結末母さんが倒れて数年、俺達はハンターになった
お互いE級判定だったが、俺よりも戦闘のセンスがあり、怪我も少なく功績を上げていく弟にすごいと称賛するよりも、己の惨めさに打ちひしがれた
弟が稼いだ金を兄である俺が怪我の治療に充てるのが本当に申し訳なく、恥ずかしかった
一緒に参加していたのが、いつからか単独で参加するようになった
俺は弱すぎて煙たがられ、弟は指名が増えたからだ
協会の要請で向かった先で何度弟じゃないのかと残念がられ、比較され、否定される度に何かが崩れていく
本当は逃げたかったけど、昔父さんに言われたあの言葉を糧に頑張ってきたつもりだった、一応お兄ちゃんだから
必死に抗ってた時に弟が入院した
弟と一緒に参加していたハンター達は壊滅状態の中五体満足で生還したと聞きホッとしたのも束の間、急ぎ足で向かった病室の扉を開けて固まった
ベットに横になっている人物が誰なのか分からなかった
同じ細胞を分けたからか、2人だけの通じる感覚がある
表情が乏しい弟の喜怒哀楽が分かっていたのも、その繋がりを通じて分かっていたからだ
ここに居るのは確かに俺の弟だ
だが、繋がっていた筈の何かを見つけられず頭がおかしくなる
なぁ、お前は誰だ
肩を揺さぶって問いただしたい、でも此方に気付きごめんと謝る姿に何も言えなかった
何でも出来る弟の入院というアクシデントに気が動転して見落としているだけかもしれない…
そうして俺はまた逃げた
それからは弟は驚くぐらい変わった
目線が体格が…双子と言っても誰も信じて貰えない程の変化と共に力を付けていく姿を見ているしかなかった
俺だけがまた取り残されてしまった
それでも、兄さん兄さんと慕ってくるから兄という仮面を被り続ける、その居場所を必死に守るしか無かった
「兄さん、友達と旅行に行ってきても大丈夫…?」
「…大丈夫だから楽しんで来いよ」
「ん…」
ありがとうと遠慮がちに笑う姿に不自然にならない様に気をつけながら目を逸らす、あの日から弟の本心がさっぱり分からなくなり、会話するのが怖くなった
弟が旅行に出かけて数日後母さんの意識が戻ったと連絡が入った
「おかぁさぁぁぁん」
「ごめんね…葵…」
母妹の邪魔する気になれず2人して病室をでる
特別病棟故に人が少なくがらんとしたロビーの一角
向かいあって待つのも居心地が悪くて、必要ないのに自販機のボタンを押す
「なぁ…母さんが起きたのって、さ」
自販機に埋め込まれたモニターが内部の映像が映し出し、くるくると回転するカップをボンヤリと見つめ話す
顔をみるのが怖かった
「お前が何か、した…?」
「……いや、俺じゃない」
「…そっかぁ、」
軽快な音をならし、出来上がったコーヒーを渡す
目を逸らす弟の姿に紙カップを握りつぶさないか、ヒヤヒヤした
なぁ、俺ちゃんと笑えてるか
「悪い、俺用事あるからさ」
「…え?、母さんは、」
「お前がいるじゃん、大丈夫だろ」
「にいさん…?」
この場に居るのが苦痛で逃げたした
1人遅れて母さんの病室に入った時に目にした3人の仲睦まじい空間に存在を否定された気分だった
母さんはそんな事しないと分かっていても、俺と弟を比べられるのではないかと、母さんからも逃げた
そして嘘をつかれた事に我慢出来ずに弟からも逃げる
なぁ、俺ってそんなに信用も信頼も出来なかったのか…?
全部自分が判断して逃げてきた結果なのに、どうしてと泣き喚きたかった