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    akimiya_s

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    akimiya_s

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    颯マリ前提、陸上部モブ先輩とモブ後輩が颯砂くんに嫉妬したり、羨んだり、褒めたり、理解を示す話。
    颯砂くんは後輩に慕われててくれ、という願いで書いたもの。

    モブ後輩視点。

    颯マリはしゃべりません。ちょっと姿見せるだけ。

    サッサくんの活躍が眩しくて悔しい同級生とその後輩の話 僕の通う学校にはキングがいる。
     出場したインターハイでは一年目から優勝を果たし、三連覇に最も近いと注目の、高校陸上界が誇る超有名人。
     彼を有名人たらしめる一番の理由はインハイ優勝者だからではない。八種競技という様々な種目で競う過酷な競技において、全種目一位で完全優勝するということを目標としており、実際にそれに近いことを成し遂げている人物だからである。
     加えて彼の人並外れているところは、八種競技の選手相手だけではなく、単独競技のトップ選手にもその専門種目で負けず劣らずの結果を誇ること。
     要は、インハイ出場を目指すことが精いっぱいな一般人の僕からしたら化け物みたいな人なのだ。



     はば学に入学することが決まった三日後のこと、僕と同じ中学からはば学陸上部に進学した二つ上の先輩―サッサ先輩と同学年で、インハイに一年目から出場している優秀な人だ―にたまたま街中で再会。母親ネットワークで聞いたのか、先輩は既に僕がはば学に進むことを知っていて、お茶に誘ってくれた。情報網の素早さには慄くが、進学先のことを知るせっかくの機会だ。僕はほいほいと付いていく。
    色々と高校生活について聞いていく中で、その当時既に名が知れていた”サッサ先輩”について尋ねた。すると、普段は温厚な先輩が僕の質問を聞くや否やそれまでのにこやかな雰囲気を消し去り苦々しい表情を浮かべ、イラつくやつだ、とぼそり呟いた。

    「他を圧倒するほどの超人的能力があるならいっそ、空気も読めなくて周りなんて興味ないっていう傍若無人な性格だったら、才能だけの嫌な奴と思えて気が楽だった。けど、あいつは誰よりも敏い。周りがあいつに抱く負の感情やその空気感も敏感に察する。そして、気にする。そのうえで、自らの振舞いを許してもらおうと、馬鹿なフリして周りの雰囲気は分かりませんって我を通そうとする。……そんなことうまく演じられるほど器用でもないくせに、だからドツボにはまるんだ」

     まくしたてるように溢れる言葉を、僕は黙って聞いていることしかできなかった。先輩の言葉は、サッサ先輩を責めているようで自身を攻撃する言葉にも聞こえたから。

    「……あいつが雁字搦めになのを分かっているのに、嫉妬で手助けしてやれない自分にも、歩み寄ることを諦めてあいつを遠巻きに、悪者扱いで見る周りも全部イラつくんだ」

     ただただ、先輩を見つめることしかできない僕に気が付いたんだろう。先輩はフッと自嘲気味に笑うと、入学前の奴に聞かせる話じゃないな、と言った。



     四月になり、はば学に入学した。
     僕は、件の先輩に誘われるがまま陸上部へ入部したが、想像していたよりも随分と気楽な雰囲気で、正直拍子抜けした記憶がある。練習自体はハードで厳しいと感じることもあるが、比較的部員同士の仲も良く居心地がいい。
     噂のサッサ先輩も、先輩の話とはだいぶイメージが違い、いい先輩だ。
     積極的にアドバイスをくれるわけではないが、求めれば快く的確な指導をしてもらえる。それに、競技に向き合う姿勢はストイックでシンプルにカッコいい。才能にかまけず、努力を惜しまないところも僕たち後輩からは好感度が高かった。




     夏がだんだん近づいてきて、じりじりと太陽が照りつける暑い日だった。アスファルトは熱されて、上からも下からも炙られる気分を味わいながら走ること五㎞。
     校外ランニングから戻ってきてへばっていた僕に、陸上部マネ特製ドリンクを手にした先輩が近寄ってくる。ベンチに座り込んだまま先輩に挨拶を返すとほらよ、とボトルを投げてよこすので、僕は慌てて手を伸ばした。

    「わっ! あざっす」
    「おう」

     先輩はどかりと僕の横に座ると、グラウンドの端で基礎トレをしているサッサ先輩を目で追っていた。隣にくるなら、ドリンクを手渡ししてくれれば良かったのに。割と雑なところがある先輩だ。

    「で、どう?部活慣れた?」
    「中学の時より断然キツイですけど、その分充実してて楽しいっす」
    「そっか、良かった。……俺さ、お前の入学前にくだらないこと言ったろ?すげぇ後悔してたの」
    「くだらないこと?」

     僕が聞き返すと、先輩は頭をがしがしと搔きながらあー、と短く呻いたあと、声のトーンを下げてしぶしぶと話し始めた。

    「ほら、サッサのこと聞かれたことあるだろ」
    「あぁ、入学前っすか」
    「そう。あの時さ、俺怪我明けでタイムが出なくて焦ってた時期なんだ。それでピリピリしてて、いつでも順風満帆のあいつが妬ましかったんだよなぁ。だからといって、あんなこと後輩にぶちまけるだなんてくっそダサいし情けないけど。そもそもあいつも順風満帆なんかじゃないんだよなぁ」

     先輩は足を投げ出すと空を仰いだ。

    正直言って、僕には先輩ほど競技に対する熱もなければ才能もない。僕の同級生に超人がいたとしても、先輩がサッサ先輩に抱いたほどの焦りを感じないだろう。だって、負けて当然だという気持ちが先に来てしまうから。諦め根性だけは立派なのだ。
    一方で、先輩は真剣に競技に向き合っている人だ。それゆえ、身近にずば抜けた才能があればその人を妬む気持ちを持ってしまったとしても、それは恥ずべきことだろうか、と僕は思った。自身でそれを自覚して、かみ砕けるだけで、十分じゃないか。まあ、嫉妬で目の敵にされるサッサ先輩からしたらいい思いじゃないかもしれないけれど。それに、頑張らずに結果だけを見て他人を羨む人は論外だが。

    「余裕なくなるって怖いよな。自分の問題でも、他人のせいにしがちになる」
    「今は、どうですか?」
    「俺?大会に向けて絶好調だよ~。だからって訳じゃないけど、ドロドロな気持ちも大分和らいだかな。まあ、変わったのは俺だけじゃないけど」
    「? 他に誰が変わったんすか」
    「サッサ」

     先輩が指差した方向に顔を向けると、トレーニングをしているサッサ先輩にかけよるマリィ先輩の姿。
     僕が先輩にもらったように、サッサ先輩はマリィ先輩からドリンクを手渡されている。遠くから見ても口元がゆるゆるなサッサ先輩は水分補給を終えると、マリィ先輩を誘って一緒にトレーニングを再開した。マリィ先輩もすごく楽しそうだ。

    「ほら、あれ。サッサくんの春だ。面白いぞ。マネ相手にあたふたしたり、デレデレしてるとこ見ると、サッサも俺らと同じ人間だったんだなぁって思える。」
    「ほお……?」
    「うちのマネージャー、サッサに劣らず中々ツワモノで。周りの雰囲気にのまれずに、ずっと俺らとサッサの間に立ってサッサを支えてた人なんだ。そんな彼女に影響されてか、根本は変わらないけど妥協できるところは譲ってくれるようになった。……でさ、そんな女神様のこと、サッサはすんごい意識してんの。もう、本当に愉快で仕方ない。サッサだけにさっさと告白しちゃえばいいのにな、ははは」
    「先輩・・・おやじギャグサムイっす」
    「ハァ?超ウケるじゃん」

     そのギャグ、一ミリも面白くない。僕の先輩も少し変わっているのだ。何らかの分野で活躍する優秀な人というのは得てして凡人とは異なるものなのかもしれない。

    「まあ何がともあれ、もう知ってると思うけどサッサは後輩からしたらいい先輩だと思うぞ。才能にかまけず、周りの意見ガン無視してまで競技に没頭する集中力と姿勢は、正直腹が立つこともあるけど、俺も見習うべきところがあると思ってる。それに、あいつの指導って的確だろ?」
    「確かに。いつもいいアドバイスもらえます」
    「な?すごいよなぁ。俺、色んな面であそこまでできないもん。たまーに、難しい本も読んでるしな」

     やっぱ、俺にはまねできないよ、と先輩は吹っ切れたように笑う。その横顔は、サッサ先輩に負けずカッコいい。

    「……自分の全てを捧げて掴む頂きってどんな景色なんだろうな」
    「想像もつきませんね」
    「だよなぁ。あー、悔しい。必死でもがいて喉から手が出るほど求めているものをあいつは手にしてるのに、それじゃ足りないって俺たち以上に鍛錬を重ねて、より高みを目指す。才能もあるのに努力をされちゃ打つ手ねぇよな」

     先輩は眩しそうにサッサ先輩とマリィ先輩を眺める。
     サッサ先輩に対する苦しい気持ちは、もちろんまだあるんだろう。けれど、ある程度心の整理を出来たんだと思う。今の先輩は言葉とは合わないすがすがしい表情をしている。

    「俺、先輩のこと、やっぱり尊敬してます」

     思わず、声が漏れていた。誰もが、強くいられるわけじゃ、望む通りの結果が出せるわけではない。どんなに努力したって、頂点を手にできるわけではない。それを突きつけられた時、諦めずに突き進める人がどれだけいるだろうか。
    先輩は、照れたようになんだよ急に、と言うと僕の背中をバシンと強めに叩き立ち上がる。

    「俺らもこのニ年ちょっとで大分成長して、ただ他人を妬むだけじゃなくなった。サッサもサッサで、歩み寄ってくれようとしてるから部内の雰囲気はそこそこ良くなってる、と思う。お前は後輩として俺たちの良い面と悪い面、たくさん勉強して俺たちを越えてくれ。俺、お前には期待してるんだ」

     先輩は悪い顔をして面白いからサッサとマネの恋物語も見守ろうな、と笑うと先輩は去っていった。

     先輩が去っていた方向とは別の、サッサ先輩とマリィ先輩に視線を戻すと二人は和気あいあいとトレーニングに励んでいた。マリィ先輩が疲れて動けなくなるとサッサ先輩は重めの筋トレ、またマリィ先輩が復活すると一緒にできる軽めのもの。二人は今までもこうやって支え合ってきたんだろうな、ということがわかる。他人が入りこむ余地はない。
     まるでドラマか漫画の中みたいなワンシーンに、僕は先輩が抱いたものとは違う種類の嫉妬をほんの少しサッサ先輩に抱く。女マネとキャッキャウフフするとはけしからん。羨ましい。
     先輩も美人と付き合っていることを思いだした。そういえば、あの人はちゃっかり高校生活を楽しんでいる。リア充爆発しろ。……嘘だ、僕も彼女が欲しい。
     一生懸命陸上頑張って、結果出したら先輩たちみたいな彼女できるかも。僕はとても不純な理由で陸上に打ち込むことを心に決めたのだった。

     
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    akimiya_s

    MOURNING颯マリ前提、陸上部モブ先輩とモブ後輩が颯砂くんに嫉妬したり、羨んだり、褒めたり、理解を示す話。
    颯砂くんは後輩に慕われててくれ、という願いで書いたもの。

    モブ後輩視点。

    颯マリはしゃべりません。ちょっと姿見せるだけ。
    サッサくんの活躍が眩しくて悔しい同級生とその後輩の話 僕の通う学校にはキングがいる。
     出場したインターハイでは一年目から優勝を果たし、三連覇に最も近いと注目の、高校陸上界が誇る超有名人。
     彼を有名人たらしめる一番の理由はインハイ優勝者だからではない。八種競技という様々な種目で競う過酷な競技において、全種目一位で完全優勝するということを目標としており、実際にそれに近いことを成し遂げている人物だからである。
     加えて彼の人並外れているところは、八種競技の選手相手だけではなく、単独競技のトップ選手にもその専門種目で負けず劣らずの結果を誇ること。
     要は、インハイ出場を目指すことが精いっぱいな一般人の僕からしたら化け物みたいな人なのだ。



     はば学に入学することが決まった三日後のこと、僕と同じ中学からはば学陸上部に進学した二つ上の先輩―サッサ先輩と同学年で、インハイに一年目から出場している優秀な人だ―にたまたま街中で再会。母親ネットワークで聞いたのか、先輩は既に僕がはば学に進むことを知っていて、お茶に誘ってくれた。情報網の素早さには慄くが、進学先のことを知るせっかくの機会だ。僕はほいほいと付いていく。
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