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    sanga2paper

    少ないスキルとスタミナで創作に勤しむアカウント

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    保存ファイルから以前書いた「 #モブサイコ100 」の二次創作小説が出てきたのでそっと流しておく…あのブロッコリーの頃に芹沢さんは何してたの、という疑問消化のための一作。勢いで書きすぎて設定違い(芹沢さんが実家にいる)等あります

    #モブサイコ100
    Mob Psycho 100
    #小説
    novel
    #二次創作
    secondaryCreation

    まだそんなものにすがっているのか

    「まだそんなものにすがっているのか」

    手には、社長にもらったビニール傘。
    この傘で外へ出て、悪いことをした。もうあんなこと、してはいけない。
    これも、手放すと決めた。
    でも、手が動かない。

    そんな夢を、何度も見る。


    外は雨。
    一度はつかんだ傘の柄を、震えながら手放した。

    ☆☆

    「すいませんすいませんすいません!」
    「あーうん、まず上着脱いで濡れたところを拭けよ、風邪ひくだろ。
     一応ウチは接客業だから、次は濡れないように出社しろよ?」
    「すいませんすいませんすいません!」

    雨の中、傘も差さずに全身ずぶ濡れでやってきて、今は高速でぺこぺこ詫びる芹沢に、霊幻所長はバスタオルを被せて言った。引きこもりだったことは聞いているが、まさか「雨が降る日は濡れないように出社しよう」なんてところから教える必要があるとは思わなかった。

    とりあえず、バスタオルをかぶったままペコペコしている芹沢を落ち着かせたい。自分も着替えを探したい。
    「モブ、先輩として、雨の日に濡れないための方法を教えてやれ」
    「えっ、は、はい。
     あの、バリアを自分の周りに張って」
    「ちょっと待てい」
    緊張してるのかモブ。超能力者は傘よりバリアなのか。ツッコミが追いつかない。こんな時にエクボはいない。
    「傘がなければレインコートとかあるだろ」
    二人の超能力者からの、おお、という尊敬のまなざしが痛い。色んな意味で痛い。
    だがそんなことは顔に出さず、霊幻は畳み掛けた。
    「雨にぬれると寒い。傘。レインコート。接客業。それぞれわかるよな?
     これら一個一個が分かってるだけじゃ今回みたいなことになるが、『雨が降っている。濡れないように出社したい』から『傘をさす』や『合羽を着る』『タクシーを拾う』『いっそ休む』まあ場合によってはモブの『バリア』もアリなんだが、そういうことにつなげるのが、知恵ってもんだ。
     まあ勉強と経験を積めばおいおい身についていく。少しづつでいいから、覚えていってくれ」
    「は、はい!」
    芹沢のぺこぺこが止まったので、頭を拭くよう言って、霊幻は着替えを探し始めた。


    ☆☆☆

    「まだそんなものにすがっているのか」
    必要だから。
    雨の時のために? いや違う。他の方法があると教わったばかりだ。通用しない。
    ではどうして?

    …不安、だから。


    町の様子がおかしいことには気づいていた。
    あのブロッコリーに集まる強い霊気にも、洗脳されたような沢山の大人や子供も。
    ただ、どうしたらいいかがわからなかった。
    自分には、霊幻さんのいう「知恵」が足りないせいだろう。明日にでも相談した方がいいだろうか。いや、今すぐでも行くべきだろうか。
    そんなことをモヤモヤと考えてたせいで、気づくのが遅れた。

    母親が出したお菓子は、妙な気配がした。
    「母ちゃん、これ…」
    「近所の人にもらったの。最近人気らしいわよ」
    そういって母も一口かじった。
    息子の耳にもう言葉は届いてなかった。


    もう大丈夫だ。不安な時は、これを見るといい。
    ブロッコリーを差し出す、ヘルメット頭の影。
    その茎を握る。柔らかい植物の感触がした。

    …違う。
    これは、違う。
    自分がすがったものは、こんなものじゃない!
    優しい手触りを、力一杯放り投げた。

    メチャクチャに体を動かした。ブロッコリーが乗っかってきたが振り切った。これじゃない。これじゃない。
    どこかの何かにぶつけて、身体があちこち痛い。しかし、今はどうでもいい。
    ブロッコリーがまとわりつく。違う。お前じゃない。
    ヘルメット頭のお前も、社長じゃない。
    ブロッコリーの海を泳ぎ回り、いくつものヘルメット頭を蹴散らし、あちこち体中ぶつけながら、やっと見つけたなじみある感触に、全力ですがりついた。

    ……。

    これは一体、どういうことだろう。
    先ほどまで自分は、息子と頂き物のお菓子を食べていたはずだ。それが。

    部屋はメチャクチャに荒らされ、当の息子は傘をさして自分に抱きつき、なにごとかブツブツと呟いている。話しかけても返事はなかった。
    また超能力が暴走したのだろうか。しかしこれだけ家財が散乱した中でも、母は無傷であった。
    窓の外に、町の人たちがゾロゾロと、しかし無言で、同じ方向に向かって歩いているのが見えた。超能力がない母親でも、さすがに何かおかしなことが起きている、と気が付いた。

    どうやら息子が自分を守ってくれた、ということも。

    母親の涙は、汗まみれの息子の背中に落ちて滲んだ。


    ☆☆☆☆

    「まだそんなものにすがっているのか」
    すがった。
    全力ですがってしまった。
    全力ですがっても、母親を助けるのがやっとだった。
    なんて、無力な。自分。


    ブロッコリーは天へと上り、騒動も一段落した。
    影山先輩が何かしたと後で聞いた。やっぱり先輩はすごい人だ。
    だというのに。
    芹沢は自分の手元を見た。
    その手は、傘の柄をしっかりと握っている。
    怖い。


    河原に傘をさして座る人影を見かけ、影山茂夫は駆け寄った。
    「芹沢さん、おはようございます」
    ビックリさせる気はなかったが、芹沢は飛び上がった。
    「おは、おはようございます先輩! あの、そのがが学校ですか?」
    「あ、はい。芹沢さんはどうしたんですか、こんなところで」
    「あの、その…し、仕事、とか、や、辞めようかと、思って、その…でも、電話、ってのも…だから出てはきたんだけど…けど」
    「え」
    何かあったんだろうか。師匠は何も言ってなかった。
    晴れてるのに傘をさしてるのも気になった。初めて会ったときに戻ったかのようだ。
    遅刻するかもしれないと思ったが、先輩は後輩の横に座った。

    「わかってるんです。爪も、社長も、悪いことをした。もう二度とやってはいけないし、やる気だってない。けど…」
    芹沢は、最近見る夢のことを話した。
    「君の言うとおり、僕は引きこもっていた方がよかったのかもしれない。傘をね、て、手放せないんだ……「爪」の頃の自分を捨てられないんだ。雇ってもらって、学校にも行くようになったのに、こんなことしてる場合じゃないのに、ダメなんだ。こんなんじゃ、また、外に出るのも怖くなっ…て…」
    自分の倍くらい歳上の人の話を、モブは真摯な気持ちで受け止めた。先輩後輩の緊張は消え、友人の1人として考えた。
    かつて戦った時だって、軽い気持ちで向き合ったつもりはないが、だからといって、あんなことを簡単に言ってはいけなかったのではないか。責任を感じた。
    けど、どうしたらいいんだろう。
    師匠も、僕が初めて相談所に来た時に、こんな風に悩んだのだろうか。
    師匠。
    「あ」
    「えっ」
    またビックリさせたこと、そして、かつて強い言葉で言ってしまったことを芹沢に詫びて(キョトンとされた)から、モブは言った。
    「この前、師匠は『傘を使え』とも『傘を使うな』とも言いませんでした。ただ、知恵をつけろという話だけで」
    そうだった。師匠はどんな時も、その点でブレたことはなかった。
    「大事なのは、使い方なんじゃないでしょうか」


    ☆☆☆☆☆

    「まだそんなものにすがっているのか」
    使い方。
    かつては、安心のために。
    では今は、なんのために?


    遅刻しそうな先輩に延々お礼を言ってから、芹沢はダッシュで相談所に向かった。
    傘をさしながらなので、あんまり早くは走れなかった。道行く人に傘が当たらないように気をつけたので、更に遅かった。
    相談所のビルの前まで来て、妙な気配に気がついた。

    「あぶではかまははかだかゅはわ!」
    「え、ちょ、待っ…!」
    携帯を出す暇すらなかった。豹変した依頼人が突如雲のようになって霊幻に襲いかかってくる。
    ……。
    「?」
    なんの衝撃も来なかった。
    ゼエゼエと聞こえるのが自分の喉からではないことに気がついて、霊幻は目を開けた。
    ビニール傘が、雲を遮っている。
    「芹沢」
    「あの、この人は」
    「話を聞く前にこうなったが、たぶん依頼人だ。とりあえず片付けて話を聞こう」
    芹沢の除霊でスッキリした依頼人は、とにかくひどく感謝して、気前よく料金を払って帰っていった。


    「俺ともあろうものが、つい油断してしまった! 普段であれば秒殺できるんだが…いやおかげで助かった」
    ビビった反動でいつもより高めの声で強がる霊幻の横で、芹沢は青ざめて震えていた。
    「や、やっぱり傘を使った方がうまくできる…でも」
    「ん」
    しまった。
    霊幻は唐突に思い出した。タワーでも、芹沢は傘を使って自分をかばってくれたことを。
    芹沢にとって傘にどんな意味があるのかは知らない。けど、ただの雨の日や超能力を補強したい時のアイテムにとどまらない何かが…少なくとも「爪」の記憶には直結してるだろうし…あるのだ。
    しくじった。ずぶ濡れで出社した時に気づくべきだった。
    「芹沢、お前の傘に助けられるのは、これで2度目だな。さすが俺が見込んだだけのことはある。素晴らしい才能だ」
    「えっ、あ」
    「その傘で人を助けるのもいいが、たまには自分を助けるのにも使ってくれ。雨の日とかな」
    「あ」
    また濡れネズミで来られてはかなわないので付け足したが、どうやら正解だったらしい。
    芹沢の顔色が戻ったのを見て、霊幻もホッと息をついた。

    不思議な人だ。
    あれだけ強大な力を持つ茂夫くんの、さらに師匠だというのに、超能力的なものは全く感じられない。どうやって隠しているんだろう。
    しかも、力を隠しながら、今みたいに何もかも見透かしてるのだ。
    これは何の力なんだろう。霊能力は、超能力と違って認識できないものなのかもしれない。
    世の中には、こんなにもいろんな人がいる。

    守るために。
    かつて悪に使った力を、これからは守るために。
    そうだ、だから自分はここで働くことにしたのだ。

    強く傘の柄を握ったが、今度は不安からではなかった。



    「まだそんなものにすがっているのか」
    今でも不安な気持ちが、ないとは言えない。けど。

    これは、決意だ。
    もう間違えずに進むための。
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