きみと一緒にいたいから スレッタ・マーキュリーと僕が一緒に暮らし始めて、長い時間が過ぎた。
◇
まだ眠気に浸る意識の外で、持ち主よりも早起きな聴覚が物音を拾う。それを足掛かりとして他の感覚も一つ一つ機能しだした。
真っ暗なのは布団の中に潜っているからで、安心する匂いに包まれているのはここがスレッタのベッドだから。温かさが半分になっているのは、彼女が起きてしばらく後だから。
「おはようございます、エランさん。すみません、起こしてしまいましたか?」
「……おはよう、スレッタ」
埋もれていた布団から顔を出すと、スレッタがそこにいた。もう身支度を整えた後の様だ。背中に広がる長い髪もいつも通り一つに結えられている。
彼女はこの後、マフラーを巻いて出かけて行く。今日のように寒い日は、首を温めることで体温を保つらしい。手に持つ長い布がそれだと僕は知っている。ある日「見て下さい、エランさんと同じ色のマフラーなんです!」とスレッタが嬉しそうにしていたからだ。
まだ半分寝ているようなぼうっとした様子でいると、不意にスレッタが僕の頭を撫でた。
「ふふ。寝癖、ついちゃってますね」
「……ん」
寝ている間に方々に癖がついたのだろう。スレッタが慣れた手つきですいすいと撫で付けて整えてくれる。その手がどこまでも温かく優しくて、やっと半分と少し起きていた意識が段々とまた微睡に落ちて行く。
(スレッタがここにいて、僕に触れる。ずっとこの時間でいいのに)
沈む思考の中で願ったそれは、やはり儚いもので。最後にゆっくりと、ほんの少しだけ時間をかけて撫でたあと彼女の熱が遠ざかった。ひやりとした空気が頭上を掠め、急激に目が覚める。僅かな期待を込めて見上げても、その手が今戻って来ることは無かった。
きみは今日も外に行くんだね。
「エランさん、ご飯はいつもの所にありますから……ちゃんと、食べて下さいね」
「……うん」
「それでは、お仕事行ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい」
僕と同じ色だというマフラーをくるりと巻いてスレッタは笑った。毎朝起こる彼女との別れ、僕は部屋から出ていくスレッタの背をじっと見送ることしかできない。開いたドアが彼女の姿を隠して閉じられた。足音が徐々に遠ざかる。隙間から入り込んできた風はしみる様に冷たかった。
しばらく布団の上で何もせず蹲るが、そうしていてもスレッタが戻って来ないことは分かっている。壁に掛けられている丸い時計の針が半分よりも更に進まないと、また彼女に会うことは出来ないのだ。
目を開くと視界の端にこの部屋唯一の窓が見える。ベランダに続くそれは大きいが、特に興味を惹かれる物ではない。窓のすぐ外にスレッタがいるなら話は別だが、今はここの何処にもいない。
何の面白みもなく「寝てしまおうか」と再び目を閉じようとして、小さな何かが視界を掠めた。今度こそ両の目を向けて窓の外、ベランダよりも向こうの世界を見やれば、不揃いな形をした小さい何かが上から下へと止めどなく落ちていた。僕は、あれも知っている。あれは、
(「雪」、だ。「雪」が「降っている」)
立ち上がり、ただじっと雪が降る様を眺めていた。雪は僕にとって特別だ。正確には「特別になった」と言う方が正しい。
「エランさんと出会った日も、こんな風に雪が降っていたんですよ」――思い出す必要のないくらい、頭の中で繰り返したスレッタの言葉。頬に触れる手の温かさまで鮮明に覚えている記憶。彼女が語った始まりは、遠い遠い日のことだった。
◇
僕自身は彼女――スレッタと出会った日のことを正直あまり覚えていない。意識が無かったわけではないが、今起こっていることを鮮明に知覚するだとか記憶するだとか、そういう段階では無かった、のだと思う。おそらく。それすらも曖昧な時にスレッタは僕を見つけた。
僕が覚えている僅かなことは、そこはどうしようもなく寒かったことと、音と光、そして熱。壁に囲われた何処かだったそこの行き止まりに、ただ只管に蹲っていた。どれくらいの時間そうしていたかは覚えていない。時間の感覚なんて僕には無かった。
それは、前触れもなく訪れた。凍えるような寒さしか感じなかった世界に、音が聞こえた。今思えば、それはこの耳が初めて拾ったスレッタの声だったのだろう。
その次に眩しい光があった。碌に目を開けることが出来なかったあの時でも、まぶたを飛び越えるほど強いものだった。
そして最後に、光と同じ方向から差し出された熱があった。それは僕に触れることなく、少し離れた場所に留まっていて動かなかった。
――何故、そうしようと思ったのか、理由は今でも分からない。そもそも理由等なかったのかもしれない。ただ本能が身体を突き動かした。あの熱に、今触れなければ死んでしまう。僕は、この熱に触れるために生まれてきた。輪郭の分からないその衝動に、熱へと向かう歩みは止まらなかった。
その後のことは、よく覚えていない。始まりと同じくらい曖昧だ。ただ辿り着いたという結果だけは明白だった。
僕が今、スレッタと共にいる。それが何よりの証拠だろう。実際に、スレッタはあの日の出会いを語る時にこう言っていた。先に手を伸ばしたのはスレッタで、その手に触れたのは僕だった、と。
そうして僕は「エラン」になった。
今日、何度目かの意識の浮上が起こる。辺りは薄暗いように思えるが、まだスレッタが帰ってくるほどの暗さではなかった。寝そべって記憶を辿るうちにいつの間にか眠っていたらしい。ベッドから身体を起こし、ぐっと伸びをする。ふわ、と一つ欠伸をしてからベッドを降りた。
スレッタが帰ってくるまでに、やっておかなければならないことが一つある。難しくはない、食事を済ませておくことだった。
昔は特に何も思うことなく、用意されたものを当たり前に食べていた。しかしいつの頃か、ふと気付いた。スレッタと一緒に食べる方が、良い。彼女と一緒に食べる時と、そうでない時とでは例え同じものを食べていたとしても全く違うように思うのだ。おそらくスレッタが言う「おいしい」とはそういうことなのだろう。食事は、おいしい方がいい。なら僕は、スレッタと一緒に食べる。そんな理由で、後で彼女と一緒に食べるからと食事に手を付けなくなった。
そんなことを数回続けたある日、スレッタが大慌てで僕を何処かに運んで行った。何度声を掛けても彼女には届かず、ただ「大丈夫ですから」「大丈夫」と繰り返していた。その後のことは、あまり思い出したくはない。知らない場所で知らない人間に囲まれて散々な目にあった。どうやら食べなかったことが理由らしい、とは感じ取れた。
(――僕はただ、スレッタと一緒に食べたかっただけだよ)
そう思った時、スレッタがぽつぽつと言葉を溢した。いつもとは違う、滲んで消えてしまいそうな声だった。
「ご飯、ちゃんと食べないとダメ、ですよ。エランさん」
「……でも」
「病気にならないか、心配です」
「………それは、」
「ずっと、は……難しい、ですけど。ほんの少しの時間でも、長く……エランさんと一緒にいたい、です」
「………うん。それは、僕も」
スレッタをひどく不安にさせてしまった。その事実が、ぎりぎりと身体を締め付けるような息苦しさを僕に与える。
ふと、何か面白いことでもあったのか。スレッタが少しだけいつもの声色に笑い声を含ませて問いかけた。
「もう、エランさん。本当に分かってますか?」
それを不思議に思ったが、僕は迷いなく答える。
「当然だよ」
きみを悲しませるために、側にいるわけではないんだ。
それ以来、食事を残しておくことは無くなった。スレッタが悲しむことは、一つでも少ない方がいい。あの場所にまた行きたいとも思わない。
もちろん気持ちは以前と変わらず、一緒に食べられたらどんなに良いだろうと思うことはあるけれど。
(今日はきみの、どんな「おいしい」顔が見られるだろう)
スレッタのことを考えながらするそれも、悪くはないと思えた。
◇
窓の外はすっかりと暗くなり、時計も望む場所にぐるりと針を進めた頃。しんと静まり返る部屋で耳を澄ませる。聞こえる足音のなか、彼女のものを探す。
(……帰ってきた)
弾むような足取りで、少しずつ近付いてくる。待ち侘びて焦れる気持ちを抑えじっと待つ。そうしてやっと、ドアが開いた。パッと点いた部屋の明かりは、僕にも熱を灯す様だった。
「ただいま、です!エランさん」
「おかえり、スレッタ」
スレッタが部屋に入ってくるのと同時に彼女の元へ足が向かう。上がった体温を少しでも彼女に分け与えるようにその冷えた身体を抱きしめた。そうすると、スレッタも僕を両手で抱きしめてくれる。彼女の腕の中は、いつだって心地良い。
「お出迎え、ありがとうございます。……あ!今日もご飯は食べてくれたんですね」
偉いです!そう言ってスレッタは僕の頭を撫でる。子供扱いされている様で思うところがない訳ではないが、過去の行いの結果なので仕方がない。それにどんなことであれ、彼女に触れられるならそれでいいとすら思ってしまう。
スレッタの手に、段々といつもの温もりが戻る。本当に熱を分かち合えた様で、胸の内が満たされた。
今日この後は、どんな話をして過ごそうか。
◇
「そろそろ寝ましょうか、エランさん」
「うん、そうだね」
寝巻きに着替えたスレッタが、ふわりと一つ欠伸をする。
布団を被り、いつもの様に一緒に眠る。スレッタが壁に近い奥側で、僕は手前。以前反対に寝ていた時に、スレッタがベッドから落ちた音で飛び起きたことがある。真っ暗闇に響く鈍い音と、すぐ側に居たはずのスレッタがいないという事実に僕の心臓は止まり掛けた。彼女は寝相が少し悪い。それも壁と僕に挟まれたらマシになると気付いてからは、これが僕の定位置になった。
明かりが消され、見えるものは無くなった。僕はスレッタの腕のなか、彼女の穏やかな鼓動に耳を傾ける。刻む速さは違うけれど、とくんと脈打つそれは確かに僕と同じ音だった。
「………おやすみなさい、エランさん」
「おやすみ、スレッタ」
そう言葉を交わして、今日一日が終わり行く。毎日繰り返す当たり前に満たされながら、僕はその端に滲む影に怯えている。
(きみと僕は、歩む時間が違う。何も分からない子供だった僕はもういない。きみと同じ「大人」になった)
(そうしてこれからも、僕はきみを追い越して行く。いつかきみを置き去りにする。……その事実が、)
どうしようもなく、僕の胸を竦ませる。
スレッタと出会わなければ良かったとは思わない。彼女の温もりを知らないのであれば、それはもう「僕」じゃない別の何かだ。
彼女のいない生を否定し、ならばいつかはその日が来ると認めながら。それでも願わずにはいられない。
(きみと僕が、同じであれば良かった。そうすれば、ずっと側にいられたのに)
忍び寄る恐怖がじわりと足元から這い上がる。それを振り払うように頭をもたげ、スレッタの鼻先に僕のそれでそっと触れた。誰に届く訳でもない、途方もない祈りを込めながら。
柔く包み込むその熱に、溶け合う様に瞼を閉じた。
◆◆◆◆
エランさんが我が家に来てから、一年と少しが経ちました。最初は手のひらで包めるほど小さかったのに、今は両手で抱っこするほど大きくなりました。
◇
忙しなく朝の準備をしていると、布団からひょこりとエランさんが顔を覗かせた。
「おはようございます、エランさん。すみません、起こしてしまいましたか?」
「……プィ、プ」
干草のようにベージュがかった淡いグリーンの柔らかな毛並みは、その毛先があちこちに跳ね寝癖がしっかりと付いている。普段はぴんと立っている両の耳も今は片方がまだ寝ているようだ。
「ふふ。寝癖、ついちゃってますね」
「……キュ」
しょぼしょぼとまだ寝ぼけ眼のエランさんの頭から背をすいっと撫でる。気持ちがいいのか、開きかけていた目がまた少しずつ閉じていく。数度それを繰り返せば、ツヤっとした毛並みの二度寝うさぎさんが出来あがった。ぷくぷくと寝息が聞こえるこの時間はたまらないけれど、時計の針はそろそろ出ないと間に合わない時刻を示していた。
名残惜しさを感じつつ背を撫でていた手を引くと、ぱちっとエランさんの目が開いた。じぃっと見つめてくるまん丸の目には眠気など見当たらず、もしかすると狸寝入りだったのかもしれない。
「エランさん、ご飯はいつもの所にありますから……ちゃんと、食べて下さいね」
「……プ」
「それでは、お仕事行ってきますね」
「プ、プィ」
エランさんはとても賢い。こちらの言葉を理解しているかのように返事をしたり動いたりする。そのことを学生時代からの友人であるミオリネさんに話したら「親ばか」と言われたのは記憶に新しい。
かんかんと靴音が鳴るアパートの細い階段を降りて行くと、開けた視界にふわりと舞う白が目に入った。そういえば、今日は朝から雪が降ると言っていた。
(エランさんがうちに来た日も、雪が降ってたなぁ)
◇
一年と少し前の冬のある日、どういうわけか「子うさぎを保護したから譲渡先を探している」と学生時代にお世話になったベルメリアさんから連絡が入った。
困っている様子に急ぎ向かうと、そこには小さな小さな子うさぎが3羽、身を寄せ合って――というわけではなく個性豊かに箱の中に収まっていた。こちらを気にせずぺそんと寝る子、まだしっかりと開かない目でよちよちと寄ってくる子、そして箱の隅、ただでさえ小さな身体をぎゅっと縮こめて動かない子。大人しい、と言ってしまばそれまでだけれど――温かい部屋のなか、その子はどこまでも寒そうで、寂しそうで。理由も分からず胸が締め付けられたことを覚えている。
社会人としてもまだまだ未熟で、引き取り手が私でいいのだろうか?と迷う気落ちもあったけれど「サポートするから、いつでも相談して」というベルメリアさんの言葉に背中を押されてこの子を迎える決心をした。
「……これから、よろしくお願いします、ね」
怖がらせないように、そっと差し出した手。触れられなくても少しでも気持ちが届いたらと願ったそれは少し震えていて、とくとくと心臓も忙しなく脈打っていた。緊張から火照った顔は耳まで赤くなっていた様で、ベルメリアさんから「なんだかプロポーズみたいね」と言われてしまったのだった。
その言葉に驚き横を向いた瞬間、指先に柔らかで少しくすぐったいものが触れた。慌てて視線を戻すと、先ほどまで隅で蹲っていた子うさぎがおぼつかない足取りでよじよじと手のひらに収まろうとしていた。
その時溢れた気持ちを、一生かかっても上手く言葉には表せないだろうけれど。手のひらの上、再びきゅっと丸くなった小さな命をゆっくりと、恐る恐る胸元まで掬い上げた。僅かな重み、それでも確かな熱を持っている子うさぎの男の子がそこにいた。しんしんと真白い綿のような雪が降る、とても寒い日のことだった。
(家族になるなら、名前が必要……だよね)
当たり前のことを思い出し、誰に確認するでもなく胸の内で呟いた。名前、どうしようかな、と頭に過ったのとほぼ同時に「この子は、エランさん」そう自分のなかで囁く声があった。聞いたことも、見たことも無い名前だった。何処から出てきたのかも分からない。それでも、すとんと落ちてきて離れない、懐かしい気さえする名前だった。
◇
「ただいま、です!エランさん」
仕事を終え、買い物を済ませて帰宅したのは午後7時。夜の底冷えに悴みながら入った部屋の暖かさに強張った身体がほぐれていく。
「プッ」
足元でトッと軽い音と小さな鳴き声。下を見やればいつもの様にエランさんがお出迎えをしてくれていた。後ろ足は床に揃え、ちょこんとした前足でぎゅっと足元にしがみ付いている。毎日の事ではあるけれど、あまりの可愛さに一日の疲れがじわりと滲んで消えていく。一度しゃがんで、その温かな身体を抱き上げた。腕の中に収まる重みが愛おしかった。
「お出迎え、ありがとうございます。……あ!今日もご飯は食べてくれたんですね」
偉いです、エランさん!そう言って、いい子いい子と頭を撫でる。
――以前、エランさんはご飯を食べなくなったことがある。全く食べないという訳ではなく一緒の時間にする食事や、手渡ししたものはいつも通りによく食べていた。ただ、仕事など外出中のご飯として用意しておいたものには一向に手をつけようとしなかった。
ストレスか、もしかすると何かの病気なのではないかと心配になり病院に駆け込んだ。道中、いつも以上に鳴き声が聞こえ、痛いのか苦しいのか何かを訴えているようだった。待合のベンチに座りながら良くない想像が頭の中でぐるぐると渦巻いて、「マーキュリーさん」と呼ばれるまでじっとりとした冷や汗が止まらなかった。その後すぐ「食べる気が無かっただけですね」という先生の言葉を聞いた時は安心して思わずへたり込んでしまったけれど。
病院からの帰り道、ゆっくりと歩きながらキャリーの中にいるエランさんに話しかけた。
「ご飯、ちゃんと食べないとダメ、ですよ」
「……プ」
「病気にならないか、心配です」
「………キュ」
「ずっと、は……難しい、ですけど。ほんの少しの時間でも、長く……エランさんと一緒にいたい、です」
「………プィ」
ぽつぽつと降る雨のように溢した言葉。エランさんはまるで相槌を打つように小さな鳴き声を返してくれた。
それが、なんだかとてもおかしくて
「もう、エランさん。本当に分かってますか?」
苦笑混じりのそれに
「キュ」
「当然だよ」と言うように少し力強く鳴いたのだった。
その日を境に、エランさんはご飯を残さず食べてくれるようになった。私の気持ちが少しでも伝わったのかな……なんて都合の良いことも思ったけれど、ただの偶然なのだろう。それかもう病院に行きたくないから、かもしれない。
◇
「そろそろ寝ましょうか、エランさん」
「プィ」
時計の針が揃って頂点を示す頃。寝支度を整え掛け布団をふわっと捲ると、エランさんが軽やかに跳ねてぽすんとベッドに着地する。壁際に寄せられたベッドの上、エランさんの定位置は奥ではなく手前側。今日もいつも通りの場所で私が寝転がるのをまん丸の目をして待っている。
部屋の電気を消し、エランさんと壁の間、十分に空けられたスペースに身体を滑り込ませた。横むきの姿勢で枕に頭を預けると、すかさずエランさんがすぽりと胸元に潜り込む。しばらく腕の間でもぞもぞとした後に、いい場所を見つけたのかぴたりと動かず大人しくなった。
「………おやすみなさい、エランさん」
「キュ」
聞こえた声に頬を緩ませ、真っ暗闇のなか目を閉じる。耳に届くのは外に吹く風の音と、腕に抱いた小さな吐息。
エランさんに触れている場所からじわりと温かな熱が滲み、それは微睡のうちに全身を包み込む。
愛しい愛しい、一日の終わり。
(――どうか、この時間が一秒でも長く続きますように)
毎晩、夢現に願うことは変わらない。例え過ぎる時間の流れが違うとしても、先が途切れるその瞬間まで一緒にいたいと思うから。
ふと、温かなものがほんの僅か鼻先に触れた。それを解け行く意識の外で感じつつ、重なる温もりに身を委ねた。
うさぎ基準でIQ200位あるんやないかといううさぎ4くんと社会人スレッタちゃんのお話。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
この後4くんは夢の中で前世エ様に「お前まだエランやってんのか」とドン引かれたり、「だから、僕はあなたを利用した」と返したり。
紆余曲折を経て「きみと家族になりたい」「エランさんと私は、もう家族、ですよ?」「言い方を変えようか。……きみと、番になりたい」「つがっ……!」というやり取りをスちゃんとできる様になったり。取り敢えず幸せになってほしい気持ちはだけはありました。