Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    nanayuraha

    @nanayuraha

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 47

    nanayuraha

    ☆quiet follow

    これは、圧倒的に言葉が足りないテメノスさんによるクリテメ的な何か。

    クリック君が、私を抱き締めて離さなくなりました。一刻も早く、誰かどうにかしてください。

    「おーい、クリック君。いきなり訪ねてきたと思えば、これはどういった状況ですか?」
    「……。」
    「子羊くーん、いい加減返事してくれませんかねぇ?」
    「………。」

    子羊くん呼びにも反応を示さない彼に、私は途方に暮れていた。何時もなら、僕は子羊ではありません!って即座に返ってくるというのに。
    本当に、いきなりだった。失礼します!という大声と共に、蝶番が歪んだのでは?と思う位にバンッと勢い良く開けられた部屋のドア。物凄く怖い顔をしている彼にどうしたのかと聞く間もなく、ツカツカと大股で近付いた彼はそのまま私を力一杯抱き締めてきた。その後、そのまま進展はない。

    「クリック君、ちょっと離してくれませんかね?流石に苦しいのですが。」
    「……ッ!」
    「ちょ、力緩めろと言ってるのに更に強めてどうするんですか?君は、私の骨でも折る気ですか!?」

    絶対に離すまいと強まった私を抱き締める彼の腕の力。それに思わず、白旗を上げる。もしかして本当に彼は私を真っ二つに折りたいのだろうか?勘弁して欲しい。
    無言じゃ何も分からないと言ったところでやっと、彼が口を開いた。貴方には僕の想いが何一つ伝わっていないって事ですか?と。

    「はい?いきなり何を言い出すかと思えば…。」
    「僕は何度も何度も、テメノスさんへの想いをずっと伝えてきたつもりでした。お慕いしておりますって、愛していますって、何度も、何度も何度も何度も!それなのに、どうして僕がテメノスさんを捨てる事になるんですか!?いつ、僕がそんな事を言いましたか?」
    「君が、私を?何の…って、ああ、アレか。」

    いきなり何を言い出すのかと思ったが、思い当たる事が一つだけあった。道具屋で買い物をして帰る途中で私に声をかけてきた女性に、確かに言った覚えがある。捨てられる事があるとしたら私の方だ、と。
    まぁ事実ですしと呟いた瞬間、またしても彼の腕の力が強まった。痛い。

    「あの女が、僕の所に来てわざわざ言いに来ましたよ。取捨の選択は貴方の方にあるんですってねって、勘違いしてごめんなさいって。綺麗な物はずっと眺めていたいわよねとか、自分は寛大だからそんな物が一つや二つあっても許すわとか。随分と好き勝手言ってくれましたよ、本当に好き勝手に。」
    「おやおや、随分と行動力のあるお嬢さんだ。」
    「次はないと言っておきました、次は容赦なく斬ると。…説教なら聞きませんからね。ああいう奴等には、これぐらい言わないと脅しになりませんから。」

    それよりも何であんな事を言ったんですか、教えて下さい。
    さっきまで怒りに震えていた彼の声が、すすり泣く声に変わり出した。

    「僕はテメノスさんの事が好きです、愛しています。誰よりも、本当に誰よりも貴方を愛しているんです。」
    「随分と熱烈な告白ですね、クリック君。」
    「それなのに、何で僕がテメノスさんを捨てなきゃいけないんですか?ずっとずっと一緒に、居たいです…。これから先もずっとずっと。」

    彼の言葉に耳を傾けていて、ん?と私は少し引っ掛かった。確かに行動力のあるお嬢さんに向かって、捨てられるとしたら私の方だと確かに言った。けれどそれは、私としては意志表明のつもりの言葉だったのだけれども。だというのに、何故それでクリック君が泣いているのか理解が出来ない。
    ふむ…と、思考を巡らせる。これはちゃんと答え合わせをしてあげないといけない事なのかもしれない、と。

    「クリック君、ちょっと離してください。君の顔が見たい。」
    「嫌です。今はその、凄い顔していると思うんで、勘弁してください…。」
    「そうですか?君がどんな顔をしていても、私は平気ですけどね…。でも、分かりました。ではこのまま聞いてください、クリック君。」

    私は一度に複数に愛を注げる程、器用な人間じゃありません。だから言ったんです、捨てられる事があるとしたら私の方だと。

    「…はい?」
    「愛しているのに、捨てる理由などないでしょう?なのにあのお嬢さんは、私がクリック君をいずれ捨てるのだと言ったんです。だから修正してあげました、捨てられるとしたら私の方だと。」

    振り回して可哀想、権力振りかざして服従させて楽しいか?等々。
    職務上意味もなく難癖付けられるのは慣れているから、お嬢さんの気が済むまで聞き流してはいた。けれどやはり一つだけ納得いかなくて、一言だけ言い返した。それに対してお嬢さんから反応はなく、ポカンとしていたので、そのままその場に放置して帰ってそんな事があった事すら忘れていた。クリック君に言われるまで。

    「そんな感じですので、末永く一緒に居てくれたらと思うのですが…。君は違うのですか?クリック君。」
    「そんな訳ないでしょう!ずっと、ずっと一緒にいます。」
    「そうですか、ならいい加減君の顔を見せてください。少し寂しいです。」

    寂しくて泣いちゃいますよーだなんてちょっとふざけた様に言ってあげると、少しずつだがやっと彼の腕の力が弱まった。するりとそれから抜け出して、やっと見れた彼の顔は、随分と色んな感情がごちゃ混ぜになったような複雑そうな顔をしていた。
    何て顔しているんですかと思わず吹き出してしまいましたが、誰のせいですかと少々不貞腐れた返事が返ってきた。そうですね、君を不安にさせた私のせいですね。

    「恋多き乙女の様に自分の欲求の赴くままに生きることが出来る程若くはありませんからね、私は。一つを大事にするのが、精一杯です。…そのつもりで言った言葉でしたが、どうやら私は言葉を間違えたようですね。それには謝罪を、でもこれがきっと本心なので。」

    覚悟を決めて彼とこれからを歩むと決めたその日から、私はもう手を離せない。きっと、もう離してあげる事も出来ない。そんな時期は、遥か昔に通り過ぎてしまった。
    君も厄介な人間に惚れられたものですねぇと言えば、望むところですと何とも力強い言葉が。でも、と彼がにっこりと笑った。

    「テメノスさんの気持ちは良く分かりました、でもやはり僕が貴方を捨てるかもと少しでも思われていた事に納得いきません。…テメノスさん、今日の予定は全て諦めてください。」

    外せない予定はないから別に構いませんよと何も考えずに答えてしまった昨日の私を、殴ってでも止めたい。
    その日だけでなく翌日の予定も諦める羽目になった私は、思うように動かせない体に四苦八苦しながらそんな事を考えていた。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💖💖💖👏☺😭🙏😭😭😭💴❤😭❤☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺💖☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works