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    ソルティー

    色々なオタク。

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    ソルティー

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    【新刊】
    6/25 JUNE BRIDE FES
    東4ホール き43a
    相澤消太×夢主(水鏡由利音)
    ツイッターSSまとめ本 23年1月~23年3月
    ※イベント終了後に通販あり

    P74/イベント価格500円
    全年齢

    書き下ろしのサンプルです

    人魚姫の涙(サンプル)「もし相澤が人魚姫だったらどうする?」
    「は?」

    突拍子もない質問の主を見ると、その視線はテレビを見ている。画面には人魚姫の映画CM。そういう映画を見るようなやつだとは思わなかったので、「好きなのか?」と聞くと「は? 何が?」と素っ頓狂な声が返ってくる。 俺は一つため息をつき、洗濯物を干しながら会話を続ける。

    「人魚姫だよ、好きだから聞いてきたんじゃねえのか」
    「あー…まあ好きっちゃあ好きかもなー」
    「なんだその曖昧な返事」

    お前らしくねえな、と言おうとして言葉を飲み込む。らしい、なんてのは自分が持つ相手に対する偏見だ。
    パンパンと最後の洗濯物を干し、俺は洗濯籠を脱衣所へ置きそのままキッチンへと向かう。コーヒーメーカー から 2人分のコーヒー淹れ、それを持ってアイツの少し後ろに座る。こういうアンニュイな雰囲気を醸し出している時は、少し放っておくのがちょうどいい。
    ローテーブルにことんと音を立ててカップを置く。アイツは気付いたはずなのにそのカップを取らずに、難しい顔でクッションを抱えたままテレビを見ている。そんなに難しい顔をして何を考えているのかと思いを馳せるが、アイツの考えていることなんて俺にわかるはずがない。いつだってアイツは俺より賢くて、横暴で、そして強い。
    そんなアイツを見ながら俺は熱いコーヒーを啜る。

    「俺が人魚姫なら、お前は王子様なのか」
    「へ?」

    コーヒーを飲みながらそう尋ねるとアイツは驚いた後に、ん~と考える。普段から自分を王子と表現しているアイツのことだ、すぐに「そうだ」と答えるかと思ったが、どうやら違うらしい。

    「まあ、俺は世界一かっこいい王子様なんだけど、人魚姫の王子様ってさ、相手の気持ちに気付かないポンコツな上に最後に人魚姫泣かせてるんだよなあ」
    「酷い言いようだな」
    「だって事実だろ。俺は相澤の気持ちに気付かないなんてことはないし、泣かせたりしねえ。だから違うな」
    「いつも戦闘訓練でさんざん泣かしてるくせに」
    「まじで!? 泣き顔見たことないぞ? 今泣かせていいか!?」
    「嘘だよ。いい年したおっさんが泣くわけないだろ」
    「え~見たいな、泣き顔」

    そう言って俺の方へ寄ってきて、綺麗な手を伸ばし俺のがさついた肌に触れる。白くて滑らかでふっくらとした手。普通の女のそれと比べていくばくか筋肉質ではあるが、男の俺と比べたら圧倒的に細くてすらりとしている。この手でいつも俺を殴っているのかと思うと不思議な気持ちになる。それは手だけじゃなくて、俺に寄りかかっているアイツの体全てに共通する。戦闘中はあんなにも頑丈に見えるけれど、こうやってなんでもない時に触れるとどこからどう見ても女で、そして女の子だ。背丈や大人びた容姿のせいで年齢よりは大人に見えるが、それでも俺よりははるかに年下だし、幼い存在。
    ふと頭の中に「倫理」「淫行」「教育委員会」と言った言葉がよぎる。
    いかん…とアイツが俺に触れる手をとり、それを押し戻す。

    「あんま触るな」
    「なんで?」
    「おっさんの肌なんて汚いだろ」
    「汚くてもいいよ。好きだから」
    「お前…」

    あぁ、どうしてこいつはこういうことをさらりと言ってのけるのだろうか。心臓に毛が生えているとしたらまさしくこいつの心臓だろう。きっと何をしたって止まることは無い、強靭な心臓を持っているに違いない。俺はぐらりと揺れる理性をなんとか立たせるように、心を強く持つ。

    「だめです」

    と言ってアイツの体を引き離した。
    アイツは渋々俺から離れ、そしてカップを手に取りふうふうと息を吹いてから熱いコーヒーをすする。

    「嘘と言えば。あのさ、さっきのあれ、嘘なんだ」

    そしてまた唐突に語り出す。

    「は? 何が」
    「人魚姫。好きなんだ、本当は」
    「そうか」
    「でも嫌いなんだ」
    「なんだよそれ」

    相も変わらずわけのわからないことを言う。
    好きで嫌い。そんな真逆のことが成立するのかという疑問を視線にのせてアイツを見る。ん~そうだよなあと、アイツはくしゃりと笑ってカップをテーブルに置いた。なんとも言えない表情で笑っている。悲しいとはまた違う、寂しい…でもない顔だ。たぶん、俺はコイツのこんな顔を初めて見た。いつも余裕綽々で自分に自信があって、横暴でまっすぐでかっこよくて…それにたまに見せる女の顔とも違う。

    「好きなのは、王子様を待つんじゃなくて自分から捕まえに行ったところ。そして嫌いなのは持っていたナイフで魔女を殺さなかったところ」

    相変わらず横暴な答えだ。そしてアイツらしい考えだ。

    「だからさ、もし相澤は自分が人魚姫だったらどうする? 」
    「どうするって言われてもなあ」

    あいにく俺は高校教師で人魚姫じゃない。
    自分と人種の違う誰かを好きになったとして、そこまで必死に愛せる自信はない。今でさえこんなに憶病だと言うのに、海の中しか知らない存在だったら外の世界の人間に興味すら抱かず一生海の中で暮らしているかもしれない。真っ暗な世界で、一人で。

    「じゃあさ、相澤が人魚姫で俺が王子様で、俺を助けたのは相澤なのに、うっかり者の俺が相澤に似た別の男に恋をしたら?」
    「とりあえずぶん殴ってやるよ」
    「どっちを」
    「お前を」

    想像しただけではらわたが煮え返りそうだ。持っていたマグカップの取っ手をぎゅっと握ってしまう。でも…

    「でも、お前がそいつを好きなら俺はきっとなんもできねえよ」

    ぽろりと本心が漏れた。アイツは意外そう、という顔をして俺のほうをじっと見る。俺はそんなアイツの顔が見られたのが少し嬉しくて、口の端を上げて笑った。別にアイツの気持ちを大事にしたいとかそういうことじゃなく。本当にただ純粋に、アイツが他の誰かを本気で好きなら俺はきっとなにもできないし、何かをしてアイツの幸せを壊してしまう ほうが怖い。人魚姫もきっと俺と同じだったのかもしれない。
    臆病者だから、何かを踏み出すよりも今ここにある幸せを、すくなくともそう錯覚できる暖かさを後生大事に抱えてしまう。
    でも俺とお前はきっと違うから。俺が後生大事に抱えている小さな石ころみたいな感情なんて、お前の歩む道の上では本当に些細なもので、あってもなくてもきっと何も変わらない。だとしたら無い方が良いに決まっている。

    「俺が人魚姫だったら、お前の心臓は貫けない。」

    アイツの手を取り、俺の胸にこつんと当てる。

    「だけど、もしお前が人魚姫だったら、間違いなく俺の心臓を突き刺すんだろうな」

    白くて細い手はまるでナイフのようだ。もしかしたらこいつはこの手で誰かの心臓をえぐったことがあるかもしれない。自分から血にまみれる生き方をする女だってことは、この短い期間でよくわかった。強くて脆くて凛々しくてそして自由。誰にも縛られず、どこに行くにも自由なこいつはやはり俺には荷が重すぎる。俺が人魚姫だったら端からお前なんて諦めている。

    でもきっと…

    「ばぁか。お前のハートはもう俺が撃ち抜いてんだよ。ばきゅん!」

    俺の不安なんて吹き飛ばすような笑顔でアイツが、指をピストルの形にして俺の胸板に当てた。
    俺が突き放した体は、ふと気を抜いた瞬間にまた俺のそばにやってきて、あまりの近さに触れていないはずの腕や体からもほんのりと体温が伝わってくる。 そして慣れた仕草でウィンクをする瞳を間近で見るとキラキラと光を反射させている。宝石のようだ…なんて比喩は古臭いかもしれないが、それでも俺にはまるでエメラルドかブルートルマリンのように見える。
    キラキラとしていて、決して手が届かない存在。

    もしも、俺かお前のどちらかが先にこの世界から消えるとしたら俺なんだろう。俺が泡になって消えた世界のその先でも、お前は今みたいに笑って、輝いているんだろう。

    そう思っていたんだ。俺は。


    ──…


    「がはっ!!!」
    「由利音ちゃん!!」
    「どうした!?大丈夫か!?」

    ミッドナイトさんとマイクが倒れるアイツに駆け寄る。一瞬目を離した隙に、さきほどまでいた敵たちがひゅうと風のように消えていく。
    そして俺たちの目の前には呼吸をするたび口から大量の血液を吐き出すアイツ。敵の個性を浴びたのはここにいる全員だが、アイツだけが突然苦しみだした。その様子を見て俺はどうしていいかわからず何度も「大丈夫か」と声をかける。どう見たって大丈夫なわけがない。それでも、こいつならきっと大丈夫なんじゃないか、なんとかしてくれるんじゃないかという甘えが俺の心にはあった。


    数時間前のことだ。
    公安からの緊急の呼び出し大型の敵を中心にした大規模的グループが郊外の施設を襲撃したとの連絡を受ける。それだけの規模をみすみす見逃していたのかと、連絡を受けた電話で反射的に文句を言ってやったが、どうやら予想外の個性を持つ敵がいるらしい。話を聞いてもぴんと来なかったが、今、目の前でこいつが大量の血を吐き出している姿を見て、その恐ろしさを目の当たりにする。

    『さきほどの敵の個性の影響のようです』

    コイツをサポートしている高性能AI<コンピューターと呼ばれている>が淡々と事実を語る。

    「でも、俺たちはなんともない…なんでコイツだけ…!」
    『簡単に言いますと、強い力を持つ人にだけ発動する個性です』
    「なんだよそれ…」
    『そして、臓器が破損し続ける個性です』
    「ごほっっ!!!!!! げほげほ!!!!!」

    また一段と大きく咳き込み、俺が手を添えている背中が大きく動く。
    臓器の破損。頭では理解できるが、一体コイツの体内で何が起きているのかが全く理解できない。そしてその間も水鏡の口からはとめどなく血液が吐き出され、ついには足元に血の水たまりが出来てきた。治癒能力を持っているこいつは、普段であれば大きな傷を自分で治すことができる。"普通の傷"ならば 直せるはずだ。でもそれができていないということは、可能性としては2つ。
    まず単純に治癒能力自体を跳ね返す何かが仕込まれている。ただ、これはかなり高度な技になるから、その辺の敵がそんな個性を所持しているとは到底思えない。
    そうなると、可能性は一つに絞られる。

    「ち、ゆが…ごっほ!!!! 全然追いつか、ねっ……おえっ!!!!!」
    「おい! くそっ!!!」

    ついには口から内臓の破片のようなものまで出てきた。血を吐きすぎてアイツの身体ががくがくと震えだす。触れる肌にいつもの温もりはなく、まるで死にゆくように冷たくなっていく。
    そう、単純に破壊の規模やスピードがこいつの治癒能力よりも速いということだ。どれだけ治してもそれより早いスピードで臓器が崩壊しているのだとしたらイタチごっこにしかならない。 おそらく心臓や肺など生命維持活動にクリティカルな影響を及ぼす臓器を保護して、消化器系はもうあきらめているのだろう。アイツが俺の肩に身体を預けながら必死に歯を食いしばっている姿を見て、そう察した。

    「何か方法は!? こいつを助ける方法がなんかあんだろ!!!!」
    『この個性を使った敵がこの場にいない以上、セオリー通りの個性解除はできません。なので強制的に助けることになりますが…』

    コンピューターが一呼吸置く。

    『──相澤先生、覚悟はありますか』

    機械の声にそう聞かれ、俺は一体それがなんの覚悟かなんて考える余裕はなかった。目の前で苦しんでいるこいつが、今にも死にそうなこいつが助かるならなんだってする。そう思って

    「あるに決まってんだろっ!!」

    と叫んだ。
    すると機械の声は、一瞬何かを考え、そして俺に告げた。機械でも躊躇をするのだと、俺はあとになってこの一瞬の間の意味を知った。


    『では、アナタが持っているそのナイフで、我が主の心臓を貫いてください』

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    ソルティー

    MENU2323/6/25 JUNE BRIDE FES 甘いヴォイスに目で合図
    新刊 イベント価格500円(2冊組/86P)
    ※イベント終了後に通販あり

    現パロ
    モデルのマイクちゃん×物理教師の相澤の話です。
    四季とごはんネタ。
    ふたりごはん秋夜22時半。
    それほど大きくない通りのそれほど綺麗でもない、こじんまりとした中華料理屋の暖簾を二人の男がくぐる。
    「いらっしゃいませ~。あら、こんばんは」
    「ども」
    「まだ時間大丈夫?」
    「大丈夫よ。あと10分待ってお兄さんたちが来なかったら閉めようと思ってたとこだけど」
    うふふ、と笑いながら女将さんは油で少しべたつくカウンター席を年季の入った布巾で拭き続ける。

    仕事が早く終わった日は二人そろってこの店に来るのが日課になっていた。
    同棲して早三年。引っ越してきた頃は今より忙しくなかったこともあり、二人でよく近所の飲食店を開拓していた。ちょっと小洒落たイタリアン、大人気ラーメン屋、少しお高めな焼肉屋などなど。色々と食べ歩いた末に落ち着いたのが、ここの中華料理屋だった。かなり年季の入った見た目で、隣の新しくできたラーメン屋と見比べると一瞬入るのを躊躇してしまう。しかし、逆に言えばそれでもこの地で長年店を構えることができるのというのは、それだけ美味いということであり、自分たちのようにこの店を気に入って足繁く通う客がいるということなのだろう。
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