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    Ne_colon_da

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    Ne_colon_da

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    ▶ 禰:田 の 過去編 です

    ▶ 読まなくて いいですよ :)

    旧所有物独白いつの間にか、あの家にいました。
    あまり大きくは無い家で、小さい女の子が2人、10代半ばほどの男の子が1人、両親の5人家族でした。
    この家に来る前のことはあまり覚えていなくて、真っ暗な中、色んな音がしていた事だけをぼんやりと覚えています。

    あまり変わることの無い毎日はあっという間に過ぎ去り、私が家に来たばかりの頃はまだ幼かった二人の女の子も小学校に通い始めたらしく、おもちゃやクレヨンが散らかっていた部屋にはランドセルが散らかるようになりました。
    お兄さんは新しく家に来たパソコンで毎日色々な音楽や動画を流してくれて、自ら動くことの出来ない私に人間の文化に対する興味と知識欲を満たしてくれました。
    まだ、寒かったでしょうか、その時はまだ自我が不明瞭だったもので、外気の冷たさなど私には些細な問題ではありませんでしたから季節などは覚えていないのです。雪が降る前だったような気もしますが、それも、定かではありません。
    年に一度、冬に行われる大掛かりな掃除のように丁寧に布で埃を拭われ、家の外に連れ出され車の助手席に乗せられました。住宅街を抜け、木々の茂るほとんど整備されていないガタガタとした道を走って随分と街並みが寂れて来た頃、やっと車が止まりました。
    ドアが開いて、ご主人様に丁寧に抱えられました。昔、あの家に連れてこられた時に感じた懐かしさを感じて、私はどうしようもない、絡まったコードのような複雑な渦を自身の内に感じていました。もう、私の役目が終わりそうだということは日頃聞こえる音でなんとなく察していましたので、目の前に広がる積み上げられた無機物達を見た時、漠然と、納得してしまったのがまた、どうしようもなく悲しくて、しかしどうすることも出来ない所詮所有物に過ぎない私は、自我となり得そうな、小さな芽を摘むことしか出来なかったのでした。

    目が覚めた時、地面はすっかり乾いていて、なんだかむしろ暑いくらいでした。
    辺りを見回してもそこにいるのはもうすっかり事切れた無機物達ばかりで、寂しげに立っていた姿見に映った人のような姿を見て、自身が人のような身体を得たことを察しましたが、そこから移動しようにも歩き方はおろか、起き上がり方も分からないものなので何とか自力で起き上がれないものかと地面でもがいていました。
    そうこうしているうちに、青かった空は赤くなり始め、これが夕焼けかぁ、なんて起き上がれないままぼんやりと空を眺めていました。
    すると通りかかった少し怖そうな見た目の男性が私を見て「どうした?」と近付いて来ました。その方は最初、私の姿に驚きつつも私を起こしてくださり、歩き方を教えてくれました。
    歩き方を教えてもらいながら覚えていることを話すと、「付喪神ってやつかね」と妙に納得した様子を見せました。
    結局その日は一人で歩くことは出来なかったのですが、その方が廃棄場の近くの建物に連れて行ってくださりました。
    そこはだいぶ古い建物で、部屋にはホコリを被った古ぼけた皮のソファーと背の低い木の机、ほとんど空になっている本棚がふたつあるだけ、とあまり物がなく、いわゆる生活感の無いお部屋でした。
    「ここは誰かが住んでいたのですか?」
    そう訊ねると、質のいいスーツについたホコリを手で払いながら男性は甘い香りのする煙草に火をつけ、煙をくゆらせながら答えました。
    「いや、元々うちの事務所だったんだよ。」
    事務所?と首を傾げる私の頭を優しく撫で、服はあそこの箱に入ってるの着ていいから、と男性はダンボールの山を指さし、無愛想に言いました。

    ダンボールの山を上から崩し始めた私を遠目で眺めながら、男性はまた、無愛想に「これ、ここの鍵な。たまに様子見に来っから。」と私に鍵を渡すと男性は緩く手を振り、部屋から出ていってしまいました。
    一人で部屋に残され、ダンボールを開けていくうちに、ふつふつと自分の中で疑念や不安が湧き上がってきました。
    あぁ、何故私は捨てられなくてはいけなかったのか、あの家には私がいなくても他のテレビが来るのだろう。どうして、私は置き去りにされなくてはいけなかったのか。
    そう考えれば考えるほど人間が憎く、恨めしくなって来るのです。
    しばらく、雑多に物の詰め込まれたダンボールを呆然と見つめながら、生まれて初めてぐちゃぐちゃと腐り切った感情を回路に巡らせましたが、一度、静かに電源を落とすと、そんな感情などは無かったことにすることにしました。
    どれだけ人間に恨みを抱いても、どれだけ切実に呪っても、それでも私は人間が好きだと思うのです。
    あの家で、子供たちがどの番組を見るかで喧嘩をして、怒られていたこと。子供たちを寝かしつけた後、聞こえないほど音を小さくして録画していた好きなドラマを見ていた母親のこと。休日に子供たちがアニメが見たいと言うのをあしらって野球の中継を見ていた父親のこと。そして、深夜にこっそりアニメを見たりパソコンで色々な音楽を聞かせてくれたお兄さんのこと。
    捨てられたあの日の一瞬の絶望よりも、長く短いあの家での日々が馬鹿馬鹿しいほどに愛おしくて、その日はダンボールから引っ張り出した毛布を抱きしめて、床に転がるようにして眠りにつきました。

    次の日、再び電源を入れるとホコリっぽい床で私は眠っていました。何十分もかけて起き上がり、再びダンボールを漁って適当な服を見つけ、どう着るのかともがいていると昨日の男性が部屋にやって来ました。
    「おう、ちゃんと服きて……いや着れてねぇな、ったく、ほらこうやって着ンだよ」
    昨日とは違った柄のスーツを着た男性は「お前マジでなんも出来ねぇのな」と言いながらも私が服を着る手伝いをしてくれました。

    「ほら行くぞ、今日は親父にお前のこと紹介すっから。お前、名前は?」
    「……私……私は、」
    ザラザラとしたノイズ、おそらく記憶の一部である文字化けの羅列の中から目に付いたものを取りました。
    「……禰:田と申します」
    にこ、と相手に笑みを見せると男性は私に笑い返し「おっしゃ、行くかねこちゃん」と私の手を引き、部屋を後にしました。

    それからしばらく経ち、私は人間の世界で過ごしています。それでも、何年経っても、何十年経っても、あの家で過ごしたことを、あの日捨てられたことを、私はずっと忘れません。きっと、あなたは知らないでしょう、ご主人様。私があなた達を愛していたこと、あなた達のために稼動し続けたあの日々を今も想い続けていること。そしてあなた達にもう一度出会えることを望んでいること。だけどそれは叶わないこと。ずっとずっと、あなた達に愛されたあの日々を私は忘れないということ。

    さぁ、私の独白はこれで全部。人間の皆さん、ご清聴ありがとうございました。また、どこかの世界でお会いしましょう。Bye :)
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