君に会うまでは、寂しさなんて知らなかった。眠れない朝の四時。午前三時を回ったころに自室のテーブルに広げたパズルピースはどれとも繋がっていない。今のナギと同じだ。
HE★VENSは朝型のメンバーと夜型のメンバーに分けられるほどに生活のリズムが違っていた。スケジュールとの兼ね合いが大前提だが、綺羅、瑛一、瑛二は朝型と言ってもいいほどに早い。ナギも朝型なのだが、この三人は夜明けと共に起きるほどだ。それとは反対にヴァンが夜型なのだろう。ましてや他のメンバーに比べて仕事後の打ち上げや食事に誘われることも多い。今日の帰宅もナギがベッドに入ってからだった。そうなると、昨日も今日も顔を合わさずに過ぎてしまう。本当に好きな人に会えない寂しさは一粒の夜のようにナギの心に染みていく。
起床時間が早い者から帰宅時間が遅い者まで住んでいる大所帯でも、一時だけ訪れる静寂。短針がゆるやかに動いても、静寂に包まれたまま。部屋の窓から覗いた空も夜の闇が薄れていた。
思えば、ナギが瑛一と綺羅とでHE★VENSを結成してから、忙しい日々が続いていた。メンバーの増員や、ダンスに歌のレッスン、みんなでアイドルとは何かを話し合った日もある。こうやって落ち着いた日々になったのはつい最近だろう。メンバーみんなで過ごすオフも増え、いいことばかりだと思っていた。ただ一つの欠点は、ナギに寂しさを教えたことだ。
特にヴァンと会えない日々が続けばムカムカとした感情の後に、この薄らいだ夜に浮かぶ月のような寂しさがナギの胸を占めた。月と夜のようにそれでしか埋められない感情。瑛二とのティータイムやシオンとのお昼寝でも、埋めることができない。ガラス越しの向こう側の月に腕を伸ばし、隣人に語りかける声音で月へと囁いた。
「ナギと一緒だね」
夜に置き去りにされた月。夜と共にあるはずの月が、夜に置いてきぼりになって孤独に輝いている。
朝を出迎えることもできずに独り空へと浮かんでいた。