シンクレアと体を重ねるのは苦手だった。
決して嫌いだからとか、嫌悪があるわけではない。
ただ、漠然と…いいや。愛しい人をこの汚れた体で迎えたくない一心で。
そうやって綺麗事ばかり先行して、何度も悲しませてしまった。
そりゃそうだ、本来なら好きな人と出来るだけ深く繋がっていたいだろうし、1番愛情を分かち合う暖かな行為だと思える。思えるだけで、納得なんてひとつも出来やしないけれど。
セックス自体は嫌いでは無い。かと言って、好きかと言われるとそうでも。
俺にとってこれは、過去を掻き消す手段のひとつで、一時でも偽りの温もりに浸っていたい弱さが囁くのだ。
酒と一緒で、好きと呼ぶには不純物が多い。
「…また考え事?」
「…ん、……ん。」
どうにか返事をしようとしたけれど、上手く言葉に出来なかった。
この心のわだかまりを言語化するには、感情が多すぎるんだ。
「……やっぱり…いや?」
「………」
ふるふると首を横に振る。ぐちゃぐちゃと感傷が喉を焼いて、爛れたように熱く溶けていく。言葉を交わせる知能を持つのに、それ故に心に支配されて上手く生きられない。
沈む。ひたすらに溶けて、上も下も分からなくなる。
浮遊感。横になっているのに、くらくらと落ちるみたいに気持ちが悪くなって、そういう時はいつも誰かの体を借りていたから。
「…シンクレアを、一緒にするのはやなんだ」
「一緒? …なにと?」
「誤魔化すために使うのが……、かな」
「うぅん…。 ……悲しいの?」
「そうかも。 …ずっと、胸が苦しい」
「…僕じゃ埋められないのかな」
「そんなこと…。 …なんて、言えばいいんだろな」
「いいよ、ゆっくり教えて」
ぎゅっと手を握って、じんわりと温もりが身体を伝ってくる。不確かな感覚が、しっかりと重さを持って帰ってきたような。
「…無くなるのが怖くて、でも…満たされるのもの怖いんだよ。 いっぱいになっても…いつか枯れてなくなるって、知ってるからさ」
「うん」
「…俺も、絶対なんて約束できないし…シンクレアだって…そうだろ? …口で言えても、絶対なんてさ…」
「……そうかも」
「………どうしたいかわかんねぇや。 んや、そうだな、ずっとこのままお前と一緒にいたい。 こうやって…ずっと、いたいんだ」
「! うん、僕も」
「それが無くなるのがどうしようもなく怖いんだな。 はは、ビビりもここまで来ると笑えねぇ」
「…いいんだよ、強がんなくて。 アルが弱くて、寂しがり屋なのは僕が1番知ってるから」
ぎゅぅっと、強く、優しく抱きしめられる。
あぁそうか。 きっと、この愛を確かめるような行為で…もし尽きていたらと考えたら怖いから。
だから、どうしようもなくひんやりと、傍にそいつは座っているのだろうな。