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    裏稼業Mr.兄弟と🟩と💊🟩の話。
    きっとそう願ってる事。

    #腐マリ
    rottenMarijuana
    #ディエリ
    #シグエリ
    #ドクエリ

    星の導き一歩二歩と革靴を慣らして距離を詰める。
    「…………ダメだなぁ…………お前をこの手で殺せる事が嬉しすぎて顔がニヤけちまうよ」
    そう発した通り、ドクターブラックマリオの眉間から一切外れない銃口を持つエルの顔はずっと嬉しそうにニタニタと笑っている。それに対し、ドクターマリオは何も出来ない。
    「っ君が裏切る可能性は大きいと踏んではいたが、本当に実行するとはね…………この土地で生きていきたくなくなったということか?」
    「こんなクソの肥溜めでまともに生きていきたいと思う奴なんていねぇだろ。それに今の俺には『強〜い味方』が出来たからな。小悪党臭ぇお前の脅しなんか効かねぇぜ」
    親指が撃鉄を起こした。
    「じゃあなマッド野郎。先に地獄に行ってな」
    エルの口角が最大角度まで吊り上がり、引き金にかかる人差し指に力が込められた。
    その時であった。
    『んっふっふっふ〜〜♪それは止めたほうがいいよ、エリリン♪』
    「!!!」
    突然の第三者の言葉にエルの体は強張る。それは猫撫で声の、人を小馬鹿にしたような男性の声。その声を耳にした瞬間に鳥肌が立ったのを自覚したエルの目は発生源を探して素早く回る。そうして見つけ出したのは、デスク上にこちらに背を向けて立っているドクターブラックマリオのパソコンモニターだ。
    『それよりエリリン、もしかして少し痩せたかい?最後に見た時よりも腰が細くなってる。ちゃんと三食食べなきゃ体がもたないよ?』
    エルはそれに答える事も気もなく、即刻にモニターを撃ち抜いた。発砲音と破壊音がほぼ同時に鳴り響く。
    『…………すぐそうやって銃に頼るのがキミの悪い癖。ま!ボクはそんなキミも大好きだけどね♪♪』
    しかしながら神経を逆撫でする声は断ち切れなかった。その事にエルはある確証を持ち、それからドクターブラックマリオに呆れ返った半目を向けた。
    「いっくら場所を間借りしてる立場とは言え、あのクソ変態仮面野郎の覗き見を許してるなんて今世紀最大の大馬鹿だぞ。っつーかオメェ、俺が来た事を知っている前提でいちいちあいつに連絡してたのかァ?」
    「そのおかげで私はこうして命拾いしているのだから一概には言えない。そして報連相は社会人の基本だ」
    裂かれた右耳を庇いつつ、ドクターブラックマリオは起き上がる。
    「私としては次々に人の私物で的当てゲームをする君の方が大馬鹿者に思えるがね」
    「言ってろ、変態に監視されるのが趣味の変態が。冷蔵庫の中身は定期的に入れ替えとけよ?白くて臭くてドロっとしたもん入れられてるぞ?」
    「経験者は語る、か」
    『それなら安心してドクター、ボクがそういう事をするのはエリリンにだけだから♪』
    割れたモニター…………ではなく、この部屋のどこかに、そして至る所に設置されているだろう隠し監視カメラから聞こえてくる声の主は至極楽しそうであった。
    「後腐れが無いように礼を言っておこう。ディメーン氏」
    『どういたしまして〜♪』
    ドクターブラックマリオからディメーンと呼ばれた声はまるで雲のように掴み所がない程に軽い。
    『エリリン、本当に久し振りだね。伯爵やドクターの所にはよく会いに行くのに、ボクの所へは全然遊びに来てくれないから寂しいよ。【定期的な鬼ごっこ】も楽しいけど、そろそろお茶でもしにこない?』
    「だったら居場所を教えろよ。そうしたらアンダーランドの住民全員引き連れて会いに行ってやる。ついでに郵便番号も教えてくれりゃ、全員でC4送り付けてやる」
    『その時は他のゴミ共と区別出来るように、箱には真っ赤なハートのシールを貼っておいておくれよ?んっふっふっふ♪』
    ノイズが混じった不気味な笑い声。
    『さて、本題に入ろうか。ボクはキミの事を凄く愛しているけど、ドクターを殺そうとするのは流石に止めさせてもらうよ。彼は換えが効かない、とても優秀なビジネスパートナーなんだ。三年続くザ・ノアールのと抗争の被害を最小限に抑えられてるのは偏にドクターの情報屋としての、そして医師としての手腕ありきなんだからね。今彼を失う訳にはいかないのさ』
    「それを聞いてますます殺したくなってきた」
    『やめておきなってぇ。ボクが、いや、伯爵が困っちゃうよ?』
    「…………伯爵、だぁ?」
    『そう。は♪く♪しゃ♪く♪』
    気にかかる単語にエルの眉は器用に片方だけ吊り上がる。その間にドクターブラックマリオはデスクに戻って救急キッドを取り出し、呑気に怪我の手当を始めていた。まるでこの先の展開が読めているようであった。
    『伯爵は薬に対する耐性が強すぎて得られる効果が薄い体なのは知っているね?言うならばキミと真逆の体質さ。風邪薬一つも厳選されたものを用意しなければならないのに、そこへPTSDを抱え込んでしまってさ、彼の体質に合う精神安定剤を随分と探し回ったって事も、ナスタシアなんか愛する主君の為に海外にまで手を伸ばして探し回ったって事も、その努力がようやく実って適合する安定剤が手に入ったっていう事も、サ?』
    「何が言いてぇ」 
    『んっふっふっふ〜〜♪』
    ディメーンはそれはそれは楽しそうにエルに告げた。
    『その薬の製造元、何処だと思う?』
    「…………!!!」
    エルの顔が強く強張った。
    そして理解した。ディメーンが割って入ってきた意味と、ドクターブラックマリオの余裕な態度の理由を。
    『そう、我が主の為ならばと大勢の部下達が苦労して探し出し、沢山の札束を捻り出し海外から遥々取り寄せているあの薬は、実はたったの数ブロック離れたこの場所でドクターが開発したものなのさ!彼が開発し、ボクが製造ラインを確保し、海外へ輸出し、巡り巡ってキミ達の手元へ届いたって事!キミ達はオルヴォアールの顧客なんだよ〜!アッハッハッハ〜ッ!!♪♪♪』
    ケタケタと部屋に鳴り響く笑い声は不愉快極まりないものであった。
    『こ〜んな致命的なミスをするんなんて、ナスタシアも相当焦ってたんだろうねぇ。…………彼女は伯爵の事を本当に愛しているんだなぁ…………。ま、ボクはそれを肴にドクターと祝杯を上げてたけど。定期的に大金が、それもボクを何が何でも殺そうと企てている組織のボスの懐から送られてくるんだもの!笑いが止まらないってもんさ!それ以来その日はオルヴォアール内で記念日となって、毎年皆で飲みまくりキメまくりヤりまくりのお祭り騒ぎだよ!勿論、伯爵の金でね!!』
    くつくつと不愉快な声は続く。それにエルはずっと黙りを決め込んでいた。
    否、それは声を挟めなかったの間違いである。
    赤い目は瞳孔を開ききり、それに合わせ眉は吊り上がりきり、並びの良い上下の歯は互いに互いを強く擦り合わせ軋む音を立てている。そこに一般より多少長めの犬歯が目の前の獲物へ存在を主張している。全身に込められた力は軽いものではなく、心做しか髪も髭も逆立って見える幻覚が現れている。その先端である手の平はその影響で微かに震えているが、握り込む凶器の向ける先は絶対に反れず、外さず、崩れず、間違わない。
    地殻の底から這い出てくるような強烈な憤怒と憎悪に頭も心も支配され、エルは言い返す余裕がなかったのだ。
    『…………ハァアア…………やっぱりキミは、唆る顔をする…………♡♡♡サイコーだ…………♡♡♡その顔をボクのモノでぐっっちゃぐちゃにしてあげたいよぉお…………♡♡♡』
    恐らくは設置されている全てのカメラの視点からエルの様子を堪能したのであろう。熱い吐息まではっきりとこちらに聞かせ、ディメーンは高揚とした声を漏らした。
    『…………けど、キミは撃てない。それだけの激情を抱え込みながらも、キミにはドクターを殺す事が出来ない』
    ディメーンの言う通り、いつもの彼ならとっくの昔に引き金を引いているであろう場面なのに、何ならディメーンが乱入してくる前は心が躍る程にドクターブラックマリオを殺害する瞬間を待ち望んでいた筈なのに、今の彼は何故か一向に引き金を引こうとしなかった。
    『だって殺しちゃったらもうお薬作れないからねぇ!お薬のレシピはドクターしか知らないし、ドクターの頭の中にしか存在しない。ボクはドクターの指示で環境を整えただけで、製造に関してはまるきり無知だ。だから伯爵が心穏やかな平穏な日々を送る為にはドクターが必要不可欠って訳。そんな条件下でキミがドクターを殺害する選択を取ることなど性格的に不可能。…………正しく言うならば、キミの【後天的な性質】がその選択を取る事を異論を唱えるからだ。今だってホラ、頭の中は【殺したい思考】と【殺してはいけない思考】が争って回路がめちゃくちゃになっているから引き金が引けないんだろう?』
    断言するディメーン。
    『Mr.L、キミに彼が殺せるか?』
    「………………………………」
    変わらずエルは無言。そのまま暫く動きがなかったが、見開かれていた赤い目が何かを認めるように少しだけ閉じた。
    それから彼は動く。ドクターブラックマリオへ向けていた銃口をずらし、コーヒーメーカーへ向けると数回発砲。新調したばかりの家電が粉々の鉄屑にされていく様子に、ドクターブラックマリオは最早抗議の声を上げる事すらしなかった。
    『んっふっふ、難儀なモノを背負わされたもんだね。エリリン』
    「……………………うるせぇ」
    ようやく口を開いたエルの声は苦しみに喘いでいた。
    『でもキミはまだマシな方だろ?人格障害も言語障害も記憶障害も出ていないしさ。その点シグリンなんて、もう彼は』
    「うるせぇって言ってんだクソ野郎ブッ殺すぞ」
    『んっふっふ、ま、キミがドクターを殺さないでくれるなら何でもいいさ♪』
    パン、とディメーンが手の平を打ち合わせる音がした。
    『さてさて、お話はここでおしまい。実は五分前にボクの兵隊さん達を解き放っているんだけど、そろそろキミの所へ辿り着くんじゃないかな?皆には【ボクの元へエリリンを連れてきた者に昇進&昇給】って伝えてあるから、いつも以上にキミを狙ってくると思うよ。ガンバってね♪』
    「私の軍団も加勢するぞ」
    手当を終えたドクターブラックマリオが久し振りに口を開く。
    「私はこの一戦に参加するつもりはなかったんだがな。裏切りに対する報復はせねばなるまいて」
    『ちょっとちょっと、横取りするつもり?』
    「多少の『手垢』なら貴公の嗜好の範囲であろう?」
    『それは確かに』
    「…………っ人を景品みてぇに扱いやがって…………!!」
    『君は景品だよエリリン〜。A5最高級ランクのとびっきりハイになれる景品さ!』
    苛立つエルを逆撫でするようにディメーンは告げる。
    『さあ、早くお行き。呆気なく捕まるのは趣味じゃないだろう?ボクはキミが必死に無様に足掻く姿も大好きなんだよ。だから兵隊さん達には【繋がっている首は一つでいい】とも伝えてあるんだ…………ボクはどんな姿のキミでも愛する自信があるし、【生きてさえいれば何でもいい】からねえ…………』
    「…………チッ!!」
    ディメーンのそれがハッタリではない事をエルはよくよく知っている。
    白衣をはためかせ、エルは駆け出して部屋を出ていった。その扉の向こうで早速というように銃撃戦の音が聞こえてくるのを尻目に、ドクターブラックマリオは椅子に深く沈み込む。視線の先には大穴を開けて沈黙するパソコンモニターと、粉砕され床にコーヒーをばら撒くコーヒーメーカー。
    「全く。ここは射的場じゃないんだぞ」
    『命があるんだからいーじゃなーい♪』
    疲労のため息と共に吐かれた呟きに、ディメーンは楽しそうであった。
    『それにしても、エリリンは何でそんなにもボクの元へ来るのが嫌なのかなぁ。どんな姿でもいい、どんな様子でも構わないって公言してるのに。毎日美味しい手作りご飯を作ってあげるし、毎日散歩にも行くし、責任持ってちゃんと老衰で死ぬまでお世話してあげるってのに』
    「もう既に意中の人間でもいるのでは?」
    『意中の人間、かぁ…………だとするとやっぱり、彼なのか…………。そんな過去の事も、世界でたった一人の弟の事すらろくに覚えていない相手に操を立てなくても…………おおっと失礼、【キミの事】を言ったんじゃあないよ?』
    「構わない。それよりこの一戦、本腰を入れて挑まないと危ういやもしれんぞ」
    『ん〜?』
    ディメーンの謝罪を軽く受け流し、ドクターブラックマリオは告げる。
    「確かな情報が得られていないので現段階ではただの推測として受け取って欲しいのだが、今回のキティの大胆な裏切り行動及び『強い味方』発言から察するに…………」
    ドクターブラックマリオの瞳が鋭く光る。
    「緑の貴公子が彼らのパトロンとなった可能性が高い」
    『…………へぇ…………あの彼がねぇ…………』
    突拍子も無い発言をディメーンは否定しなかった。
    『勇猛果敢な性格から【赤き英雄】の二つ名を持つお兄さんに代わり、温厚篤実な性格から【緑の貴公子】と呼ばれて世界中から愛されてるあの弟くんがまさかのまさか、悪党と手を組むとは』
    「彼らの置かれた立場から推測すればあり得ない話ではないだろう」
    『確かに。戦う術の無い彼にとっての唯一の武器は、映画業界で築き上げた世界的地位による権力とそれに比例する財力だ。それを利用しない手はないか…………いやはや、この土地の人間の弱点や特性をよく理解してる。彼、可愛い顔してなかなかやり手だねぇ〜』
    「感心している場合か」
    ディメーンの感想にドクターブラックマリオは苦言を呈する。
    「もしこの仮説が正しければ、この一戦を逃したら我々は今後苦戦を強いられる事となるし、欲しい物も手に入らなくなるのだぞ」
    『わかってるさ。ボクの最高戦力を持って挑むよ。だからキミもよろしくお願いね?』
    「既に全武力を投入済だ」
    『さっすがドクター♪んっふっふ〜♪…………フフフフフフフフ…………』
    軽い口調から一転、地を這うような不気味な笑い声が部屋を中に響き渡る。
    『…………絶対に逃さないぞエリリン…………キミと出会ったその時から、目と目が合った瞬間から、ボク達は結ばれる運命だと決まったんだ…………キミはボクだけのものだ、エリリン!!』
    ディメーンから伸びる無数の手はエルを雁字搦めに縛り上げ、二度と陽の光など浴びさせぬようにと地獄の底へ引き摺り込む瞬間を今か今かと待っている。

    ●●●●

    まだ人々が活発に活動しうる夜の始まりの時間、ショータイム十八番地、それに続く一本道の公道、その入口付近に一台の車が停車している。フロントガラスの上に仰向けに寝そべる男が一人。街頭の恩恵も受けず、暗い世界の中で星空を見上げて物思いに耽る男が一人。
    公道の奥からは発砲の乾いた音と、それが連なる連射音が絶えず聞こえてくる。その中の一つに身内がいるにも関わらずシグマは頭の後ろに腕を組み、足も高々と組んで悠々と煙を嗜んでいた。
    深く、ゆっくりと、吸い込む。
    コレをしている時だけ、頭の中のモヤが消えてくれる。コーヒーを飲んでも運動をしても、いつもどこかぼんやりしていて地に足がつかない感覚がある己の頭の中が、ようやく鮮明になってくれるのだ。
    咥えた紙の棒を口から離す事なく煙を吐く。有害物質を含んだ吐息が夜空へ溶け込んでいくのを眺めながら、シグマは想う。
    冴えていく頭で思い出すのは決まって昔の事。
    無気力で朧げな赤目で思い返すのは過去の事。
    自分がまだ『まともに喋れていた』頃の話だ。
    自分達兄弟の生まれはアンダーランドではない。どこかの国のありふれた貧困街だ。道路の脇にゴミだの浮浪者だのが溢れ返っていたのを覚えている。反面、両親の事は欠片も覚えていないし、自身の最古の記憶は質素な作りの部屋にぎゅうぎゅうと押し込まれた二段ベッドの一つに兄弟丸まって眠っている光景だから、恐らく自分達は孤児院に保護されていた孤児だ。捨て子か落し子か戦災孤児かは知らないが、そこでまあ、勉強なり遊びなり、人並みの暮らしを送っていた筈だ。
    豊かな暮らしとは言えないが、安心して眠れる場所があるだけありがたい環境。夢も希望も無いけれど、無事に生きているだけで幸せな生活。振り返る過去が大してない、故に前にしか進めない人生。それが崩れたのはあの黒服達がやってきた日だ。貧困民に配慮など微塵も感じられない上等なスーツを纏ってやってきた謎の男達と、どこか怯えた顔をした院長が何やら話し込んだ後、身柄を引取るという名目で自分達兄弟を含む幾人かの子供達を車に詰め込み、長い時間をかけて謎の巨大な施設へ連れてきた、その日だ。
    …………そこまではよく覚えているのだが、そこから先の記憶がシグマはいつもまともに思い出せない。思い出せるのは断片的な映像だけで、それも殆どが意味が見出だせないものばかり。
    白い風景の中に自身の肌色がある。そこに時々赤色が混ざる。それぐらいしか覚えていない。
    ここで何かがあった。
    ここで何かをされた。
    ここで何かが起こった。
    ここで何かが変わった。
    ここで何かを起こした。
    その一つも、シグマは覚えていない。
    次に記憶が蘇るのは、生まれ育った土地とは違うスラム街の片隅でぼんやりと座り込んでいる光景だった。その時、自身の体は自身の知らぬ間に少年から青年へと成長を遂げていて、そして『全くの別人』となっていた。
    『生まれた時の姿』とは『全くの別人の姿』に変わり果ててしまっている自分であった。
    「…………ん…………」
    煙が全身に回ってきたのを感じ、シグマは体を起こす。
    「…………んン…………」
    手の平を数回握り込む。足首を数回回す。首を数回回す。肌で夜の冷気を感じ取る。肺一杯に空気を吸いこむ。
    「…………ンンン…………」
    視覚から得られる全てが詳細に繊細に綿密に感じ取れる。
    聴覚から得られる全てが詳細に繊細に綿密に感じ取れる。
    嗅覚から得られる全てが詳細に繊細に綿密に嗅感じ取れる。
    触覚から得られる全てが詳細に繊細に綿密に感じ取れる。
    嗚呼、やはり『こちら側の世界』は心地が良い。 
    「…………んはぁアア…………♡」
    感極まる声がシグマから漏れる。その瞳は先程までの濁りきったものから、夜の闇さえ貫く強い赤き光となって輝いていた。
    咥えていた葉を捨て、シグマは装備を纏うと車から飛び降り、一本道を一直線に走り出す。向かう先は戦場。血で血を洗う鉄火場だ。


    シグマには覚えていない事が多い。
    否、他人に奪われた物が多い。
    『名』も『顔』も『目の色』も『髪色』も『身長』も『体重』も『体格』も『性格』も『性質』も、記憶を始めとする『自己を形成するもの』を根こそぎ奪われた。
    今のシグマに残されているのは『兄であること』と『弟がいること』の二つのみ。
    その事すら記憶にあやふやな箇所があって、果たして自分達は本当に血を分けた兄弟なのか、疑わしいものがあった。
    幼き日に一つのベッドで抱き合って眠った相手は本当に彼なのか、シグマにはもうよくわからなかった。
    しかしながら彼は自分を兄と呼んでくれる。
    今もこうして自分の加勢を待っていてくれる。
    なんだかんだと側にいて信頼してくれている。
    それだけでシグマにとっては命を張る理由になり得た。

    兄弟とは、助け合うもの。
    シグマはそう信じている。
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    💯👏👏👏👏👏🙏🙏🙏☺☺☺💴👏👏👏👏👏💞👏
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