あなたのすべてになってみたい ソファに二人並んで座っている。恋人たちの距離は近い。
南の方の薄いビールと、ピザと、ポップコーンが机に置かれ、二人はサブスクライブの映像配信サービスを開いている。
「俺ホラーは苦手で」
「そうなのか」
「苦手って言っても、怖いというよりは、憤りを感じてしまって。フィクションだとしてもただ人が抗えない存在に無為に殺されるだけっていうのが、どうも駄目みたいです」
「昔の私は、好んで見ていた」
「そうなんですか」
「高尚ぶった難解そうな作品を見栄のために何本も見て、仲間内で映画を批評した。褒め讃えられることを求めていた。高尚そうなだけで中身のない作品を見るのは苦痛だったから、人が紙くずのように死ぬだけの映画を観てウサをはらしていた」
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