甘美な食料意識が浮上し目を開ける
がばりと勢いよく起き上がり、自分の身体を触り確認する…息を吸えず痛みを訴えていた肺も、穴が空いた身体も綺麗な状態で混乱する…なぜ、自分は生きている…?
「ゆ、め…?」
確かに女王を倒し安堵した束の間、圧倒的な力に為すすべも無く皆倒れ、己は死を覚悟し確かに大我さんに逃げろと伝えた筈だ…
自分の最期を思い出し、自然に息が上がり不規則になる恐る恐る首を触れば、繋がっている
矛盾した記憶と今の状態に理解が追い付かず、ただ呆然としてしまう。
一度は引退し脱ぎ捨てたこの戦闘用の服の窮屈さと、ジワジワと伝わる地面の冷たさに現実なのだと理解する
他のS級は…?大虎さんたちは…?
現実だと受け止めた瞬時、頭の中で情報を処理する
引退しても元S級、1秒でも止まれば命取りになる事は何度も経験してきた
敵は?戦えるハンターは?…負傷者は居るのか?
自身の役割りを果たすために起き上がり、周囲を見渡し体が凍りつく…なぜこの強大な力を醸し出す存在に気が付かなかったのか
「あ…ぁ、」
数歩、たった数歩先にそれは居た
甲虫独特のギチギチと硬く擦れる小さな音をたて首を傾げる存在に目が離せなくなる
荒くなる呼吸と体の震えを必死に押し殺し、メイスを握り直し辺りを必死に見回す、だれか…だれかいないのか
たった一瞬、助けを求めたこの一瞬で数歩先にいた存在は目の前にいた
「あがっ…!」
側頭部を鋭利な爪で鷲掴まれ髪がパラパラと落ちるのが見えたがそんな事を気にしている暇はない
「ひっ…あ、ぁ」
恐怖から震える身体が面白いのか、細い副脚が美濃部の身体を何度も行き来し時折装飾の表面をカリカリと削る
顔を背く事も目を逸らす事も許されず、これから起こる事態を受け入れるしか無かった
「た、いがさ、たすけっ…」
ガパリと大きく開いた口を見ながら今度は助けを呼んだ