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    merukosu

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    merukosu

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    バトラーシンアル…?詳しく言えばヒス←アル(→)←シン??なんだろうね

     凍える風が吹く邸宅。あの方がいた頃から何一つ変わらず、暖かさの欠けらも無い。何もかもを拒むこの家は、いつまでも我が主を拒むのだろう。

    「…………」

     ヒソヒソと聞こえる陰口は、陰鬱に湿った空気を表しているようで、むしろ居心地がよく思える。それはあの人がいた証で、俺がこの邸宅に居座り続ける理由。
     仕える人を無くし、行き場のないはずの俺が存在できるのは、上司であるウーティス様のおかげでもあるのだろうが。きっと、それだけでは無いのだ。
     時々囁くように聞こえる綺麗な声は、何処までも懐かしく、なのに何一つ思い出せはしない。我が主と同じくらい愛したナニカなはずなのに、静かに霧散していく。

    「アル、フォンス…さん」

     冷たい視線で俺を見る同僚とは別に、どこか暖かな声で俺を呼ぶ彼を見た。
     金色が揺らぎ、冷たい家に唯一の灯りとして明滅するランタンの様で、目が眩みそうになる。
     眩しい。彼を見る度そう思い、冷たい空気が肺を占めて苦しくなった。慣れたはずの冷たさが、芯から体内を蝕む感覚が鮮明になって、上下があやふやになる。

    「だ、大丈夫…ですか?」

    「……えぇ。」

     慌てて自分を支える体温が火傷しそうなほど熱い。人肌であるはずなのに、とても辛かった。
     俺はヒースクリフ様に仕えて、そして、あぁ、やっぱり…確かに居るはずなのに、誰かがいるはずなのに、何も思い出せない。あのお方以外に、確かに愛して、仕えたはずなのに。
     そんな目で俺を見ないで欲しかった。遠い昔の知り合いだと言うだけなのに、期待に満ちた顔で俺を、あの頃とは違うのだと、何度言えばいいのだろう。

    「その、ファウスト様が……お呼びで」

    「………承知しました。 すぐ向かうとお伝えください」

    「……あの」

    「…なんでしょう」

    「どうして…そんなになっちゃったの」

     それは何に対してなのだろうか。笑わなくなったことだろうか。繕うことをやめ、この屋敷のように冷たく凍えてしまったことだろうか。
     それとも…君を好きだった俺を、殺してしまったことだろうか。

    「……意図が理解できませんね。 言うなれば…成る可くして成ったとしか」

    「…そう、ですか。」

    「もうこれ以上関わるのはやめてください。 お互いのためです」

    「……………。」

     歪む顔が、チクリと胸を刺した。けれど、それが一番傷つかずに済む方法であり、君が苦しまないための、唯一なのだと。
     俺は仕えてしまった。この邸宅を食い荒らし、全てを喰らっても満たされない狼に。いいのだ、そうなるとしても、あの方々の幸福を願う心までは凍えていないのだから。

     どうか、暖かな夢の中で眠れることを。いつまでも願っておりますとも。
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