Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Malchut_ruin

    @Malchut_ruin

    もじをかきます

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🌿 🏦 💚 💛
    POIPOI 3

    Malchut_ruin

    ☆quiet follow

    「言わほど2nd」の展示作品。
    2/1 ヌヴィリオWebオンリ―「言わぬが花にもほどがある2nd」の展示で、1/26ヌヴィリオプチオンリー「今宵、歌劇場裏にて」で頒布したペーパーです。
    特に非公開にする予定はありませんので、お時間のある際に読んでいただけたら嬉しいです。

    銀の獄に狗の斎く 目の前が真っ赤に染まっていたのだと、
     気がついたのは、その声で名を呼ばれた時だった。
    「リオセスリ殿」
     はるか高みから降り注ぐ声は、フォンテーヌを外界と隔てる大滝のよう。錚々たる瀑布の威容に晒されて、はっと目を覚ましてみれば――おのれの手の中に、人の首があった。
     ぎし、と軋んだのはガントレットの鋼鉄だったか。
    「――っ!」
     慌てて手の力を抜けば、ぶらりとその頭が後ろへ傾いだ。一瞬ひやっとしたものの、幸い首の骨は無事のようだだ。手入れの行き届いていた鉢の毛は乱れ、その顔は涙や鼻汁にまみれているが、目立った外傷はない。恐怖に顔を歪めて、気絶しているだけだ。
    (……息は、ある)
     男をその場に下ろすと、後ろから走ってきた靴音が、リオセスリの脇を抜けてばらばらと周囲へ散っていった。彼ら警察隊の前には瓦礫の山が積みあがっている。煙を噴き上げ、でたらめな明滅を繰り返すそれらは、さきの男が引き連れてきたマシーナリーだった。
    「ご苦労。あとはこちらで引き受けよう」
     かつんと石畳を打つ、杖の音。
    「――先に戻っているように」
    すり抜けざまに耳打たれた声は、平生と変わらぬ色のない調子を保っている。そこに圧を感じたのは、リオセスリ個人の感傷にすぎない。
    颯爽と現場へ向かう白銀の後ろ髪。その軌道を目で追って――どっと体から汗が噴き出した。
    頭から、冷や水を浴びせられた気分だった。

     
     手が震える。
      それは力を籠めて拳を握っていた証。
     息が切れる。
      それは長く極度の集中状態にあったから。
     自己が薄れていく。
      稲妻には『三つ子の魂百まで』という言葉がある。
    その意味するところは――
    「持って生まれた気質は変わらぬ」という、
    シンプルな真実。


     ごうっと、吹き抜けた風に前髪を揺らされ、はっと顔を上げた。いつの間にか手で顔を覆っていたらしく、暗がりから光の下に躍り出た視界が、ちかちかと痛みを放つ。
    歪む眉間をこらえながら扉の方へ顔を向けると、涼やかな青と白の立ち姿があった。パレ・メルモニアの奥に位置するこの部屋へ、ノックもなしに入ってくる人物は一人しかいない。
    「すまない。待たせてしまった」
    「いや……」
     座る間もなくこちらへ向かってきたヌヴィレットに応えを返そうとして――口から出た自分の声に、思わず一度口を閉じた。動揺の残った声は〝リオセスリ〟の声ではない。一呼吸おくふりをして、記憶に残る自分の声を何とか引きずり出す。
    「……そんなふうに気を遣われちゃ立つ瀬がない。面倒をかけてるのはこっちなんだ」
     ビジネスにおいて謙遜は賢い手ではないが、こちらの落ち度にしてしまいたいのは、ある種の負い目からだった。しかるに、長く最高審判官を務めるその人は、そういった線引きに厳格だ。
    「君がそう言うのなら、むしろ我々は後始末だけで済んだ、と言うべきだろうか。メロピデ要塞が標的になっていたとはいえ、かの貴族が犯していたのは水上の法だ。暗躍を止める責任はフォンテーヌ廷にあった」
    「あんたも強情だな……わかったよ。今回は分担して片付けたってことにしておこう」
    「ああ」
     ようやく首を縦に振ってくれたヌヴィレットに、胸中で小さく嘆息する。

     遠い祖先から爵位を授かったある貴族が、より私欲を満たすために引き起こした汚職事件。そんなよくある出来事が騒がしくなってしまったのは、利益のパイを貪る相手にメロピデ要塞を選んだからだった。
     リオセスリは個人的な伝手からマレショーセファントムより先に証拠を握り、極めて穏便に事を納めようとしたのだが――相手が蓄えこんでいた武力が想定以上だったために、警察隊の到着までに片付けを終えることができなかった。現場を見てしまった以上、フォンテーヌ廷には対応する義務が生じ、メロピデ要塞は彼らに〝借り〟を作ってしまう。二者間の均衡のためには、何もなかったことにしてしまうのが、最も都合の良い展開だったのだが。
     そして何より――想定以上の武力を相手にする中で、リオセスリはとんだ失態を晒してしまった。

    「リオセスリ殿」
    「ん?」
     お互いの立場で話し合うべきことは、すでに結論が出ていた。だが、ヌヴィレットは書類の積みあがった自身の執務机に戻らず、その淡い虹色の瞳もリオセスリから離れない。
     ひらりと、黒い手袋に包まれた手が眼前に差し出される。まるでワルツの誘いのように。
    「手を見せてほしい」
    「ふむ、スメールではてのひらの筋を見て吉凶を見ると聞いたが、その心得が?」
    「残念だが、私は卜占の類を好まない……セドナから、シグウィンはここへ来ていないと聞いている。君が、彼女以外に傷を見せるとも思えないのでね」
    「…………」
     リオセスリは差し出された手を見つめ、そのまま視線を上げてヌヴィレットの瞳を見つめ返す。リオセスリの無言に大抵の者は耐えられないが、それは相手も同じこと。数秒の間、リオセスリは瞳の中の胎海に映る自分自身とにらめっこをして、「はあ」と溜め息をついた。かの人が頑迷なのは仕事に限ってでもないらしい。
    「……御照覧を」
     足の間に垂らしていた腕を持ち上げて、ヌヴィレットの前に差し出す。同じようなポーズを取っているはずなのに、リオセスリの方はまるで手枷を待つ罪人のようだ。
     しかし、ヌヴィレットはリオセスリの手首に錠をかけたりせず、差し出された手を丁寧に取った。そのまま体の位置を入れ替えて、リオセスリの隣に腰かける。座面にゆるりと流れた白銀の髪からは、雨を受けた石畳のにおいがした。
    「……巻き直したのだな」
    「昔はすべて自分でやってたんだ。医務室の天使に小言を言わせるのが忍びなくてね」
    「だが、血が滲んでいる」
    「鼻が利くのは職業柄かい?」
     パチ、と留め具の外れる音。黒のバンデージが緩んで、ひとりでに解けていく。
    「水中の生命体は、水に溶けた血のにおいを追うために嗅覚が発達している。種族差はあるが、私であれば警察犬よりも優秀だろう」
    「……今のは笑うところだよな?」
    「無論、冗談だ」
     解けたバンデージが巻き取られると、後には血を吸ったガーゼが残った。しかし、きっちり巻かれていたバンデージとは裏腹に、ガーゼは傷口に対して適当に何枚か詰め込んだだけで、それらを雑にまとめていたテープもべろりと剝がれ落ちている。止血はバンデージ任せだったために、ガーゼの下からは新しい血が湧き出し始めていた。
    そんなありさまに、隣からは無表情ながら物言いたげな視線がよこされる。その視線と正面から対峙する気にはなれなくて――かといって他に目を遣る当てもなくて。
    リオセスリは脱力し、丸めた背中をずるりとソファに預けた。投げ出した足の合間には、バンデージに戒められた、もう一本の腕がぶら下がっている。

     ひしゃげたガントレットの形に、血を流す腕。
    ――どれほど戒めたところで、今さら正せるようなものもないというのに。

    「今日は……来てくれて助かった。あの時、あんたが声をかけてくれなかったら……俺は今頃、二度目の審判を受ける準備をしていただろう」

     リオセスリを誘い込んだあの貴族が、マシナリーを並べてきたところまでは覚えている。
     その後、次々と飛んでくる機械の腕を避け、いなし、時には粉砕し続けながら、遠くであの男が飛ばす罵倒を聞いていた。彼の野望、企み、これまでの成功と、彼が掴むはずだった果実。外れた車輪のようにふらふらと流れていく、どうでもいいスピーチ。
    その中に――遠く、聞き覚えのある名を聞いた。彼がここまで至るまでに消費した、どうでもいい駒の名前。どうでもいいスピーチの一部となって消えた、歯車ほどの価値も残さなかった、誰かの名前。
    それを耳にした後から、ほとんどの記憶がない。

    「……血のにおいは人を昂らせる」
     傷口に張り付いたガーゼを丁寧に取り除きながら、ヌヴィレットは呟くように口火を切る。
    「私が着任した頃のフォンテーヌでは、人と魔獣が激しく殺し合い、その血にあてられたように、人と人もまた殺し合っていた。飛び交う砲弾の雨が、人の住む街を押し潰したこともある」
    「……来て早々そんな光景を見て、さぞかし呆れたんじゃないか。よく見限らなかったもんだ」
     ポワソン町を襲った悲劇は史書を通じて知っている。だが、ヌヴィレットがその生き証人だとは知らなかった。フリーナも思惑あって彼を招いたのだろうが、なにもそんな時期に呼ばなくても。リオセスリが彼の立場だったら、見込みなしと踏んでさっさと踵を返していたかもしれない。
     しかし、傷の処置をする手を止めないまま、ヌヴィレットは首を横に振る。
    「戦いの中で我を忘れることは、人に限った話ではない。遡ればあの魔神たちも、そして竜たちもまさにそうだった。彼らは人類よりも強大な力と生命力を持ち、その器に足る精神も持ち合わせていた。だが、結局は戦いを選び、怒りと怨嗟に呑まれ、我を失って滅んでいった。有していた高度な文明もほとんど影を残すことなく、歴史の前座へと埋没し、今や知る者もいない」
    「……ほう……?」
     なんだか、すごい話を聞かされているような気がする。スケールの飛躍したたとえ話に思わず返す言葉を失っていると、傷口にぴりりと痛みが走った。綺麗に巻き直され、止血のほどこされた手を、ヌヴィレットが両手でやんわりと包んでいる。
    「つまり君は……君自身が思っているほど、愚かでも救いようのない人間でもない、ということだ。君はあの時、私の呼びかけで戻ってきたのだから」
    「…………」
    「君が今回のことで、己に対する戒めを強めようとすることを、私は望まない」
     黒い手袋が、真白のガーゼで覆われた両手を、価値のあるもののように包んでいる。
     場違いだ、と思った。包まれた両手の上に、視界を染めたあの赤のスクリーンが重なる。
     リオセスリがあんなふうに我を見失ったのは、別に一度や二度の話ではない。初めて忘我に至った日はともかくとして、生殺与奪をかけてリングに上がっていた頃は、たびたびあの真っ赤な世界を見たものだ。
     己の本質が、獣であることは自覚している。リオセスリが普段なにかと理屈をつけて動こうとするのは自戒のためで、自身が本質的に感情で動き切ってしまう生き物であることの裏返しでもあった。用心深く老獪な〝リオセスリ〟は己に対する枷でもあるのだ。
    そして、リオセスリの本質に息づく獣は、一般的な人々よりもいくらか獰猛で冷酷であった。道徳と理性でブレーキのかかる人間ならば、怒りに我を見失ったとて、人間を計画的に殴殺してやろうとは考えないだろう。

     あの時だって、制止する声はあった。
    やめてくれ。助けて。殺さないでくれ。
    その声を聞きながら、拳をふるい続けたのだ。
    リオセスリは一度だって、戻ってなどこなかった。

    (あの時と今回とで、違いがあったとすれば――)

    「あんたは誤解している。俺が我を見失っても戻って来られる人間なんじゃない。あんたの声が、俺を引き戻せるだけなんだ。俺の本質は変わらない。枷が必要な、どうしようもない獣のままだ」
     あの瞬間を覚えている。「リオセスリ」とあの人の声がした瞬間、怒りで真っ赤に染まった視界に、一滴の水が差した。それはさながら、暗雲を切り裂く光のきざはしのよう。
     その声がリオセスリに我を取り戻させたのは、リオセスリにとってその声こそが特別だったから――

    「……それの、何がいけない?」

     え、と思う前に、淡い虹の瞳が目の前に迫っていた。
     遠く立ちのぼっていたはずの雨の気配が、鼻先から全身を包んでいる。
     ヌヴィレットは自ら労ったリオセスリの手を指先で絡めとったまま、もう片方の指先でリオセスリの首元を辿る。
    「人はひとりでは不満足な生き物だ。だからこそ社会を造り、国を興した。私とて、単独でフォンテーヌの運命に立ち向かうことはできなかった。ならば、君が私を必要とすることの、何がいけない?」
     つつ、と喉を下からなぞった指先が、首の傷を覆う黒帯を引っ掛けた。かりかりと、まるでその戒めが気に食わないとでもいうかのように爪を立てられて、思わず背筋が粟立つ。
    「まっ、待ってくれ。俺はそういう話をしてたわけじゃない。あんたぐらいの人じゃなければ、ブレーキをかけられないって話で――」
    「すまない。君が私を『特別』などと呼ばうので、少々急いてしまった」
     ヌヴィレットが身を引き、座り直したことで彼我の距離がまともな思考のできる状態に戻る。だが、リオセスリがほっと息を漏らす間もなく、ヌヴィレットはぴんと伸びた姿勢のまま、純朴に小首を傾げてみせた。
    「だがやはり、結論に違うところはないように見える。君が私を望むのならば、私は君のための枷になろう」
    「っな、」
     何を言ってるんだ、と飛びかけた言葉は、その前に喉の奥に詰まってしまった。
    ヌヴィレットの表情はずっと変わっていない。精巧な陶器の人形のような、美しい白皙のままだ。
    だが、彼の瞳はその無表情と比べれば、感情が豊かと言っても良かった。夜空にかかる星雲のように、いつもは茫洋として凪いでいるその瞳が、狙いを定めたかのように強く輝いている。
     その理由はわからない。誰にもわからないはずだったが――これと定められる場所に、今、リオセスリだけが座っている。
    (そんなことがあって良いのか? 誰にとっても、世界にとっても『特別』なこの人が、只人の『特別』を受け取って、喜ぶなど――)
    「リオセスリ殿?」
     窺うように呼ばれたその名前は、リオセスリに返事を催促するようにも、また、回り始めた思考を咎めるようでもあった。
     ――時折、この人には抱いた感情がそのまま伝わってしまっているんじゃないか、と思う。
    「枷って……この手のようにか」
    「……ふむ。いや、君が拳を向ける先や、その手を差し伸べる先を、私が決定したいわけではない。君の自由な意志をこそ、私は尊重している」
     いまだに緩く戒められたままの指先を指せば、存外にヌヴィレットは生真面目な顔で考え始めてしまった。ほんの時間稼ぎ、考えがまとまるまでの軽口だったのだが。
     ややあって、ヌヴィレットはその唇にうっすらと色づくような笑みをのせた。
    「ならば、牢というのはどうだろう。君がここへ帰るのだと、そういう保証を得られるのならば、私も心安くなる」
    「牢……」
     リオセスリが管理し、己の場所と定めたメロピデ要塞もまた、フォンテーヌにおける牢獄である。もともと肉体が帰属していた牢獄から、精神の帰る場所を変えるだけならば、幾分か受け入れやすいかもしれない。暗い記憶と血の染み込んだ『枷』という概念に、この特別な人をあてるよりは、幾分か。
     しかし、フォンテーヌ廷から独立した機関であるメロピデ要塞の長が、その心の帰属先を水の上に定めてしまうのは、健全な状態とは言い難いのではないだろうか。
    「なあ……公私混同がすぎるって言われないか、最高審判官様」
    「心配はない。これは完全な、私と君のプライベートだろう、公爵殿」
     そう言ってほほ笑むヌヴィレットがあまりにも邪気なく、満足そうに笑っているので、リオセスリはそれ以上もう何も言わないことにした。
    「……わかったよ。白旗だ」
    「それはこの場における結論を受け入れると?」
    「ああ、そう取ってくれ……ほら」
     こういうことだろう? とリオセスリは体をひねってヌヴィレットの方を向き、おどけたように軽く両手を上げた。すると、ヌヴィレットは瞳をより一層輝かせて、リオセスリに向かって手を伸ばす。
     その手はリオセスリの両手をするりと撫でて、許すように甘やかし、じんわりと圧を伝えてきた。リオセスリはその力に抗わず、ソファの座面へと背中を倒す。
     見上げると、頭上には星雲きらめく瞳があり、ゆらりと垂れた白銀の髪が、リオセスリの周囲を檻のように覆っている。
     きらきらと光を揺らめかせる銀の牢獄を見て、ふと、初めて水の下を訪れた日のことを思い出した。あの時も、光差す水面を映す大窓を見て、なんと美しい牢獄だと思ったのだ。
    「この牢獄は……ずいぶんと待遇がいいらしい」
     美しい人は、フフ、と笑った。
    「金魚の水槽も、鳥籠も、牢には変わりない」

     その手が首元を過ぎ、頬をなで、やがて唇に触れてくる。その焦れるような時間を、リオセスリは従順な獣のように待っていた。
    【終】
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖☺👏💯😭👏🙏😭😭😭👏👏👏😌✨
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    Malchut_ruin

    DONE「言わほど2nd」の展示作品。
    2/1 ヌヴィリオWebオンリ―「言わぬが花にもほどがある2nd」の展示で、1/26ヌヴィリオプチオンリー「今宵、歌劇場裏にて」で頒布したペーパーです。
    特に非公開にする予定はありませんので、お時間のある際に読んでいただけたら嬉しいです。
    銀の獄に狗の斎く 目の前が真っ赤に染まっていたのだと、
     気がついたのは、その声で名を呼ばれた時だった。
    「リオセスリ殿」
     はるか高みから降り注ぐ声は、フォンテーヌを外界と隔てる大滝のよう。錚々たる瀑布の威容に晒されて、はっと目を覚ましてみれば――おのれの手の中に、人の首があった。
     ぎし、と軋んだのはガントレットの鋼鉄だったか。
    「――っ!」
     慌てて手の力を抜けば、ぶらりとその頭が後ろへ傾いだ。一瞬ひやっとしたものの、幸い首の骨は無事のようだだ。手入れの行き届いていた鉢の毛は乱れ、その顔は涙や鼻汁にまみれているが、目立った外傷はない。恐怖に顔を歪めて、気絶しているだけだ。
    (……息は、ある)
     男をその場に下ろすと、後ろから走ってきた靴音が、リオセスリの脇を抜けてばらばらと周囲へ散っていった。彼ら警察隊の前には瓦礫の山が積みあがっている。煙を噴き上げ、でたらめな明滅を繰り返すそれらは、さきの男が引き連れてきたマシーナリーだった。
    6714

    recommended works