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    doroumee

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    doroumee

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    第五始めたての頃に書いたもの

    途中+実録擬きを話に落とし込んだ何か
    カプ要素皆無

    優鬼にあっただけの話傭兵―ナワーブ・サベダーがこの荘園に来てから2週間と少しが経ったある日の事であった。
    昼食を済ませたナワーブの部屋に届けられた一通の手紙。それは別の荘園から送られてきた試合の招待状だった。
    頬の膨れた犬のシーリングを剥がし、手紙の中に書かれた了承の文字に指を滑らせる。するとぐにゃりと視界が歪んだかと思えば酷く殺風景な自室からただ広いだけの、ぽつんと置かれたブランコがもの悲しい居館へと変わっていた。
    ナワーブは天井から伸びる蜘蛛の巣に気を取られることもなく、ゆったりとした足取りで扉の傍で縮こまっている招待主の元へと向かった。
    彼は居心地悪そうに、縫い付けられた口元をまごつかせながらも目線はしっかりとナワーブから外している。
    その手に持っているのは皴一つない真白の封筒で閉じられた手紙達。垂らした蝋の色合いは若干違えど彼の愛犬によく似たシーリング達は招待者を教えてくれる。

    「行かないのか?試合」

    平坦な色を乗せるナワーブの声に、ビクターはびくりと肩を鳴らした。
    直後酸素を求める魚の様に口を動かすも、彼がひりだせるのは引き攣った空気だけだった。
    然し問いには答えねばならない。突然投げかけられた言葉にビクターは帽子が揺れるほどの激しさで頭を縦に振る。

    「そ、準備は?」

    一見挙動不審ともとれるビクターの行動にナワーブは動じなかった。今度は一度こくりと頷いた招待者は腰に下げたカバンから幾つもの未開封の封筒を取り出し、何枚かをナワーブに見せつける。
    その隣で彼の愛犬はぴんと尻尾を立てて可愛らしく一声鳴いた。

    「じゃあとっとと行こうぜ」

    また一度頷いたビクターに背を向けつつロビーへと向かう。その間二人の間には会話はなく、足音だけが静かな廊下を支配した。
    ひたすらに前を見ることなく、視線を愛犬へと向け続けるビクターはナワーブの荘園にはいないタイプの人間だ。どう連携をとったものかと考えつつ、ナワーブはその手にノブを掛ける。
    ギィ、と危なげな音を立てた扉の隙間から室内を覗くと普段の陰鬱さが漂う待機室から一変してロビーは二人を迎え入れた。
    見慣れた筈の古びた長机は赤いテーブルクロスによって木々の隙間を隠し、ぼんやりと頼りなさげに室内を照らす蝋燭は手足の短いジンジャーブレットマン達の頭へと突き刺さっている。
    ハンターの待合室とを区切る赤いカーテンの前にはカラフルなオーナメントが飾られたそこそこ立派と言えるクリスマスツリーが顔を出していた。

    「…なんだこれ」

    思わず呟いたナワーブの言葉にビクターは首を傾げて答える。彼にも覚えがないらしい。
    当の昔に、というか二週間ほど前にクリスマスは終わっている。かの慈善家が前日まで浮かれていたというのに当日になって氷漬けにされていた日など忘れたくても忘れられない。
    しかもすでに年は明けている。ハッピーニューイヤー!と大声上げて祝うには少しだけ遅いのだ。
    いささか時期遅れの装飾に疑問を抱きながらも、ナワーブは一番奥の一人席にへと腰掛ける。その際どこに座ろうかと目線で悩んでいるビクターに顎で隣を示すことも忘れなかった。
    音を立てないように椅子を引くビクターを横目に、次々と待機ロビーに顔を出す面々とステージを見ながらナワーブは今回の試合での自身の立ち回りを考えることにした。

    (場所は聖心病院。メンバーは踊り子に配達員、それにマジシャンか…。こいつが捕まったら手紙とやらを受け取るのが最適だな)

    セルヴェ•ル•ロイという男は巧みな手品を使い、ハンターを撹乱しつつチェイスすることが得意で解読も安定して行えるが何分救助に手間取ることが課題であった。
    ナワーブも一度彼の救助に当たったことがあるが拘束用の茨に手を掛けた途端、目の前で鎮座している彼が本物なのか。これは彼が、いやハンターが成せる幻ではないかとある種の恐怖と疑心で茨を解く手がもたついてしまうのだ。
    最近荘園にやってきたというビクターは手紙を他の参加者たちに送り支援をするという話だが、その中にはロケットチェアまでの移動速度と救助速度を上げる効果を持つものがあるらしい。
    いざというときには頼らせてもらうとしよう、と考え背もたれに寄りかかりつつ腕を組んで試合の開始を待つ。
    ―ガラスが割れる直前、特徴的な鼻歌が聞こえた気がした。

    ナワーブが目を開けると、幸運なことに暗号機が一つすぐ傍で待ち構えていた。
    すぐさま『解読に集中して!』と信号を送ると、ばらついた地点からオウム返しの様に信号が返される。
    不愉快な機械音を漏らす暗号機に眉を寄せつつ震える手でキーを叩くとどくん、と小さく心音が鳴った。
    ナワーブは極めて冷静に暗号機の傍の窓枠から外を覗き見ると、英国紳士を気取る様なシルクハットに白い仮面、そして鋭い刃を左手に構えたハンター、リッパ―が病院の柵より外を歩いていた。ひょろりと棒きれのような足で鼻歌交じりに獲物を探す様は、正に狩猟者と呼ぶに相応しいだろう。
    どこに行くつもりだ、とハンターの行く方向を見定めようとして身を乗り出すと、一度ぴたりと止まった二つの黒が書かれた白い仮面がこちらを見つめた。

    (しまった…欲張りすぎたか。どう逃げる…?)

    リッパーの挙動に注意しつつ辺りを見渡し、逃走ルートを脳裏で描きつつナワーブは自身の肘当てをいつでも作動できるよう撫でた。
    この場所は窓枠も多く板もある。時間は稼ぎやすい。来るなら来い、と意気込むナワーブとは対照的にリッパーはこちらに近づく訳でも、霧の刃を振ることもなくただナワーブを見つめ続けている。

    (なんだ…?)

    そう疑問に思った矢先、暗号機付近の窓枠に近づいてきたリッパーから急いで距離を取り、場所を移す。
    しかし相手はそこから更に距離を詰めることも、攻撃することもなくその場から離れたのであった。

    (一体何なんだ…)

    ナワーブは気味の悪いハンターの行動に首を傾げつつも、先程触れた暗号機の解読へと戻る。
    大体五割を超えたあたりだろうか。暗号機から発せられる機械音が騒々しくなってきた辺りでマルガレータ負傷の知らせが届く。
    場所を確認しようと信号地点を見るが、院内と重なって正確な場所までは割り出せなかった。そのことに歯噛みしつつ解読を続けていると、すぐさまダウン知らせと同時にハンターの存在感が溜まった証拠でもある鐘の音が鳴った。
    『解読中止!助けにいく!』との信号を他の参加者へと送り、ひとまずは院内へと駆けたナワーブだったが彼女の吊られたロケットチェアは徒歩で四割近く導火線を消費するか否かという微妙な距離であった。

    (今後の救助も俺が行くと考えると肘当てはまだ使うべきではない…。一撃を受けそうなら使うか)

    暗号機が一台も上がっていない現状を考えると、治療に時間がかかる自分が攻撃を受けることは得策ではないだろう。遠距離攻撃を持つ相手にどう立ち回ったものかと思案していると、足元からわん!と元気のいい鳴き声が聞こえた。

    「お前は…配達員の…」

    名前は何だったか、と記憶の片隅に問いかけるが引っかかるものはない。やや下膨れの頬を持つ黄色の毛色を持ったビクターの愛犬は、もう一声鳴くとナワーブの胸元へと飛びかかる。
    その勢いのままに背中の鞄から溢れた一通の手紙が確かにナワーブの手元へと渡ると、犬は直ぐさまもと来た道へと足を戻した。
    一度立ち止まり手紙の封が閉じられた方を見やると、そこには宛先人として『勇敢なるサベダー様へ』と達筆に記されていた。
    どうにも格式ばった気障な名称にナワーブは腹の底からじわりと力が湧き出るような、しかしどこかむず痒いような何かを感じながらも院内を抜けマルガレータが捕まったチェアへと全速力で駆ける。
    しかしチェアまであと数歩というところであった。ナワーブは突如感じた冷たい気配にその体を一瞬だけ固めてしまう。詰まった息が喉元を通って得体のしれない恐怖に震えるのを止めることはできなかった。
    心音はこれでもかと五月蠅く鳴り響き、今にもはちきれそうだというのに。それほどまでに近い距離にいるというのに。

    (なんだ…!なんなんだよこいつ…!)

    マルガレータの後ろには空間にわずかな歪みを残した透明人間が飛んで火に入った羽虫を潰すわけでも、追い払う訳でもなくただそれを観察するかのように佇んでいた。
    その左手にあろう刃はピクリとも動く気配を感じない。ただゾッとするような無機質な視線は勇んでいたナワーブの心を捻りつぶすかのようだった。
    他のハンターとは明らかに違う様子にナワーブは一瞬だけ、彼女を縛り付ける茨から手を離してしまった。あまりにも拙いフェイントもどきにも、リッパーは何もアクションを示さない。その事が、ナワーブの救助を焦らせる。
    そうして焦りと恐怖でぐちゃぐちゃになった思考ではその場の最適解など導けるはずもなく、一度手を止めてしまった代償にチェアの導火線は半分を切ってしまった。

    「っ…!悪い!俺が盾になるから…!」

    強引に茨を引きちぎりながら、震えた声で青ざめた顔のマルガレータに呼びかける。彼女は一つ頷くとすぐさま板や窓枠が多数存在するポジションへと赴こうと足を動かした。
    その後ろを隙間なきように追いかけるが後ろでゆらりと揺れた殺気に、薄い壁一枚の角を曲がろうとするマルガレータに向けて咄嗟に叫んだ。

    「霧だ!曲がるな!ツェレ!」

    え、と怯えで引き攣った顔で此方に振り向く彼女に壁をすり抜けた刃が直撃する。突如受けた痛みによって湧きだされるアドレナリンと恐怖にマルガレータの足は通常よりも早く近場の窓へ向かい、その身をナワーブから引き離す。
    危機一髪の効果によって、まだ倒れはしないだろうが続けて攻撃を受けてしまった彼女は後十秒程で地に伏してしまうだろう。そこで執拗に彼女の後を追いかけるハンターによって風船に括られて荘園送りは確定だ。
    ナワーブはかの女軍人の様に一丁の銃を用いて彼女を逃がすことも、恵まれた体格を持ったオフェンスの様にその身を当ててハンターの動きを止める術を持たない。
    この身が持ち得るのはたった5つの肘当てのみ。
    痛みには大層強いが今この状況でそれが何の役に立つというのだ。

    「…クソッ…!」

    烏に告げ口されぬよう近くの暗号機の解読を始めたナワーブは自身の不甲斐なさと

    ここで忘れてしまったので供養
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