かなり慌てた様子のテメノスを見かけたので、声をかけた。なんでも、何処か身を隠せる場所を探しているらしい。

「盗賊の貴女なら、隠れ家的な何かが何ヵ所か有るでしょう！今すぐ教えて下さい、さぁ早く！！」
「教えてあげても良いけど、何で？子羊くんと、喧嘩でもしたの？」

理由教えてくれないと、無理。
何で？と首を傾げる私に、それは…とテメノスは言いにくそうに視線をさ迷わせてた。けれど、背に腹は変えられなかったのだろう。何か諦めた様に、ポツリと言った。喧嘩だったならどれだけマシだったか、と。

「子羊くんに、結婚を申し込まれました。油断した、予兆が分かっていればこんな事には…。」
「あんたを出し抜くなんて、子羊くんやるじゃん。…で？」
「で、ではありません！逃げる理由なんてそれで充分でしょう！？」

良かったじゃん幸せにねと、一応祝福の言葉を投げてやる。祝わないでくださいと、テメノスに即座に怒られた。何故。
想い合っている二人がついに家族になる、それなのに何故祝ってはいけない？

「子羊くんの事、嫌いにでもなったの？」
「違います。私が彼を嫌いになるなんて事はありません、絶対に。」
「なら、受けてあげなよ。盛大に祝ってあげる、皆で。何処でやる？やっぱりフレイムチャーチ？」
「話を勝手に進めないでください、ソローネ君。好きだからこそ、愛しているからこそ、私は絶対に受ける訳にはいかないんです！」

折角のお祝い事なんだから盛大にいこうよと提案してあげたのに、それは駄目です！と悲鳴の様な声をテメノスはあげた。だから、何で？

「意味が分からない、そこまで頑なに拒む理由は？」
「もしクリック君が私に飽きて別れたくなった時に、きっと困る日が来るからです！だって、お付き合いと違って、結婚だと経歴が残っちゃうんですよ？一時期の気の迷いで、そんな事、彼の経歴に傷をつけるなんて、私には出来ません！！」
「あー、うん、何かそんな事だろうと思った。」

何か付き合いだす前もテメノスは似たような事を言ってた様な気がすると、昔に想いを馳せてみた。
彼の為とか言って逃げ回るこいつを、子羊くんがずっと何処までも追いかけ回してて。お互い想い合ってる癖に実に変な事してるなと、思った事複数回。そんな二人にちょっかいを出してみては、呆れ果てる事…何か途中で馬鹿らしくなって数えるの止めたんだった。

「あんたがどう思おうと、何処へ行こうと勝手だけどさ。…いい加減、覚悟決めたら？」

幸せにしてもらいなと私が言うのと、やっと見つけました！という聞き覚えのある大声が周囲に響いたのはほぼ同時だった。