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    fauxfurrrrr

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    fauxfurrrrr

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    サプライズについて悶々とする鯉登くんのお話。
    とってもハッピーでラブラブです!
    しあわせな誕生日&クリスマスを☆*。
    ※お友達として杉元が出てきます。

    「ぐんそーはサプライズとかするタイプ?」

     お決まりのクリスマスソングとどこか浮足立った人々の会話をBGMに、前世からの腐れ縁である学友が出し抜けに口を開く。

    「なんだ杉元やぶから棒に」
    「いや、だってそういう時期じゃん」

     私の誕生日とクリスマスがまとめてやってくる“そういう時期”。
     杉元が珍しく「今日は奢るぜ」なんて言うので、ふたり、学食で日替わりランチをかきこんでいた。
     食べるのが早い杉元の皿はすでにピカピカで、食後のデザート代わりの雑談といったところだろう。

    「月島はそんなまどろっこしいことはしない」
    「ふーん、まぁなんとなくわかるけど。たまにはいいもんだぜ」
    「そういうもんか」
    「そういうもんよ。食い終わったんなら早く帰ろうぜ。どうせ今日もぐんそーと会うんだろ?」
    「ふふっ。今日は誕生日兼クリスマスパーティーだ」
    「ラブラブだねぇ」
    「当たり前だろう」

     

     サプライズか。考えたこともなかった。

     焚きつけるだけ焚きつけてちゃっかり食後のアイスを私に奢らせた杉元と別れ月島の家へと急ぐ道すがら、ぼんやりと思い巡らす。
     月島と再会し、恋人同士になって早一年。
     今世での私たちはただのサラリーマンと大学生で、互いに向き合い他愛のない日々の話をする時間がたくさんあった。
     「今日は何を食べようか」も「次はいつ会おうか」も「どこに遊びに行こうか」も、私たちはたくさんのことをふたりで話し合って決めてきた。
     そして、私はその時間が大好きだった。
     私のあれしたいこれしたいを聞いているときの月島はいつも嬉しそうで、そんなやさしさを何度も何度も好きになる。かと思えばたまによくわからないこだわりを見せてくるところも愛しいし、少しギスギスした話し合いも言葉を交わしていくうちに棘が抜けていつものふたりの丸い雰囲気になっていく。
     だから、サプライズすることでそんな大好きな時間が減ってしまうことが、なんだかすごく勿体ないことのような気がするのだ。
     それに……ベンツに乗って登場する月島?フラッシュモブする月島?……なんか違う。
     寒さのせいか、はたまた解釈違いの想像のせいか、ぶるりとひとつ身震いしたときだった。
     白い息の先、キラキラが散りばめられたショーウィンドウが目に留まる。

    「指輪……」

     華やかな街の中でも一際輝いて見えたそのジュエリーショップの店先で、あの日交わした未来の話を思い返した。

    *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟*
     
    「鯉登さんはペアリング、欲しい派ですか」
    「うん。欲しい派」
    「うーん……」
    「月島はいらん派か?」
    「いや、指輪を買うときは結婚指輪かなって、思ってたので」
    「結婚……」
    「結婚、しないんですか?」
    「する!絶対する!いつする?」
    「あなたが大学を卒業したらですかね」
    「んー、まだまだ先だな……」
    「俺、ずっと楽しみにしてますから」
    「私もだ」
     
    *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟* *↟⍋↟*
     
    「よろしければ中でゆっくりご覧ください」
     店内からの声掛けにはっと我に返り、少し見るくらいならいいかと誘われるがまま足を踏み入れる。
     店の中ではカップルもひとりの人も皆一様に幸せそうな顔をしていて、つられて心が浮き立った。

    「あ、」

     美しく並べられた指輪の中に、月島によく似合いそうなシンプルな指輪を見つけて思わず声が漏れる。

    「これ、いいですね」
    「ご試着なさいますか?」
    「はい!」

     渡された指輪をはめてみると何の飾り気もない白金の輪が薬指でやさしく輝き、まるでずっと私たちのものだったみたいにしっくりと馴染んだ。

    「いいなぁ」
    「いいですね」

     色の白い月島には更に似合うだろうな、などと考えながら揃いでこの指輪をはめている月島を想像して、思わず頬が緩む。
     ――私がこの指輪を“サプライズ”でプレゼントしたら、月島は喜ぶだろうか。
     喜ぶだろうな。ふたりで分かち合える幸せならなんだって。

    「お相手の方のサイズがお分かりであればすぐにお持ち帰りいただけますよ」
    「……サイズは分からないんです」

     私よりいくらか太くて骨張っているということしか分からない月島の指を想う。サプライズへの道のりは存外険しい。でも、それなら――

    「また今度、一緒に来ます」


     店を出て、またひとつ楽しみができたと心が弾み、早く月島に逢いたくなって小走りに街を抜けていく。
     それにしても、指輪のサイズを相手にバレないように調べるなんて並大抵のことではない。
     そして、相手の喜ぶ顔を想像するあの時間は、なんとも幸せな時間だった。

    「確かに、少しいいもんかもな」

     独りごちて、こっそりにやけて、小走りが本気の走りになった。
     
     

    「ただいま!」
    「あ、鯉登さんおかえりなさい。寄り道したでしょ?」
    「ふふっ、ちょっとだけ」
    「やっぱり」

     いつもの笑顔でいつものように迎え入れてくれた月島を見て、ほっとする。
     ――やっぱりこれがいい。

    「なんです、にやにやして」
    「いや、月島が踊り出さなくてよかったなって」
    「はい?」
    「こっちの話だ」

     シンプルで無機質な月島の部屋の中、ふたりで買った鮮やかな色のブランケットが少し浮いているのがおかしくて愛おしい。
     テーブルにはふたりで選んだグラスとお皿とカトラリー、ふたりで決めたメニューとケーキが賑やかに並んでいる。

    「あいがと月島!わっぜ豪華だっ!」
    「間に合ってよかったです」
    「準備大変だっただろ?」
    「いえ、楽しかったですよ。ほら、早くコート脱いで手洗ってきてください。食べましょう」
    「うん!」


     
    「おいしかったぁ」
    「食べましたねぇ」

     ご馳走はあっという間にふたりの胃袋の中。
     来年もこの店のケーキにしようか?
     旅行に行くのはどうですか?
     ふたりだけのささやかで幸せなパーティーの最中も、私たちは相変わらず未来のことをたくさん話し合った。

    「来年も楽しみだっ」
    「ははっ、まだ今日も終わってないのに」
    「今日から来年まで、ずっと楽しみにしちょっで」
    「いいですね」

     ひとしきり笑い合ったところで、まずは私から、赤と緑の包装紙でラッピングされた小さな包みを取り出す。

    「月島っ。はい、これ」

     事前にお互い何が欲しいか確認し合ってから準備したプレゼント。月島からのリクエストは『暖かそうなマフラー』だった。

    「ありがとうございます。開けていいですか?」
    「うん。開けて開けて」

     包装紙を解いて私の選んだマフラーを見るなり頬を緩めた月島が、首にくるりとそれを巻いてみせた。

    「あったかいです」
    「なぁ月島、マフラーは全部あったかいんだぞ?」
    「でも、これは特別あったかいです」
    「そうか。それはよかった」

     暖かい部屋の中で部屋着にマフラー、ちぐはぐな格好のままの月島も、小さな包みを取り出す。

    「これは俺からです」
    「あいがと!」

     包装紙の中には私のリクエストした手袋が行儀よく収まっていた。

    「嬉しかぁ。デパートまで買いに行くの大変じゃなかったか?」
    「緊張しましたがなんとか」

     私のために不慣れな場所に行きどぎまぎしながら買い物する月島を想像したら、このプレゼントへの愛おしさがますます募る。

    「……はめてみてください」
    「うん!絶対似合うから見ちょって」

     まずは右手からはめてみる。嬉しくて、暖かくなった右手を月島に向けて振ると、月島も嬉しそうに笑った。
     左手も。
     同じように手を入れたとき、何か小さなものが中に入っていることに気づく。

    「ん?」

     中からそれを取り出すと、見覚えのある輪っかがきらりとやさしい光を放った。

    「…………月島ぁ!」

     さっきあの店で見た、あの指輪――

    「この指輪!ないごて!?」
    「……たまにはこういうのも……ペアリング、鯉登さん喜ぶかなぁって……」

     恥ずかしそうに俯いた月島の左手薬指にも、同じ指輪が煌めいている。それは店で想像したとおり、月島にとてもよく似合っていた。

    「わっぜ嬉しい!……でも、どうしてサイズ分かったんだ?」
    「寝てる間に測らせてもらいました」
    「全然気づかんかった……」

     びっくりして、ドキドキして、飛び上がるほど嬉しい。
     これがサプライズか。
     ――確かにすごく、いいものだ。

    「月島、ほんとにあいがと。大好きっ」

     思わず抱きしめた腕の中、月島が小さくつぶやく。

    「喜んでくれてよかった」

     そして、安心したような、それでいて照れくさそうな、幸せに満ちた顔で笑った。
     
     こんな素敵な顔が見られることは聞いてないぞ、杉元。
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