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    前回から2ヶ月経ちました。
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    前回→ https://poipiku.com/6455587/8052749.html

    #Ikeshu

    王子様とバレンタイン「違う、そうじゃない」
    「んえ...、温めるんだから強火で良くない?」
    「いっきにしたら焦げるでしょ、これで何回目なの」
    「...」
     ぐるぐるとボールの中でチョコレートを鍋で温めながら溶かす。普段だったらこんな事はしないけれど、明日は2月14日バレンタイン。浮奇共に明日プレゼントするためのチョコレート作りをしていた。...どうして、こうなっちゃったんだろう。



     遡ること1週間前。その日は朝に買った雑誌を開き、バレンタインチョコレート特集を見ていた。バレンタインだからといってチョコ作る予定はなく、フェアが終わった後に安くなっているチョコレートを買うのが例年のバレンタインだ。だが今年は弟が受験生。チョコレートが好きな弟のために、少しいい物を当日に渡してあげようと情報収集していた。ここのチョコは美味しそうだけど値段が可愛くない、この店はお手頃値段だけどちょっと遠いな、んー、チョコミントはダメでしょ。うんうん唸りながら考えていたら気付けば下校時間。やばい、早く帰らなきゃ。鞄の中に乱雑に詰め込んで教室を飛び出した。

    「あっ、あぶない!」
    「え?...わっ!」
     今日は晩御飯担当だったな、なんて考えながら階段を降りていると下から声をかけられたと同時に足に何かが引っかかり前へと倒れる。めをぎゅっと閉じて衝撃に耐えようとしたが
    「...シュウはよく僕の胸に飛び込んでくるね?」
    「あー、はは...。ごめんね、アイク」
     想像していた痛みは身体には来ず、ぼすんっと何かに衝撃が吸収された。恐る恐る目を開けると優しい表情をしたアイクが僕を受け止めてくれていた。アイクはぽんぽんと頭を撫でてから僕を解放してくれた。
     アイク・イーヴランド。同じ学年で隣のクラス男の子。笑顔が眩しくって誰にでも優しく接してくれるから学園の王子様って言われている。どうしてだかわからないけど、最近僕のことが気になるようで、僕を見つけるたびに話しかけてくる。
     アイクは僕を離した後、床に散らばった鞄の中身を拾ってくれた。どうやら転けた時に全てばら撒いたらしい。彼に全部させるわけにはいかず、僕もしゃがんで落としたものを拾っていくと隣でっと変な声が聞こえ、隣を見るればチョコ特集をした雑誌をアイクが手にしていた。
    「...チョコ、あげるの?」
    「うん...?まぁ。今年はいいのあげたくって調べてたんだ」
     アイクから雑誌を受け取ってペラペラとページをめくって付箋をつけたところを指差す。学校からも近く、学生でも手を出しやすい値段でとても美味しそうな店。
    「...、誰にあげるの」
    「へ?」
     誰にって、弟にだけど。もしかして高校生にまでなって弟にあげる姉って変なんだろうか?
    悶々と考えているとアイクは雑誌を持つ僕の手を掴んで下にさげ、じっと僕を見つける。
    「...男?」
    「お、とこ...だけど...」
    「ふぅん...」
     少し不機嫌そうな、どこか悲しそうな表情を浮かべたアイク。僕の荷物を全て拾い上げると僕にはい、と手渡してくれた。ありがとうと受け取ると沈黙の時間が流れる。帰るわけでもなく、その場で何も話さずにいる時間が気まずくって僕は恐る恐る口を開く。
    「...弟なんだけど、やっぱ変?」
    「弟...?」
    「うん、今年受験だからいいのあげたいんだ。高校生にもなって弟にチョコあげるの変?」
     さっきまで不機嫌だったアイクの表情がぱっと明るくなってぶんぶんと顔を横に振る。
    「全然!全然変じゃないよ!弟さん、受験生なんだ?じゃあいいチョコあげないとね!」
     気まずかった雰囲気もなくなり、ふぅっと息を吐く。鞄を持ち直し、そろそろ帰ろうかと歩みを進めるとアイクも同じように隣を歩いた。どこかそわそわして落ち着きがなさそうなアイク。僕はアイクの方を向いて首を傾げると、何かを言おうとして口を開くが言えずに閉じる。何度か繰り返していたが腹を括ったようで、ぐっと手を強く握りしめて真剣な表情で僕を見る。
    「他には...、渡す予定とかってないの?」
    「んー?ないね」
     ゴンッ!と凄い音が聞こえてその方向を見ると、アイクが廊下に置かれていた机に足をぶつけて蹲っていた。大丈夫?とすぐ近寄るも大丈夫だよと返されて、先に帰るねと言われてふらふらとそのまま下駄箱の方へと歩いていった。...一緒に帰ろうと思ってたんだけど?

     次の日、学校に行くとチョコレート特集を組まれた雑誌を真剣な表情で読んでいる浮奇がいた。鞄を置いて席に着くと昨日のアイクとの出来事を思い出す。急に元気をなくしてどうしたんだろう...。ちらりと隣を見ると、たまたまこちらを見ていた浮奇と目があった。何?と言ったような表情を浮かべる浮奇に昨日あった事を話した。するとはぁーっ、と大きく溜息をつかれた。
    「シュウ」
    「な、...何」
    「週末家に来て」
    「え、なんで?」
    「チョコ作るから。絶対来てよ、逃げちゃダメだからね」
     僕は浮奇にクリスマスの事を話し、大変だったことをすっかり忘れていたのだった。どうして学習しないんだろう。

     そんなこんなで今である。浮奇のスパルタ指導を受けながらアイクに渡すチョコレートを作ることになった。僕が家族でもない人にチョコを渡すのはおかしいと思うんだけど、と抗議したが浮奇は聞く耳をもっていなかった。
    「クリスマス一緒に過ごしたのに?プレゼント貰ったのに?知らない間に名前で呼び合ってるのに?学校帰り時間合えば一緒に帰ってるのに?」
    「あー!あー!ごめんなさい!僕が悪かったです!作ります!」
     浮奇を敵に回すのはこりごりです。



    「...何度やっても焦げるの、意味がわからない」
    「燃やすのは得意だよ」
    「自慢げに言うな」
     もう数えるのも恐ろしいほどチョコ作りに挑戦し、その度に焦がしてきたチョコと思わしき物の残骸が窮屈そうにボールの中で悲鳴をあげている。最初は強火で失敗し、浮奇に言われた通りに弱火で少しずつ溶かしてたはずなのに何故だか焦げる。これはもう才能と言っても過言ではなかった。
    「...別に手作りじゃなくてもいいと思うんだ。買った方が美味しいし。それにアイクは僕以外からもチョコは貰えると思うし、僕の下手くそなの貰っても困るだけだよ」
    「...、今ここで作るのやめるって言っても止めないけど。それで後悔しない?他の女からチョコ貰う王子眺めるだけでいいの」
    「いいもなにも、アイクはきっと囲まれるだろうから目には入っちゃよ」
     最近あんまり目にしてはいなかったが、彼は学園の王子様、女生徒が周りに集まるのである。バレンタインデーはさぞ凄いだろうな、可愛い女の子たちがこぞっておしゃれにラッピングした手作りのチョコを持ってくるんだろうな。...全部食べ切れる?チョコは美味しくて好きだけどいっぱいあったら飽きちゃいそう。
    「あー、そうだね。アンタはそっち側だった。言い方変えよう。シュウが作ったチョコを王子が受け取った想像して」
    「アイクが、僕の作ったチョコを...?」
     アイクは優しいから、僕の歪な形のチョコも喜んで受け取ってくれるだろうな。いつもみたいな王子様スマイルで。...いや、違うな。僕の前で彼は王子様しない。きっとキラキラと目を輝かせ、心底嬉しそうな表情浮かべて受け取ってくれる。手を握られ、両手がちぎれそうなほどぶんぶんと手を握りしめて縦に振りそうだ。そんなアイクを想像すれば自然と口角が上がってしまう。
    「答え出た?」
    「あと一回、頑張ってみる」

    「で、できた...」
    「ちょっと形は歪だけど、まぁまぁなんじゃない?」
    「あとはラッピング...」
     浮奇が準備してくれた包装紙を机に並べる。色、柄共に豊富な品揃えでどれにしようか悩んでしまう。やっぱりバレンタインっぽくピンクにすべきか、それとも可愛らしい柄のついたものにすべきか。うーんと悩んでいるとぱっと目に入ったのは何も描かれていないシンプルな青い包装紙。それを手に取り、綺麗に包んでいく。仕上げに紫色のリボンを取り出して軽く巻き付けて完成。
    「そんなシンプルでいいの?もっと可愛いのとかあったけど」
    「これでいいんだ。この色見てるとアイクを思い出して。これしかないと思ったんだよね」
    「そ。満足してるならそれでいいじゃん。明日が楽しみだね」
    「うん」



    「早く行きなよ」
    「僕をあの戦場に送り出さないでよ...」
     バレンタインデー当日。自分の中では一番上手くいったチョコを持ってアイクの教室へと浮奇と共に向かった。教室の前には人だかりができていてみんな手にはチョコレートを持っていた。アイクだけではなく、アイクの友達も女の子たちに人気だからみんなアイクたち目当てで、時間も限られているせいか我先にと犇めきあっていた。
    「シュウが行けば王子は喜んで来てくれるって」
    「みんな先に来てたのに順番抜かしちゃダメでしょ」
    「こんな状態じゃ誰が先に来てたかわかんないでしょ、早く行かないと休み時間終わるよ」
     それもそうなんだけど...。時計を確認すると昼休みはあと10分で終わってしまう。早く渡さないと次の授業の準備ができないし、そもそも授業に遅刻してしまうかも。それは困るなぁ...。ふぅ、っと息を吐いてチョコを持っていない方の手をぎゅっと握り締めた。
    「よし、行ってくる...!」
    「いってらっしゃい、頑張ってきて」

     少しずつ、少しずつ前へと足を進める。授業まであと5分のところでやっと窓の近くまで来れた。早く渡して帰らないと...!もうちょっとだけ前にと身体を動かした時にチョコを渡す女の子とアイクの声が聞こえた。
    「アイクくん...!これ、受け取ってほしい!手作りなの、気持ち込めたから食べてもらいたいの」
    「...ありがとう、でもごめんね?これは受け取れないや」
    「どうして...?」
    「手作りは受け取らないようにしてるんだ、ごめんね」
     ガンッと頭を殴られたような衝撃が走る。手作り、ダメなんだ。アイクに受け取って貰えなかった女の子は涙目になりながら教室を出ていった。周りの女の子たちもひそひそと話している。
    「アイクくん、手作りは受け取らないって前々から言ってたのにね」
    「自分の気持ち優先しすぎでしょ」
     女の子たちの言葉に僕は、前に進めていた歩みをとめて来た道を戻っていった。僕が渡す気になってただけでアイクに欲しいかどうかなんて聞いてなかったな。そもそも僕はアイクが手作りがダメだなんて知りもしなかった。彼のことを何も知らない人間がこのイベントに参加していいわけがないんだ。
    「渡せた?」
    「いや、時間的に無理でしょ。戻ろう」
    「シュウ、いいの?」
    「いいよ、授業始まっちゃうよ」
     僕たちは急足で教室へと戻った。鞄にチョコをいれ、上から教科書やポーチを詰めて奥底に仕舞い込んだ。午後からの授業は何も頭に入ってこず、気付くとホームルームだった。


     ホームルームも終わり、帰る気にもなれずに教室の外に視線を向けてぼーっと眺めていた。朝、学校に来る前はなんだかわくわくとした気持ちだったのに、帰る頃にはどん底まで落ちた気分だった。...別にあの子のように本命チョコを受け取って貰えなかったわけじゃない。僕のは本命チョコではなく、義理か友チョコかと聞かれればどちらかといえば友チョコとかいうそのレベル。そもそも渡すという土俵にすら立っていない。なのに。どうして?僕の気持ちはこんなにも暗く重たいんだろうか。...帰ろう。もう下校時間だ。重たい腰を持ち上げて僕は教室を出た。

     チョコ、どうしよう。せっかく作ったし捨てるのは勿体無いから自分で食べるか。弟に食べさせるのはなんか嫌。...アイクに食べて欲しかったもん。
    「...っ、シュウ」
    「え、あ、...っと」
     噂をすればなんとやら。噂じゃないけど。アイクのことを考えながら階段を降りていると下に現れ、吃驚して階段を踏み始めそうになり、手摺をぐっと掴んで何とか阻止した。
    「今日は飛び込んできてくれないんだ?」
    「毎回君に飛び込むと思う?僕は学習するんだよ」
     沈黙が流れる。何も話さない時間がこんなに苦しいものだとは知らなかった。
    「...あのさ、シュウ」
    「何...?」
    「ハッピーバレンタイン。これを、君に」
     アイクは鞄から箱を取り出して差し出してくる。受け取ったピンク色の箱はハート型に繰り抜かており、中身は同じピンク色の花が敷き詰められていた。
    「これ、は?花?」
    「石鹸だよ、ソープフラワー。入浴剤にもなるものだから飾るのに飽きたらお風呂に入れてよ」
    「...貰っていいの?」
    「君のために買ってきたんだ。貰って?」
    「僕何もあげてないのに?」
    「僕があげたいから。海外では男から花を送るんだよ。この前調べたんだけど、スウェーデンではハート型のものを贈るんだって。だから、これにしたんだ」
     もう一度、アイクは貰ってほしいと箱を持つ僕の手を上から重ねた。真剣な表情を浮かべるアイクから目を逸らし、そのまま箱へと移動させるとこくんと小さく頷いた。
    「あ、のね...。僕も、君に持ってきてたんだ」
    「え?」
     鞄の奥底に眠らせた筈だった箱を取り出した。少しだけ教科書でへこんでしまったチョコの入った箱を震える手でアイクに見せる。
    「ごめんね、手作りダメだなんて知らなくって...。また今度、買って渡すよ」
    「え、まって。欲しい。シュウが作ったの?それなら尚更欲しいんだけど」
    「え?けど、手作りはごめんって断ってたじゃん」
     あ〜...とアイクは斜め上を見上げて頬を掻く。少し言いにくそうにする彼はポツポツと話し出す。
    「手作りの本命チョコはね、好きな子の受け取っちゃダメだって言われたんだよ。それに何が入っているかわからなくて危ないからって友達が」
    「...僕のは本命チョコじゃないよ?」
    「悲しいけど知ってる。...、けど絶対僕が本命にしてみせるから。これは先に受け取っとく」
     アイクは僕の手から箱を取り、大事にするねっと鞄の中にしまった。大事にしなくていいよ、早く食べてと返すとそれもそうかと笑った。その笑いが終わるとまた沈黙が流れる。なんだか気恥ずかしく、じっと立っていられなくってそわそわと身体を動かしてしまう。するとアイクが口を開く。
    「...シュウ、お願いがあるんだけど」
    「10秒だけ...、恋人になる?」
    「...うん」
    「どうぞ、...今回は15秒あげる」
     僕が両手を広げるとアイクは吸い込まれるように腕の中に入り、そのまま腕を背中に回して抱き締められる。今回は僕も同じように背中に腕を回して。階段1段登った状態だと前回よりも顔の位置が近く、アイクの頬が僕の頬に触れてどきりと心臓が煩く鳴り出した。やめて、アイクに聞こえちゃうから、そんなに大きな音を立てないで。
    「どうしてそんなに可愛いの...」
     アイクは少しだけ身体を話すと僕の頬に手を添えて、親指で下唇をゆっくり撫でる。軽く2、3度ふにふにと唇を触ってから離れていく。
    「...契約違反じゃない?」
    「判子は押した記憶がないね」
    「...次までに契約書書こう」
     アイクにもう触れられないように唇を両手で塞ぐ。じーっとアイクを睨みつけていると、ふはっと笑って僕の目をアイクの手で塞いだ。
    「な、なに...?」
    「ちょっとだけ、延長」
     何をされるのかと身体を強ばらせていたが、意外と何もされることなくすぐに離れていった。恐る恐る瞼を上げると、目の前でほんのり頬を染めたアイクが目を細めて微笑んでいた。久々に浴びた学園の王子様スマイル。だけどこれは、...僕だけに向けた、今のところ僕しか見られない、笑顔だ。本当に心臓に悪い。一段、階段を登っているせいか身長差はほぼなく、いつもよりも顔が近くてとくんと心臓が高鳴る。この笑顔を見ると、僕の心臓は誰かに握られているみたいにきゅうっとなるからやめて欲しい。
    「シュウ、帰ろうか」
    「うん...」

     とんっと階段を1つ飛び降りる。降りたことでいつももの身長差に戻り、少しホッとする。僕はアイクの隣に立って廊下を歩いた。いつもならばなにかと話をして帰るけど、今日はお互い何も口にする事なく、ただ隣に立って歩くだけだった。学校の敷地を出て駅へと向かう。アイクとは帰る方向が逆だけど、いつも駅まで送ってくれるから今日も何も言わずに駅へと歩みを進めた。角を曲がったところでアイクの手の甲が僕の手の甲の触れる。少し近すぎたかも、そう思って距離を取ろうとしたらアイクに手を掴まれる。驚いて手を引きそうになるがアイクがそれを許さず、何度かお互いの手を絡め合わせて手を繋ぎ直された。
    「アイク、僕今日高い靴じゃないよ」
    「知ってる」
     たった一言だけ返され、アイクはそのまま会話をやめて歩みを進める。勿論手は離されているわけもなく、はたから見ればまるで恋人のように、手を繋いだまま僕たちは歩いた。離してよと言えばきっとアイクはすぐに手を離したと思う。だけどこの時の僕はそんな言葉を出さなかった、ううん、その言葉すら頭に思い浮かばず、ただ繋がれている右手の熱を感じるだけだった。
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