夜更かしのスパイス (ロコツ+シャッコ+ラフラフ+カレンデュラ)「はいはい、お借りしますヨ~っと」
からからこっそり、囁く人影。
時刻は恐らく午前1時。
ぱちん、と事務所の明かりがついた。
黒鬼とは称するけれど別に(まあ代表は奔放だが)ブラックじゃあないので、
事務所は無論、がらりと無人。
すうすう寝息を立てる相棒を、そっとテーブルに寝かせる。
寒くないように、黄色い『おくるみ』もばっちり。
愛用のマグカップ、小さな器を用意するのは黒鬼一派の用心棒。
『折れない』スケルトン、"肩透かし"のロコツ。
「ええと……どこやったっけナ、インスタントのやつ」
台所のパントリーをごそごそ漁り、お目当てのものを探る。
ああ、あったあった、ちびラーメンお徳用。
大袋から、二つほど個包装の乾麺を取り出す。
既に味付けがなされている、便利なおやつ。
マグカップと器にひとつずつ、中身を空ける。
シャッコはとっても鼻が良いから、匂いで起きることも踏まえて。
更にロコツは、台所の調味料入れを見て思案する。
手にしたのは、エスニックな香りのスパイス瓶(謂わばカレー粉だ)。
それをぱっぱと二、三振り。
これだけで身体ぽかぽか間違いなし。
さてお湯を沸かそうか。
小鍋に水を注ぎ入れたところで、黄色いおくるみがもぞっと動く。
『む……ロコツよ、眠れんのか』
「ん、ちょっとお腹空いちゃったんだよネ」
流石はグルメなスケル豚、微かなスパイスでもそりとお目覚め。
ホッカ石台の上に小鍋を置いて、沸くまで暫しのお戯れ。
まだ眠そうな相棒を優しくやさしく撫でほぐし、
小さなあくびが可愛らしい……
「つまみ食いいけないんダー!」
凛と可愛い少女の声。
事務所の机の影に、ちょんちょんひょいと白いおめめ。
そのままぬうっと形を成せば、愛らしい白髪の少女がにっこり。
「あちゃァ、起きてたのかラフラフちゃん」
「お散歩から帰ってきたんだヨ~♪
それでロコツ、何作ってるの?」
「そうだネ、ちょっと待ってて」
食器棚から、パントリーからもうひとつ。
合計三つの『お夜食』セットができあがった。
「ねえラフラフちゃん、"取引き"しよっか」
「取引き?」
「ラフラフちゃんの分も作ったげるかラ、この事は内緒で───」
「お湯が沸いてますわよ、ロコツくん」
はっと二人が振り向けば、今度は羊角の美しい悪魔。
彼女はにこ、と笑って小鍋を火から降ろした。
「たはーっカレンちゃんまで!」
「だって気配がしたんですもの、ふふ。
シャッコくんはお眠かしら?」
『むぅ……、もう目は覚めたわ、巻き角銀悪魔』
「声がねむそー」
さてロコツくん、とカレンデュラが向き直る。
なんとなく次の言葉の察しがついた。
「───貴方の言う"取引き"、私も気になりますわね?」
四つの『お夜食』を口にしながら、夜更かし組はくすくす笑う。
こんなの代表にバレたらオカンムリだね、と。
翌朝揃って寝坊して、違う意味で怒られて。
ふわと香ったスパイスに、シュガーが首を傾げたとか。
〆