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    1nu1_z

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    11月中旬にあげるべきだった
    現パロの続きのような落書きのような供養

    16:50 朝から大雨が降り続いていた。せっかくの休みだというのに。それも、有給の日に。
     仕事は好きでも嫌いでもない。人間関係も居心地も悪くないけれど、堅い仕事内容や年功序列の空気感のせいで、気軽に有給は使えない。申請も面倒で放置していたら上司に勝手に有給を取る日が決められてしまっていた。横暴だといいたくなったが、もうすぐ消えてしまう有給があるとか会社が休ませなきゃならないだとか色々言われて反論する気も理由もなくなってしまう。
     そうして意図せずに四連休が出来上がっていたのに気づいたのが、先週の水曜あたりだったと思う。

     ゼルダを誘ってどこかに遠出しようかとも考えて、ダメ元でメッセージを送ってお伺いを立てた。数時間の未読と、その半分くらいの時間の既読の後に「難しいです」と短い返信が来た。わかりきっていたことだ。
     ここ二週間ほど、ゼルダは俺に対してヘソを曲げている。
     何か俺に非があるのは間違いない。とにかく謝っても「何に対しての謝罪なんですか?」と問われ、何も言えなくなってしまう。ますます彼女は口を噤んで何も言わなくなり、やっぱり俺には何が彼女をそうさせてしまったのか今日になっても未だにわからなかった。

     なんの予定もないのに平日いつも起きる時間に目が覚めたので、冷凍食品を温めて適当な朝飯を食べた。早々に洗濯は済ませて浴室乾燥をかけているし、ゴミも捨てて掃除機もかけた。そういう「スイッチ」が入ったのでついでに水回りも綺麗に掃除した。それでも冷蔵庫の中も拭いておこうかと思った途端、全部面倒になってしまった。
     雨の日はなんだか身体が重怠い。幼い頃にはそんなこともなく泥まみれになって遊んでいたのに、年を経ると身体が錆びつくみたいにだんだんこういう不調が増えていくらしい。
     身体を動かしたいのに、雨だから外に出る気も起きない。カーテンを開け放っても薄暗い部屋の中でなんとなく筋トレをして、それなりの疲労感を味わいながら床の上に転がって数時間が経つ。さっき掃除機をかけた、少し毛がへたってきたラグに横たわって丸くなる。直に床に触れるよりマシだとはいえ、じわじわと床の冷たさが身体に染み込みこんでいく。
     エアコンをつけなきゃと思ってリモコンに手を伸ばしたところで、長すぎる夏が終わってからフィルターの掃除をしていなかったのを思い出して手を引っ込めた。
     最近は仕事から帰ったらシャワーを浴びてさっさと布団に潜ってしまうから、今シーズンはまだエアコンは使っていなかった。
     先週より前からずっと寒かったけれど、先週末は彼女は来なかった。だから俺は彼女を迎え入れられるような準備をしていなかった。
    「ゼルダが来ないせいだよ」
     呟いてみて、また気分が沈んでいく。
     今日は久しぶりに彼女が来てくれる日なのに。

     気がつくとすっかり窓の外は暗くて、すっかり眠り込んでしまったのかと焦って飛び起きた。携帯の画面は待ち合わせ時間の丁度二時間前を指していて、日の入りが随分短くなっていることを実感する。まだ雨が強く窓を打ちつけている。
     流石にこれ以上寝転がっている訳にはいかない。
     変な体制で寝転がっていたのでぎしぎし軋む肩を無理矢理ぐるぐる回してからエアコンのカバーを外す。フィルターを掃除して元に戻す。数分で済む作業だった。もう一度床に掃除機をかけながら、さっきやれば良かったのに、と数時間前の自分に文句を言う。その文句を聞く相手はどこにも居ない。そうしてやっと、彼女を迎える準備が整った。
     待ち合わせまでに時間はかなりあるけれど、適当にスニーカーを履いて、傘を持ってマンションの階段を降りる。
     冷たい空気に湿気が混じって、濡れたく無い意に反して靴の中には雨水が少し入り込んでじくじくと足を濡らした。
     大きな通りを走る車達が盛大に飛沫を撒き散らして行くのを横目に住宅街の奥に入り込んで、増水した川の向こうの細くて暗い、傾斜のきつい坂道を登って行く。
     西側の広い通りはもっと傾斜が緩くて人通りも多くて明るい。復路はそっちを通るだろう。それでも、今はこっちのこの道を通りたい気分だった。
     一歩ずつ踏み潰した雨粒の束が、もう一度小さな滝になって坂を転がり落ちる。さっき渡った川に流れ込むこともできずに、暗い排水溝へ落ち続けるのだろう。地下にはそれを受け入れる大きな空間が広がっていて、あの川は数年前の災害級の大雨でも氾濫せずに耐えきった。
     坂をのぼる二、三分は短いはずなのに延々と続くように思えた。早く彼女に会いたいはずなのに、鉛のように胃が重い。それでも昼飯を抜いてしまったせいで腹は減っているようで、空腹感から来る吐き気が胃を焼いていた。
     雨粒がけたたましく傘を叩くので、透明なビニール越しに空を仰ぐ。雨粒の向こうにはただただ分厚い雲が広がっている。
     雨は嫌いだ。いつも俺が進むのを邪魔してくる気がして。
     急な傾斜を大股で登り切り、駅前の交差点に辿り着く。
     待ち合わせの時間までは数十分あるから、バスターミナルの裏側にあるファストフードでコーヒーとバーガーを頼んで時間を潰すことにした。
     窓に面したカウンター席で、雨の中で傘の群れや光の川が移動するのを見つめる。
     ゼルダに会うまでに、何に彼女が怒っているのか、俺はちゃんと考えておかなくちゃならなかった。十分に考えているつもりだったけれど、多分それでは足りないのだろう。
     ここ数週間、そうやって悶々と悩みながら、悪夢を見る日が増えていた。
     彼女が俺に怒るのは、例えば俺がデリカシーが無いことを言ってしまったとか、楽しみにしていた予定を仕事のせいでキャンセルしてしまったりとか、食事のマナーができてないとか、その場で具体的に怒ってくれるから、俺の非がわかりやすかったりするものだ。だから俺はその度に反省しきってなるべく同じことを繰り返さないようにしてきた。
     マメな方だから、記念日を忘れたりもしていないつもりだった。
     でも、もし忘れたりしたら彼女はこうやって怒るのだろうか。俺が思い出すまで。
     もし俺が大切な約束を、忘れてしまったら。
     そんなことがあったらと思うと、コーヒーの味がわからなくなってしまった。
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