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    merukosu

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    merukosu

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    ゴンくんと🐣の話。ご飯食べに行こう

     何がきっかけでその話になったかは忘れてしまったけど、いつものヘラヘラとした表情が消え「…じゃまくさなってもうて、殺してしもうたわ」とニンマリ笑った姿が忘れられなかった。
     嘘だと思ったし、そうであるなら何故そんな顔をするのかと聞きたかったけれど。焦った他の人が別の話にしてしまって、聞く機会はなくなってしまった。
     だから、良い機会だと思ったんだ。

    「珍しゅうね。 シンクレアはんがご飯のお誘いなんて」

    「そうですか…? ゴンさん料理のために美味しいお店探してるって聞いたので」

     シンクレアは、ついこないだロージャに「すっごく美味しかったの! 今度おちびちゃんも連れてってあげるからね」と教えてもらったチェーン店へとゴンを案内した。
     バスはしばらく停車すると言うし、お金を使う機会なんてこういう時くらいしかないから。

    「名前は聞いたことあるんやけどなぁ、来るのは初めてや」

    「ロージャさんいわくランチの欲張りセット? が美味しいらしいんです」

    「ほぉ? あ。 あれですかい? よぉく見える所に書いてありますわ」

     きゅっと細められた目線を追えば、確かにでかでかと欲張りセットと書かれた張り紙と食品サンプルが見えた。多彩なおかずを盛り合わせた、いわゆるお子様ランチと呼ばれるものに近い。

    「結構賑おうてるなぁ? こりゃ味が楽しみですわ」

     それもそうだ。この店は値段も安く、それでいて美味しい。裏路地御用達の人気店なんだとか。

    「こ、ここは僕がだすので…!」

    「ふふ、そんな気張らんでも、お互い同じ額貰っとるやろ? あ、それか今度は行く時はジブンが奢るでもええで?」

    「…じゃあそれで…」

     店員の案内に誘導され、少し奥の方のテーブル席に座る。多少並ぶかと思ったが、大盛況な分席の数も多いようで入ってすぐに席につけてしまった。
     ふむふむとメニューを見るゴンは、いつもより気持ち目を開けていて、深緑の瞳が輝いていた。目が悪いのか、それともそういうものなのか。どちらにしろ喜んでいることは確かだろう。

    「ほなやっぱりオススメにしましょうかね。 シンクレアはんはどうするん?」

    「うーん………僕も同じものにします」

     ペラペラとメニューをめくるけれど、特に食べたいものもなく。それならばロージャさんの舌を信じるのが一番かな、と2人で欲張りセットを注文した。

    「そんで? なんか聞きたいことでもあるん?」

    「へ?」

    「流石にそんな鈍くあらへんよ…。 聞きたいことがあるんですぅって顔しとったで?」

     こてんと首をかしげ、ぽけぇと空いた口からは鋭いことばかり溢れてくる。何も考えてませんよなんて顔をしておきながら、全部お見通しのようだ。

    「…………以前、その………僕らの、生い立ちの話になったじゃないですか」

    「…………そうやねぇ?」

    「…その時、嘘…ついてましたよね」

     殺してしまった。そういった時の彼は、自分がクラスメイトに愛想笑いを向けていた時の感情と似ていて、何処か遠くに何かを見ていた。
     こういうことには触れない方がいいと、分かっている。でも、いつも飄々としてる彼が初めて見せた薄く柔い所を見てみたくて。悪いことだと、自覚はしているんだ。

    「どないしてそう思ったん」

     ほら、その顔。
     自分は酷い人間なんだと思う。その表情、化けの皮が剥がれる瞬間に、触れてはならないと分かっていて触らずに居られないんだ。
     クローマーの時だってそうだ。悪いことをして、少し、少しだけ親に反抗心が向いて。それで、取り返しのつかないことをした。
     いつだってそう。ほんのちょっとの好奇心が、自分の首を絞めた。

    「…そこで黙りされると困るなぁ。 シンクレアくん」

    「…ッ!」

    「触れたからにはきちんと付き合ってくれないと。 な?」

     笑顔が消えた彼から逃げ出したくなって、どうか早くこの空気を打開しなければと言葉を発そうとしたけど、詰まってすり抜けてしまった。

    「お待たせしましたー。 ランチセットです〜」

    「お〜! おおきに〜! はぁ、仕方あらへんな。 ご飯は美味しく食べるもんやし」

    「あの」

    「いいよ別に。 まだまだジブン未熟やさかいな。 でも覚悟もあらへんのに触れちゃあかんよ?」

     その通りだった。ゴンはすっと目線を運ばれてきた食事に向け、もにゅもにゅと食べ始めた。
     傍から見ればこんなに幼く、無知で無害そうな人なのに。根底にある暗闇はどこまでも続いているようで、それは自分にも言えたことだ。

     ぱくりと1口含み、ジュワッと広がる美味しさに喉が詰まった。浅はかだったと、後から後悔するなんて。こんなに美味しいご飯なのに、どうにも薄く感じて上手く飲み込めなかった。

    「そげんな顔しはるなら最初から言わなええのに」

    「…僕、あの時のゴンさんの顔…ほっときたくなかったんです」

     自分と重ねてしまったから、つい面倒をなんて。そんなことしなくたって、彼は十分強くて…自分にはそんな甲斐性もないのに。

    「もっかい聞くけど、どないしてそう思ったん」

    「……昔、僕もクラスメイトの話を聞く時…嘘ばっかり言って、それで…言っちゃいけない…ホントのことを言ったんです」

    「……そやねぇ。」

     そういえばゴンさんも、僕の過去を見たんだっけ。なら、少しは話が早いのかな。

    「あの時の顔と…にてたから…ほっとけなかったんです」

    「………優しいんやね。 シンクレアくんは」

     一つ一つ噛み砕いて、咀嚼して飲み込むように。ほんの少しづつ喉の詰まりがなくなって、味もわかるようになった頃。ゴンさんは緩く笑っていた。

    「気に入ったわ。 また食べに行こうなぁ?」

    「…? はい。」

    「マ、確かにジブンだけ君の見せたくないものを知ってるってのも割に合わへんよな。 …いつか話したるわ」

     彼の言う意味は、きっと自分の番が来たらきちんと見ててと言っている気がして。やはり、踏み込んではいけない1歩を歩んでしまったようで。

    「覚悟しとき」

     その言葉の意味は、果たしてどれに対して言っているのやら。
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