を増したスイーツの記憶が重なる。
     話はこう締めくくられていた。
    「何か願いをかなえてもらう度に、これもあげてそれもあげて、終いには魂まであげてしまうかもしれない。でも、神様にとってその魂も価値のあるものかわからないじゃないですか」

     今でも時折、彼を思い出す。甘いものはあの家を出た日を境に食べられなくなってしまった。きっともう一生分口にしたのだ。
     度々目の前に現れる、19歳のふみやくん。その姿は恋しさが生み出した幻なのかもしれない。手に入らなかったものほど強く印象に残る、と彼が教えてくれた言葉はいつまでも胸に刺さったままだ。
     ふみやくんと過ごした時間は既に私の一部になってしまった。失った四肢は二度と生えない。幻肢痛のようにときたま疼く過去を抱えて生きていかなければならないのだ。

     プリン1個で「ここにいて」と乞うたのが願いの始まりなら、私の人生に彼が存在し続けるために彼はこれからも私から奪い続けるのだろうか。
     甘党に育った息子はもうすぐ小学生になる。そんな我が子が選んだランドセルはあのブルゾンみたいな鮮やかなオレンジ色をしていた。
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