短編集供養「そろそろ付き合うか」
なんでもない事のように、彰人が言った。しかし、私は目も口も開いた状態から動けなかった。
「おい、聞いてんのか?」
不機嫌そうに彰人がじろりと睨む。さっきの台詞の直後にその顔か、と思ったけれど口にはしない。
「き、聞いてたけど、え、彰人、私の事好きだったの?」
付き合う、という言葉は、そういう意味にしか捉えられない。私は彰人が好きだったし、それを隠す気もなかった。しかし、彰人はあくまで私を友人として見ているものだとばかり思っていたのだ。よくうるさいと怒られるし、雑に扱われているから。
「そうじゃなけりゃ、こんな事言わねえだろ」
彰人の眉間の皺が深まる。
「それはそうだけど……」
気持ちに応えてほしいとは考えていなかったので、私は面食らっていた。諦めていたというより、片思いでも十分楽しかったからだ。他に恋人でも出来たら別だろうが、そんな気配もなかった。
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