全部治したら飛んで行っちゃうじゃないですか「大丈夫ですか?」
「え…?」
血反吐を吐いて何とか獲られた鉱石をかき集め、換金所で得た少ないお金を握り締めぼぅ…と黄昏れていた時に声を掛けられた
「あ、はい…大丈夫です」
まさか見られてるとは思わず、恥ずかしくなりワタワタと慌ただしく立ち上がると勢いよく腹の虫が悲鳴を上げ時間が止まった
「…実はこれから飯食べに行くんですけど、よければ…どうです?一人飯だとつまらなくて」
「……は、はぃ」
恥ずかしさで顔が真っ赤になりながらカフェで遅い昼食をとったのが…美濃部さんと最初の遭遇だった
そこからお互い少しずつ交流を重ねた
美濃部さんは濁していたがきっと高ランクのヒーラーなのだろう…だが、追求してこの関係が壊れるのが恐ろしくて言わなかった
会う度に怪我が増えていく旬に毎度小言を言いながら綺麗に治してくれる…申し訳無く思っていたが、身内以外からの心配は心地よく、擽ったさも感じていた
会う度に平素を繕う旬を毎回見破り、カフェのサンドイッチを旬の口に押し込みながら、旬の頑張りや弱みを飽きもせずただ聞いて肯定してくれた
美濃部さんという存在は、独りで藻掻いていた旬には途方も無い希望になっていた
ふと目が覚めたら、病室だった
あぁ、…美濃部さんと会ってからは1度も無かったが、昔は毎月の様に見慣れた光景だった
痛む身体を起こし違和感に気が付く
視界に入る左右の足の膨らみが可笑しいのだ
不自然に息が上がり、過呼吸の様になる
いやだ…違う、こんな事はありえない…
意を決してシーツを引きはがし旬は絶望した
夜も更け、人気が更に少なくなった協会のロビーを時間をかけてゆっくり歩く
重心が安定せずふらふらとぎこちない動きだが、一歩一歩確実に進む
旬が歩く度にガサガサと揺れる紙袋に少しだけ気持ちが落ち着く紙袋の中身は美濃部さんと良く食べていたカフェのサンドイッチだ
最後の思い出として…引退手続きをした足で買ってきたのだ
足がなければハンターなんて夢のまた夢…
今の旬は松葉杖がなければ生活が出来なかった
出来れば…美濃部さんと最後に話したかったが、こんなみっともない姿を見せたくないという相反する気持ちで揺らいでいたが、結果は会わずに終わりそうだ
「あっ…わっ!」
考え事をしながらだったからか、杖の先端が滑りバランスを崩して盛大に通路に倒れる
ガダンと大きな音をたてて倒れる松葉杖と吹き飛ばされ箱からこぼれ、床に散らばるサンドイッチの残骸に虚しくなって笑いが出てしまう
なんて、なさけないんだ
這いつくばって散らばったサンドイッチを紙袋に押し込むジクジクと痛みを訴えて来る左足が無性に腹が立った
「水篠さん…?」
「…あ」
声をかけられてちらりと視線を向けて固まる美濃部さんが唖然とした顔で見ていた
床にへたり込む旬と松葉杖を何度も視線を動かし見てくる美濃部さんに意地で笑いかける
「ひ、久しぶり…ですね」
普通に、笑える、笑えるだろ…ちっぽけなプライドで頑張ったけど涙が溢れてぐしゃぐしゃでみっともない声しか出なかった
駆け寄ってくる美濃部さんに、絡まって処理しきれないこの感情を、思いを聞いて欲しくて、背中をさする美濃部さんに必死にしがみつく
「おれ、おれハンター…母さんが…っ」
「大丈夫…大丈夫ですから」
辛かったですね…そう言われて通路でわんわん泣いた
この数カ月誰にも言えなくて、抱えてた重圧を少しだけ、手放せた
「水篠さん…もし足が治せるって言ったら、治したいですか…?」
予想外な言葉に唖然と美濃部さんを見上げる
だって、そんなのは無理だ…
「正直、足を治せても…歩けるか分かりません、定期的に俺が定期的に経過を観なきゃ行けない…俺も、水篠さんも負担が増えます」
…それでも、治したいですよね
美濃部さんの言葉に旬は頷くしか無かった
結果は左足は前と同じ様に生えた
が、神経迄は治せなかったようで膝から下は感覚が無かった
それでも視覚的なダメージは減り精神的には楽になった
旬は美濃部の自宅に同居し、治療経過と引き換えに家事全般を受け持っている
家事代行金としてお給料を美濃部から貰えるので旬は今日も、美濃部の帰りを待ち自宅を清掃する