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    せんかMY

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    せんかMY

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    ショパンは別れの曲とノクターンが好きです(関係ない)

    あらしのおと 屋根を叩く雨音で、沈みかけていた意識がうっすらと戻った。そういえば夜中すぎ頃から豪雨だと天気予報アプリから通知が来ていた気がする。意識は浮上したもののまだ微睡みの中にあって、もう一度眠りたいと手放そうとした瞬間、隣の気配が動いて再度目が覚めた。
     隣、つまりユキも目を覚ましたのか、身じろぐ気配があった。このアパートは全体的に安普請だから、屋根を叩く雨音はものすごくうるさい。この豪雨ならそりゃ目も覚めるだろうってくらい激しく叩きつける音が部屋を覆っていた。
     むくりと起き上がって、ユキは枕元を探った。小さなノートがあって、作曲のためのメモがぐちゃぐちゃ書き込まれているやつだ。
    「電気つける?」
     オレは枕元に置いてあったスマホをつけて、ノートが見えるように明かり代わりに差し出した。
    「ありがとう、これで見える」
     嵐の音で曲ができそう、とユキは嬉しそうに言った。それから小さく音を口ずさんでメモになにやら書き込みはじめた。
    「嵐で曲ができるんだ、すごいね」
    「自然現象はいつだってアーティストのインスピレーションの元になる。ショパンだって雨の曲を作っただろ」
     ショパンって名前くらいは聞いたことがあるけど、雨の曲っていうのはよくわからなくてオレは曖昧にうなずいた。サッカー一筋で勉強はおろそかだったオレと違って、ユキはいろんな知識を持っていてすごい。
    「天気とか、景色とか…風景とか、そういうものでふと何か降りてくることがある」
     サッカー少年だったオレにはピンとこない。荒天はいつだってスポーツの敵だからだ。
     でも、ユキが嬉しそうだから、なんだか今までに体験した嵐とは違う気がして、ドキドキした。

     ぴかぴか、窓にかかった薄いカーテンを通り抜けて白い光が部屋を明るく照らす。
     ユキの横顔が照らされて、睫毛の影が深く頬に落ちる。
     どぉ、と遠くで響く落雷音と、安い屋根を叩くうるさい雨音に耳をすませて、小声で音を唇に載せながらユキのメモはどんどん書き進められているようだった。
     土砂降りの嵐の中で、明かりもない部屋をぴかぴか白い光が何度も部屋を照らす。遅れてとどく鈍い地響きにも、ユキは目を細めて聴き入っているように見えた。

     魔法みたいにできていく旋律にわくわくして、眠気が飛んでしまう。
     オレがその様子をずっと見つめていることなんて気にもせず、ユキは嬉しそうに嵐の音を拾い集めていて、それをずっと眺めていたい、とオレは思う。なんだかそれが本当にできそうな気がしたけど、この嵐もきっと朝にはどこかへ去ってしまうんだろう。

     なんだかとても勿体無い。もっとたくさん嵐が来ればいいのに、人生ではじめてそんなことを願った。

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