願いは明星①(一)
風に、燃えるような赤い髪がそよいでいる。
「人は深い悲しみに出会った時、『時が一番の薬』と言います。無理に何かしようとせず、じっと時が過ぎるのを待てと、そうすれば心の傷もいつか自然に癒えていくと……しかし、」
紳士は視線を地に落とす。
「この世に唯一と思った人、他の何に代えても守りたかった人……彼らを失った痛みは、本当に癒えさせるべきなのでしょうか。彼らの喪失によってできた傷を、時の経過で風化させ、傷痕にするしかないのでしょうか……」
端正な顔立ちが、耐え難い痛みに歪む。風の中に嘆きをのせた吐息がとけていく。
「かつては、疑問に思うこともありませんでした。ですが、唯一の肉親である父を失ってからこの国は……いえ、この世界はどこも……僕にとって、非常に生きづらい場所になってしまった」
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