銀の獄に狗の斎く 目の前が真っ赤に染まっていたのだと、
気がついたのは、その声で名を呼ばれた時だった。
「リオセスリ殿」
はるか高みから降り注ぐ声は、フォンテーヌを外界と隔てる大滝のよう。錚々たる瀑布の威容に晒されて、はっと目を覚ましてみれば――おのれの手の中に、人の首があった。
ぎし、と軋んだのはガントレットの鋼鉄だったか。
「――っ!」
慌てて手の力を抜けば、ぶらりとその頭が後ろへ傾いだ。一瞬ひやっとしたものの、幸い首の骨は無事のようだだ。手入れの行き届いていた鉢の毛は乱れ、その顔は涙や鼻汁にまみれているが、目立った外傷はない。恐怖に顔を歪めて、気絶しているだけだ。
(……息は、ある)
男をその場に下ろすと、後ろから走ってきた靴音が、リオセスリの脇を抜けてばらばらと周囲へ散っていった。彼ら警察隊の前には瓦礫の山が積みあがっている。煙を噴き上げ、でたらめな明滅を繰り返すそれらは、さきの男が引き連れてきたマシーナリーだった。
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