三年間の同居~始まりにわか雨が降り始めた街中の駅、出口で雨に気付き二の足を踏む友一の頭上に、開いた傘が差し出される。
友一が見上げると斯波真次の顔、着ているのはスーツ。柳眉をひそめる友一。
「自宅まで送りましょうか」
しばらく睨んで考えた後、無言で傘に入り一緒に歩く。
「で、何の話だ」
「何のとは」
「はぐらかすな、偶然じゃないだろ」
「…… しばらく探してました。遠回りしてよろしいですか」
「よろしくなくてもするんだろ」
場所移動。静かな広い公園。
「あの時の作文について、質問があります」
「作文?」
「第三問」
「ああ」
「あれは、不正解と言われる上での作文だったのでしょうが、少しでも私の心を折れる要素があると思ってました? つまり君から見て、私は父親の承認欲求があるように見えたという事かい?」
「…… 正直半々だった。先生が尊敬されてるとは思ってなかったし、父親とはいえあんな人間に大事にされたいのか分からない。ただ、プライドの高そうなお前なら認められたがったんじゃないかというだけ」
「そうですか……」
「聞きたいのはそれだけか」
「いえ。友一君、私の家族になって下さい」
「意味が分からない」
「私はもう、君に勝ちたいとは思ってない。予備は、予備だった。本物には勝てない。それは本当にもういいんです。
ただ、あれから友一君の事をよく考えています。父が後継者と認めた君だから気になっているのか、君自身に興味があるからなのか、分かりません。
君なら、私に正解を教えてくれるでしょう。共に暮らして私の疑問解消に付き合ってください。私の中にあるのが父への感情だけなら、それでいいですし、もっと違う感情が持てるなら、その正体を知りたい」
「俺は嫌だ。どうしてそんな事に付き合わないといけないんだ。お前が父親に復讐したいだけじゃないのか」
「そうでしょうね」
「肯定するのか」
「大事にしますし、優しくしますよ。本物の兄のように」
「気色悪い。本気で引き金を引く奴の事なんか信用出来るか」
「嘘ですね。有言実行した人間ほどあなたは信用する。実行した内容の倫理などあなたには関係ない」
「絶対いやだ。お前の目は父親似だ、見たくない」
「すぐ分からなかったくせに」
「……」
「睨まないで下さい。普段はメガネかけましょうか」
「クズはいらない」
「今の仕事からは手を引きましょう」
「感情があると、仕事を失敗するんじゃないか」
「今の仕事から手を引くなら、受けてくれるかい?」
「……受けるわけないだろう」
「今、私はあの時のように、あなたの友達を盾にすることが出来ます」
「また拒否する権利を使わせない気かよ」
「クズですから。もし、あなたが私の空っぽを満たしてくれれば、あなたの友達を盾にとれなくなるでしょう」
「…… 一ある感情を増幅したり向きを変える事はできるけど、ゼロの感情をどうにかする事は出来ない」
「今のは嘘ですね。あなたはゼロから信頼だって憎悪だって愛だって作れる」
「……」
「もう反論はありませんか? 家族が嫌なら恋人でいかがですか」
「理論が飛んでる」
「土下座しましょうか」
「(ため息をつきながら)期間は?」
「十年」
「一ヶ月」
「五年」
「一年
「三年」
「…… 分かった、三年だな」
「準備が出来たらお迎えに上がります、友一君」
一週間後。
薔薇の花束と共に迎えに来た真次と、日用品の買い物で出掛けた友一が通りで鉢合わせ。
「お迎えに来ました♡」
「お前本当に空気読め」
《終わり》