雑諸①春の昼下がり。
山奥の庵に、鶯の声がこだまする。静けさの中に命の息吹を感じるこの地で、雑渡昆奈門は縁側に身を横たえていた。身体のあちこちがいまだ焼け爛れてはいるものの、季節が暖かくなるたびに、その痛みは幾分やわらいでいくように思えた。
「こんなもんさま、お背中、また痛みますか?」
声をかけてきたのは、いつもの坊だ。
十二歳の小さな少年。己を看病するために父に代わってここまで来て、もう二年になる。
「いや…今日はずいぶん調子が良い。坊のおかげだな」
「えへへ…」
照れたように笑う坊の笑顔を見ると、どうしてだろうか、胸の奥がふっと温かくなる。
あの日、坊の父を庇って業火に巻かれ、すべてが変わった。
生きるも地獄かと思ったが、この小さな看護人の笑顔が、どれほど己を救ってくれたか。
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