催花雨あの忌々しい春から、早くも一年が経ってしまった。
オーブの木々は白い花を咲かせ、風も草木も若々しく踊っている。黄色い帽子を被った子どもたちが街を行き交い、真新しい白いシャツを着た若者も慌ただしく電車に乗り込む。
コンパスの活動はというと、とうの昔に再開されている。今頃、モルゲンレーテの工廠では着々と新造艦が生み出されているところだろう。
すい、と視界の端を鳥が飛んでいく。長い尾羽を靡かせて、遥か彼方からやってきた鳥だ。
―――誰かが「時間が解決することもあるさ」と声を掛けてくれた。自分もそう信じていた。けれど、彼女はいつまでもいつまでも心から離れちゃくれなかった。その言葉の、優しい嘘とはこういうことを言うのだという、本当の意味に気付くのに一年かかった。
核爆発の影響で、彼女のいる場所に行くには、少なくとも百年以上は必要だという。報告の場所にいた誰しもが、目線だけでこちらを見つめていた。だが、彼女に会いたい気持ちを抱くのは自分だけじゃない。そう思って、そっと目を閉じた。
やめてくれ。それぞれが慮ってくれていることが、余計に苦しく感じた。
嗚呼、君のように飛んでいけたらな。低い位置を飛ぶ彼がひどく羨ましい。雨の匂いがつんと鼻についた。