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    nanayuraha

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    nanayuraha

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    クリスマス?仕事ですが何か?なクリテメと、お節介な周囲と。モブがいっぱい。
    クリスマスがあるかは分からないけど、あるという事で。

    『君と貴方とクリスマスを(強制)』


    1:酒場のマスターの決意

    2週間前、フレイムチャーチにて。
    酒場のマスターは、とある理由で出来の良い赤ワインを仕入れていた。クリスマスの目玉商品として?いいや違う。後で自分で味わう様に?それも違う。普段苦労をかけている妻に?妻へのプレゼントは別にあるので、全然違う。
    神官のテメノスに日頃世話になっているお礼も兼ねて、プレゼントする為である。何でもこの頃生涯を共にする相手も出来たらしいし、きっとその相手と過ごす素敵な一時をお手伝い出来たならと。それはとても幸せな事だとマスターは思っていた、いたのだが。

    「気持ちは嬉しいのですが、その日は私も彼もお互いに朝から遅くまで仕事でして。」
    「…え?」
    「私は礼拝、彼はクリスマスで賑わう街の警護…。きっとその日は、会う事すら難しいかもしれません。」

    この期間は仕方がない事です。そう普段通りに、けれど何処か寂しそうにしているテメノスを見送った後、マスターはその場に膝から崩れ落ちた。
    普段も忙しくてなかなか一緒に過ごせないあのお二人が、恋人達の為にある様な日ですら一緒に過ごせないだと?普段大して忙しくもないバカップルどもがイチャイチャするのが許されて、何故テメノス様達は許されないのか。そもそも何故あの二人は、何時までも遠距離恋愛状態なのか。もうそこから可笑しいのでは?

    「こんな事はあってはならない、絶対にだ…!」

    酒場のマスターは、自分のもてる伝を全て使ってこの状況を打破しようと心に決めた。


    2:とある聖堂騎士の覚悟

    2週間前、ストームヘイルにて。
    その男は、虎視眈々と機会を伺っていた事があった。
    その男には、クリックという名の後輩がいた。といっても聖堂騎士になった時期が多少自分の方が早かっただけで、強さも何もかも彼方が上というとんでもない後輩が。その後輩は、自分は特に用事がないからと良く任務を変わってくれていたのだ。嫌な顔もせず、何回も。
    その後輩が、想いを寄せていた相手と結ばれたという。そんな彼等の初めてクリスマス、きっと一緒に過ごすに違いない。男は今こそ恩を返す時だと、思っていた。クリスマスだけじゃなく、そのまま年越しまで過ごしても良いぞと思っていた。その分自分が荷馬車のように働けば良いと、そう思っていたのに。

    「残念ですけど、クリスマスはテメノスさんと一緒に過ごせそうにないのです。本心を言えばそれでも顔ぐらい見に行けたらと思ってましたけど、その日は運悪く夜勤になってしまいましたし…。」
    「お、お前の分は我輩がやっておくと言っておるのだぞ?何も気にせず遠慮せず、フレイムチャーチにでも行ってくるが良い!」
    「気持ちは嬉しいのですが、今回はそのお気持ちだけで。寂しいですけど、こればっかりはしょうがないです。…ありがとうございます、僕なんかに気を使ってくださって。」

    来年に期待しますと寂しげに笑って去っていった後輩を見送った後、男はフラリとその場に倒れそうになってしまった。
    誰の頼み事も嫌な顔をせず引き受け、誰かの為にと動いてきた後輩。そんな後輩に何故仕事なぞさせなければならないのか、やっとの事で結ばれた相手と迎える初めてのクリスマスの日に!

    「認めん、我輩は絶対に認めんぞ…!」

    男は、皆がこの事態を認めても自分だけは否定してやると決意をした。


    3:出会ってしまった者達

    どうにかしようと、色々やった。どれもこれも、大した結果も得られず。というか、クリスマスまで時間が無さすぎた。
    もう状況を打破するには、相手を誘か…げふんげふん!強制的に連れてくるしかない。例え罪人として牢獄にぶちこまれようとも、異端として裁かれようとも、決して後悔はない。

    「……。」
    「……。」

    そんな決意と覚悟を胸に行動した男二人と、そんな彼等に協力を申し出た支援者達。偶然にも同じ日に対象は違えど同じ目的で行動した彼等は、北モンテワイズ山道で鉢合わせてしまった。
    暫く無言で見つめあっていたが、やがて互いに歩み寄ると固く握手した。我等は同志だ、その目を見れば分かる。

    「「全ては、クリスマスの為に!」」

    クリスマスまでもう一週間、男達はやる気に満ちていた。その目の下には、寝不足で隈が出来ていた。


    4:襲来

    テメノスは、何が起きているのか最初分からなかった。
    クリスマス当日、早朝。突如としてフレイムチャーチにやって来た聖堂機関一行は、瞬く間に大聖堂を占拠してしまったのだ。
    最初は、聖堂機関による謀反もしくは反乱か?と騒ぎになった。しかし彼等がやりだした事はただのクリスマスの催しの手伝いだけだったので、人手不足に悩んでいた聖火教会関係者は、まぁ良いかと特に問題視する事はなかった。
    力仕事やら率先してやってくれるのは、とても助かる。けれども、

    「あー、えっと、ミストラル審問官はやる事は特にないので、お帰りください。」
    「こんな所で何をしておられるので?ミストラル審問官。早急に帰りやがれください。」
    「酒場のマスターより預かり物です、これをお持ちになって早急にお帰りください。」
    「帰れって言っているだろう、とっとと帰れ!!」

    希望者はそのまま催しの準備をしてて良いと聞いていたのに、テメノスだけは却下された。子供達に聞かせる紙芝居のチェックをしようとすればそれを取り上げられ、なら他の手伝いをと思えば何処からともなく走って来た名も知らぬ聖堂騎士に妨害された。やる事なす事全て取り上げられ、帰る事を要求されるのだ。次第に聖火教会の人間達にも帰れと言われるようになった。本当に、意味が分からない。
    やはり何かあると、目の前に立ちはだかる聖堂騎士をテメノスが審問しようとしていた時だった。

    「テメノスさん!」
    「え、クリック君?何故君がここに居るのですか?」

    本来ならここに居ない筈のクリックが駆け寄ってくる姿に、テメノスはますます混乱した。
    今日は会えないと思っていたクリックに会えた事は、純粋に嬉しい。でもこの騒ぎに彼も関わっているかもしれないと思うと、素直に喜べない。

    「ミストラル審問官!もし万が一、巡礼路で魔物にでも襲われたら大変です。コイツを護衛につけますので、どうぞご安心を。ウェルズリー、そういう事だ。ミストラル審問官の護衛、頼んだぞ。」
    「え、先輩。でも僕は、」
    「ええい、五月蝿い五月蝿い五月蝿い!我輩が良いと言っておるのだ、何の問題もない。とっとと行け、三日ぐらい戻るなよ!!」

    本気で戸惑っているクリックに、なんだ彼も巻き込まれた方かとテメノスは少しだけ安心した。ほんの少しだけ。
    そして、何となくこの騒ぎの真意を理解をした。全く、皆してお節介な人間ばっかりな様だ。テメノスは溜め息をついた。ここまで盛大にやられてしまったら、断ろうにも断れない。

    「…では、暫くクリック・ウェルズリーをお借りします。三日ぐらい彼は返しませんので、ご安心を。行きますよ、子羊くん。」
    「ちょっと、テメノスさん!?」

    聖堂騎士の返事も聞かず、テメノスは帰る事にした。帰れと言われているのだから、帰るとしよう。子羊くんは、自称サンタ(複数)からのプレゼントとでも思うことにして。

    「待ってください、テメノスさーん!!」

    いまいち状況が理解出来てないクリックが、慌てて追いかけてくる。
    その後ろでこっそり先輩と言われていた聖堂騎士が小さくガッツポーズをした事には気付いていたけども、テメノスは見なかった事にした。


    5:クリスマスは、大事な人と

    テメノスは、これはどうしたものかと悩んでいた。
    フレイムチャーチの人々は、例外なくお節介な人間ばかりらしい。

    「皆さんからのお裾分けで、何か凄い事になってますね…。」
    「ええ、皆して今日は料理を作り過ぎたらしいので。その他多く仕入れすぎた、必要数を間違えた、不要になった等々。…いつから、皆しておっちょこちょいになってしまったのでしょうね?」

    大聖堂から自宅へ戻るその短時間の間に、テメノス達はすれ違う人々に色々な物をお裾分けされていた。中には自宅玄関前に手紙と一緒に置かれている物もあったので、本当に沢山の物が手に入ってしまった。
    元々何も準備していなかったというのに、少し豪華にクリスマスを過ごせるぐらいに。本当は最初から準備していたのではないかと、子供でも分かってしまうぐらいに。

    「子羊くん、君の出番です。頑張って食べてくださいね、皆の気持ちを無下には出来ませんので。」
    「テメノスさんも、頑張って少しは食べてくださいよ。このフルーツタルトとかケーキとか、とても美味しそうですよ?」

    テーブルに並んだ料理をクリックと一緒に眺めながら、後日お礼をして回らなければとテメノスは思った。…三日後ぐらいに。そうしないと、話しかけても追い返されてしまいそうなので。

    「テメノスさんと一緒にいれるのは嬉しいですけども、本当に良いのでしょうか?皆、忙しそうなのに。」
    「良いのでは?これは休む事を強制されてしまったのですから、有り難くゆっくりと過ごさせてもらいましょう。その方が皆喜びますよ、きっとね。…ほら、あーんしてください。」

    複雑そうな顔をしているクリックの口に、テメノスはフォークに刺したイチゴを押し込んだ。
    甘くて美味しいと笑う彼に、それは良かったですねとテメノスはにっこりと笑った。


    【終】
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