雑諸②蝉の声が絶え間なく響く庵のまわり。
夏の山は命の気配に満ちていて、遠くの空まで揺れるようだった。
「こんなもんさま、今日は…お散歩しましょう」
坊の言葉に、雑渡昆奈門はゆっくりと顔を向けた。
もう何度目になるだろう――坊の手を借りて、庭を歩く練習を始めてから。
「歩けるかな…今日は少し、膝が重くてね」
「大丈夫です。私が支えますから。ほら」
坊が小さな掌を差し出す。その手は、雑渡の大きな手にはまるで子鳥のように頼りなく思えるのに、不思議と安心できた。
「ふふ…坊は、随分と逞しくなったな」
「えへへ、最近、ごはんもたくさん食べられるようになりましたから」
二人はゆっくりと、縁側から庭に降りる。
夏草が伸びて、あちこちに朝顔や野いちごが揺れていた。
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