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    merukosu

    @merukosu

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    merukosu

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    【今を生きる覚悟】 先を行くセパルを追って、ダンテたちも急いで前を急ぐ。先程の幻想体が残したであろう液体の痕跡が無くなった頃、またもや目の前を塞ぐ何かが見える。

    《…ボタン?》

    「そう…ですね…?」

    「正確にはボタンに扮した幻想体です」

    「そりゃみんな分かってんだろ…」

     ついポロッとファウストの言葉に突っ込んでしまったアルフォンスは、彼女の表情を見てヒュっと顔を青くした。多分、彼女の持つ人格のせいもあるだろうが、どうにも苦手らしい。

    「どうするんですか? このまま通れそうにはないですけど」

    「ぶっ壊しちまえばいいんじゃねぇか? 殴れば壊れんだろ」

    「そんなことして取り返しがつかなくなったらどうするんですか」

    「うるさいぞ! ここは管理人様の指示に従うべきだろう、ですよね! 管理人様!」

    《…うぅん。 そうは…言われてもな》

     ぽつんと廊下を塞ぎ、いかにも押してはいけなさそうな赤いボタン。幻想体であることは間違いないが、攻撃してくる様子もない。

    「あ、なんか文字が出てきたよ」

    「ふむ…"たっちみー"? 押せばいいでありまするか?」

    「バカ正直に押してどうするだ。 旦那、どうする?」

     タバコをくわえ、お手上げだとジェスチャーするグレゴールを横目に、ダンテはじっとボタンを見つめる。果たして押して良いものか、でもこういうのって大抵、押しちゃダメなものだと思うんだけれど。

    「「《!!!》」」

    ビーッビーッ。
     唐突な警報音に、チカチカとボタンはあからさまにヤバそうな明かりを放つ。ジジッと浮かび上がっていた表示は、カウントダウンに変わり着々と減っていた。

    「ね、ねえ! どうするのダンテ!」

    「お、押した方がいいんじゃないですか…?! 爆発なんてしたら…僕たち粉々ですよ…!」

    《ムルソーッ!》

    「……御意」

     ダンッとそのまま真っ二つに割る勢いでムルソーはボタンを殴る。腐っても幻想体なのか、それはヒビひとつ入らずにゆっくり沈んで、離すと同時に元の高さに戻る。
     何も起こらなかった。何も。
     普通こういうのに触れば、たやらめったらなことが起こると相場が決まっているはずなのに。むしろ怖いくらいだった。

    「何も起こらないな」

    「チッ、つまらんな」

    「良秀さん…」

    「どうするの? 振り出しに戻っちゃったけど」

    「…もう一度押してみますか? 案外上手くいくんじゃないですか」

     再びtouch meと浮かび出てくるボタンに、イシュメールは面倒くさそうに武器を横に振った。
     確かに押せば何か起こるかもしれないし、取り返しのつかないことになってしまうとしても押す他道は無い。最初から選択肢があるようで、無いものなのだ。

    《…押してみよう》

    「やめといた方がいいですよぉ」

    《…何かいい案があるの?》

     もう一度ムルソーに押してもらおうと指示を飛ばそうとした時、セパルは先程と同じような冷たい視線でダンテを見る。そこにあるのは侮蔑でもなく、呆れでもない。ただ静かな妬み、恨みが籠っていた。
     その表情の理由をダンテは知っている。彼が何故ここにいるのかも、はっきりと聞いた訳じゃないが…きっと、予想通りなのだろう。

    「…これは人の心を熟知した厄介なものですぅ。 …1度押せば、きっと通れますよ」

    「なんでそれを最初から言わねぇんだ、魚野郎」

    「貴方がそう呼ぶからです」

     ピシャリ。冷えた目線は、囚人全員を向く。それはファウストも含め、誰も彼もに恨みを向けていることを意味していた。きっと、その一言だけでは無い何かが詰まっていることに、ヒースクリフも気づかないほど馬鹿では無い。
     ずっと、怨んでいるんだろう。

    「…ほら、もう遮るものなんて…初めからなかったでしょう?」

     また、同じようにセパルは前を行く。その先にある、何かから逃げたいはずなのに。
     いつの間にか首にぶら下がっていたものを手に取り、そっと覗いてみた。
     彼の後ろに、やけに明るく、青い影があるのを見ないふりをして。

    [E.G.Oギフト:暗視鏡を獲得]



    ◾︎



    《セパル、いいがげん話を》

    「…ほら、また敵ですよぉ?」

     けらけらと笑い、扇で前を指す。青く、愛らしい狼の方をした人形が扉の前に転がっていて、アレは鏡ダンジョンでも見たギフトのひとつだったはずだ。

    「なぜこんなところに…?」

    「ムカつくな。 いい加減洗いざらい話したらどうだセパル。」

     ふぅと煙を吐き、イラつきを隠さない良秀はセパルに刀を向けた。その様子にも微動だにせず、むしろ殺せばいいと言わんばかりに首にはを添えて笑う。

    「貴方の望み通りにすればいい」

    「…気にいらん。 好きにしろ」

    「なぁ、あれ、なんかでかくなってねぇか」

     むくむくと巨大化する人形に、収集はつかなくなっていく。同時にふたつの問題を起こすなと怒ればいいのか、君の敵になりたくはないとセパルに言えばいいのか。
     きっと、どう言ったところで今の彼に届く言葉がないことは、アルフォンスの様子を見れば一目瞭然だろうに。
     それでも諦めきれなくて、みんな健やかにいて欲しいと望むのは傲慢なのだろう。

    《アルフォンス、妖精酒を》

    「はいよ〜! 待ってたぜ、その言葉」

    《ムルソー、ロージャ、執行で体制を整えてくれる?》

    「はいは〜い。 みんな治してあげるわよ〜!」

    「対処しよう」

     あれはきっと、おとぎ話にも出てくるオオカミだろう。布と綿でできているだろうからだからは鋭利な爪が飛び出し、ファウストの呪いの釘を彷彿とさせる。厄介なことに、爪の攻撃には返しが付いているのか、食らった囚人たちから出血が止まらない。

    「攻撃の一つ一つが重く戦闘が長引けば不利になっていく。 管理人様、迅速なご判断を」

    「っ、いちいち攻撃が素ばやいんだよッ バットがぜんぜん当たらねぇ!」

    《イサン、烏瞰刀で支援を。 みんな、人格装着準備》

     人格は長い間つけていると負担になるため、できるだけ後半に入ってからと気を使っていたけれど。もうそんなことも言ってられないくらいにはいっぱいいっぱいで、そんな中今の現状を打開できる策を知っているセパルは諦めた顔をして笑っている。
     こんな時に自暴自棄なるな!とは言えないし、でもものすごく迷惑したんだと、後で叱ろうと思う。

    「よしっ、爪は壊したッ あと頼むわ!」

     そう言って踏み殺されるアルフォンスと、慌てて死体回収に行くシンクレア。

    「インクを集めるには最適だな」

    「そんなこと言ってないで早く止めてください!」

    「貴様ら! 戦闘中は統率が1番の要だ! 好き勝手するんじゃ…」

    「じゃあ怒鳴るのやめましょうよ〜? 平和的に行きましょう?」

     一際楽しそうに嬲る良秀に、やんのやんのと他囚人たちが集まっていく。

    「ふぅ…何とかなりそうだな?」

    「うむ! これもイサン殿のおかげでありまするな!」

    「ドンキホーテ嬢の実力故なるぞ」

    「ふふ、そんなこと言って嬉しいんでしょ〜?」

     速度の上がった面々が追撃を成し、ついに狼の姿をした幻想体は卵に還る。けれど、それで終わりじゃないことはダンテだけが知っていて。

    《まだだ。 …来るよ》

     急いで人形に戻った幻想体を拾い、ジリジリと這い寄る人魚姫に対峙した。

    [E.G.Oギフト:小さくて悪くなる人形]
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