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    ichidrop

    @ichidrop

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    ichidrop

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    ランドール誕生日小説。
    時系列はランドールがMIに入社して割とすぐの頃なので、最初の頃はこういうことがあったのかもしれないという妄想です。
    全体的に暗くなってしまった。
    1年かけて書いたのに2,500字ちょいしかなくてビックリした。(小説は超遅筆)

    マスカットタルト ランドールがモンスターズ・インクに入社し、半年ほど経った頃。
     仕事終わりにロッカーを開けると、中に見覚えのない持ち手付きの黒い箱が入っていた。
    「……なにこれ」
     上品なデザインやその形状からして、中にはケーキが入っていると思われる。
     なぜなら、会社付近で有名なケーキ店のロゴが箱に記されているからだ。
     箱には送り主の名前が表記してある手書きの小さなカードが貼り付けられており、そこには『マイク・ワゾウスキより』と、書かれていた。筆跡もマイクのもので間違いない。
    「ワゾウスキの奴……。何考えてんだか」
     大学時代のことを思い出し、楽しかった記憶と思い出したくない記憶に挟まれ色々考えた結果。
     捨てるのはさすがにもったいないと判断した甘いもの好きなランドールは、ケーキを自宅に持ち帰ることにした。

    ——帰宅した後に一息ついたランドールはデザート用のフォークと皿を用意するとリビングのソファに座り、持ち帰ったケーキの箱をそっと開けてみる。
     箱の中には、マスカットタルトが入っていた。
     ふんだんに盛り付けられているマスカットの明るい黄緑色と丸い形状は、送り主であるマイクにとてもよく似ている。
    (ワゾウスキの奴……。わざわざ自分と同じ色のケーキを選ぶだなんて、自分のこと好きすぎるだろ)
     まん丸で鮮やかな黄緑色のマスカットそのものがマイクによく似ていて、なんだか無性にイライラする。
     そう思ったが、その直後にランドールは自分の家具や私物を自身の体色である紫色で統一しているのだったと思い出す。
    (ま、俺も他人のこと言えないか)
     とはいえ、それはランドールは自分を好きになりたいという思いから、自分の象徴色である紫を好きになろうとしているが故の行動だ。それは大学時代から変わらない。
     心の底から自分に自信を持っており、自分のことを心の底から大好きであるマイクとは、その点が大きく異なる。
     と、それはさておき。箱の中にメッセージカードが入っていることに気づいたランドールは、それを手に取り読んでみることにした。
    『誕生日おめでとう。お前、甘いもの好きだったよな。照れくさいし、今まで言う機会なくて伝えてなかったけどさ。ランドールさえ良ければ、俺はまたお前と親友になってやってもいいんだぜ? 俺はその時が訪れるのを気長に待ってるからさ』
     数秒の間、ランドールは言葉に詰まる。
    「はあ、もう……。こういうの、ほんっと……いらない」
     ランディであった頃の、マイクと親友だった頃の自分はとっくに捨てた。
     もうあの頃には戻れないし、戻らない。
     そう決めていたはずのに、今は少しだけ……いや、かなり心が揺らいでいる。
    (なってやってもいいって、なんで上から目線なんだよ。というか、それよりも! 俺があの時裏切ったこと、この感じだともしかして——お前はあんまり気にしてないの……?)
     ランドールとしては関係の修復などありえないと思っていた。
     自身にとっての損得を優先し、困り果て途方に暮れていたマイクを見捨てたのだから。
     にも関わらず、手紙から察するにマイクは当時のことをそこまで気にしていないように思える。
    (たしかにアイツは馬鹿みたいにポジティブなとこがあるから、大して気にしていないって可能性も一応ある……のか?)
     もしくは、理解した上で許してくれているのか。
    (ワゾウスキがそれでいいなら……あの頃に、戻れるのか? やり直せるのか……? それなら——)
     と、照れくさい希望を持ち始めたところで、あの憎きサリバンの影が頭を過ぎる。
    (ああ、そうだった)
     マイクにとって今の1番の親友は紛れもなくサリバンだ。それはきっとこの先何があっても変わらない。
     MUで彼らが人間界に飛び込んで戻ってきた時の話題を耳にした時も、自宅でも怖がらせ屋の特訓をできるようにと彼らが2人で同じ家に住んでいると知った時も、その並々ならぬ絆の深さはランドールでもはっきりと感じ取れた。
     そんな現実が気に入らないからと、例えランドールが彼らの仲を引き裂いたとしても、間違いなく徒労に終わるだろう。
    (俺がアイツにとって1番の親友になれることなんて、もう二度とないんだった)
     もし、もし仮にランドールがマイクと親友に戻れたとしても。それはマイクにとって2番目の親友であり、1番ではない。
     そもそも、マイクとの距離感を縮めるということは、いつもマイクの隣にいるサリバンと顔を合わす機会も必然的に多くなるということだ。
     親友であり相棒として、共に楽しく充実した幸せな人生を送る彼らを間近で頻繁に見ることになる。
     あの時マイクを選んでいれば、今マイクの隣にいるのはサリバンではなく自分だったのではないか——?
     そんな絶対に認めたくもない、ずっと目を背き続けてきた未練や後悔を嫌でも直視することになってしまう。彼ら2人のプライベートな部分を知れば知るほどに。
    (ワゾウスキにとって1番の親友になれないなら、俺が欲しいものを全部持ってる大嫌いなサリバンと顔を合わす機会がプライベートも含めて増えるんだとしたら。そんな惨めな思いをすることになるくらいなら——戻らなくてもいいか)
     そんなどうしようもない重苦しい心情と共に食べたそのマスカットタルトは、タルトの濃厚なサックリ感やマスカットの瑞々しい酸っぱさに加え、どこかほんのり苦味のある暗い味がした。

    ——(嫌な記憶が呼び起こされて最悪な気分にはなったけど、タルト自体の味は悪くなかった。今度あのケーキ屋に寄ったらまた食べてみるか。ああ、でもその前に……)
     貰いっぱなしは借りを作ってしまったようで嫌だと思ったランドールは、マイクの誕生日が来たらケーキかそれに代わるものを送りつけてやろうと決めた。
     しかし、マイクの誕生日はどうやら11月らしい。
     今は3月であるため、まだ半年以上も先だ。
     陰険で歪んで捻くれていながらも、なんだかんだ根は真面目であるランドールは早く何か返さないと気が済まない。落ち着かない。
     タイミングを見計らいしばらく何も返せないままだと、この暗く淀んだモヤモヤとした気分がずっと晴れないような気がする。
    「はぁ……。久しぶりにカップケーキでも作るか」
     カップケーキ作りは学生時代から続いているランドールの密かな趣味であるため、材料なら既に揃っている。
     少しでも早くお返しを済ませ落ち着きたいランドールは、カップケーキの味やデザインをどうするか。ラッピングに使う袋や飾りは何を選ぼうか。
     頭の中でグルグルとああでもないこうでもないと考えを巡らせ続け、ベッドで眠りにつくまでずっとそのことで頭がいっぱいだった。
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