蛇は祈る手を持たない 取引先との打ち合わせから戻った茨は、部屋に入ったところで立ち尽くした。凪砂が一人、窓辺の椅子に座っていたからである。
凪砂は時おり、ぼんやりと外を眺めていることがある。ほとんど微動だにせず、焦点すら合っているのかいないのか、何事もなければそのまま平気で数時間過ごしているのだ。
幼少期からの悪癖なのか日和はすっかり慣れたものだし、ジュンも物おじしない性格なので平気で話しかけに行ってしまうが、茨はどうしても一瞬躊躇してしまう。Adam結成に伴って茨が凪砂の生活を管理するようになり、それなりの時間を共に過ごしてきたものの、こういう時に改めて凪砂が自分の理解の範疇を超えた人物であることを思い出してしまうのだ。
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