執行者アニマルセラピー奮闘ふくちゃん最近、円卓の空気が重い。原因はよく分からないが、巫女に何か落ち込む出来事があったらしい。……不抜けているな。浜辺に呼んで根性を叩き直してやりたいが、そういうタイプの空気じゃないことくらい、人形の私でも分かる。以前、執行者に教えてもらった。人という生き物は、時に落ち込む事も大切なのだと。しかしいつまでも空気が重いのも鬱陶しい。根性を叩き直す、以外に何か方法はなかろうかと思案する。そしてふと、最近読んだ本を思い出した。これしかあるまい。思い立ったが吉日だ。早速執行者の元へと向かった。
「オイ」
庭で絵を描いている執行者に声をかけると、無言でこちらを振り返る。
「獣になれ」
突然の要求に一瞬固まって、首を傾げた。
「あにまるせらぴーだ。最近巫女が不抜けてる」
確かに最近、巫女が落ち込んでいて円卓の空気が重いのは執行者も感じていた。復讐者の言葉に納得して、それからその可愛いお願いに、くすくすと笑うように手を口元に当てて肩を震わせた。少し待てというような仕草をして、執行者は画材を片付ける。一つ伸びをしてから、獣に姿を変えた。
「はやくしろ」
姿を変えるや否や、復讐者がぐいぐいと角を引っ張って、巫女の元へと連れていく。
「オイ」
円卓のバルコニーの前に佇む巫女に、声をかける。振り返った巫女は、獣の姿をとった執行者に首を傾げた。
「撫でろ」
「えっ」
復讐者の突然の要求に、巫女が更に困惑する。失礼ではないだろうか、不躾ではないだろうか………そうして戸惑って固まる巫女の腕を復讐者が掴むと、獣の姿の執行者を触らせた。
「どうだ?ふわふわだろう?」
ふわふわ……と言うよりは硬さのある毛だが、手触りはすこぶる良い。
「元気がでたか?あにまるせらぴーってやつだ」
得意げな顔の復讐者に、ようやく状況を理解した。どうやら自分は、人の感情の機微に疎い復讐者にすら分かるほど落ち込んでいたらしい。気を遣わせてしまったなと反省をする。
「ありがとう。少し元気が出たわ」
そう言って微笑んで手を引っ込めようとする巫女の腕を、再び復讐者が掴んだ。
「うそだ。まだ不抜けてる。そうだ、アレをやろう」
復讐者は執行者を寝そべらせると、巫女をぐいぐいと押して蕎麦に座らせ、執行者にもたれかからせる。
「あにまるせらぴー第2弾だ。どうだ?元気が出たか?」
全身を心地の良い毛に覆われて、程よい温みについ息をついた。そして、ここ数日よく眠れていなかったからか、うとうととし始める。
「眠いのか?なら寝ろ。人間は寝ないと不抜けるからな」
復讐者は満足そうにふんぞり返って、復讐者自身も執行者のそばに座るともたれかかる。そして執行者もまた、2人の程よい温みと重みに微睡んだ。