猫ちゃんとお兄さま「あのね、あのね、明日のお休みはね、お兄さまとデートするんだぁ!」
生徒会室、補佐の膝の上で猫のようにじゃれながら少年は嬉しそうに話していた。
それが生徒会室に入ったロロが一番最初に目にした光景だった。
図書館で課題に必要な本を借りてきたロロは早足で生徒会室に向かっていた。
明日は日曜日。弟と出かける予定が入っていた為、今日中に終わらせたい仕事があったからだ。
しかし、どうだろうか。生徒会室では補佐が少年とじゃれ合い、副会長はそれを見て笑みを浮かべていたのだ。
彼は思わず本を落としてしまった。
「お兄さまぁ!」
漸く兄の存在に気づいたのか、少年は補佐の膝の上から降り、ロロに近寄ってきた。
「お兄さま、待ってたの!」
「……生徒会室に来るな、と何度言ったらわかるのかね」
落とした本を拾いながらロロは悪態を吐く。それでも弟は表情を変えずに兄にまとわりついた。魔法で、ふわり、と浮き、兄を背後から抱きしめる。
「だってぇ、明日はお兄さまと一緒にピクニックに行くでしょ?お昼ご飯のサンドイッチはどんなのが良いかなって思って聞きに来たんだもん。お兄さまだって嫌いなもの入ってたら、
やでしょ?」
「なんでもいい」
「もう!なんでもいいっていうの止めてって何度言ったら分かるの!」
二人のやり取りを見て副会長と補佐は兄弟なのか夫婦なのかわからない、といった顔をしていた。彼ら兄弟が普通の兄弟よりも仲が良いという事はノーブルベルカレッジの生徒であればだれでも知っていることだったが、それ以上の関係だと知っているのは副会長と補佐くらいなものであった。
副会長と補佐は兄弟のやり取りを見て頷き合った。
「会長、私たちは今日の仕事を終えましたので、そろそろ失礼します」
「気兼ねなくジャンくんといちゃついてくださいね」
机の上に置いていた書類や本を片付け、二人は立ち上がった。そんな彼らをロロは止めようとしたが、何も言えずに口だけがパクパクと動くだけだった。
何も言えない会長を後目に二人は生徒会室から出ていき、あっという間に部屋は兄弟だけの空間となってしまった。ロロは頭を抱えたが、弟は何も気にしていない様子だった。笑顔のまま話し続けた。
「サンドイッチの具は何が良い?たまご?ハム?チーズ?チキン入れてもいい?僕、いっぱい食べたいからたくさん作っていいよね?ね?お兄さま!」
「好きにし給え」
ロロが積み上げた本の上に腰掛けながら弟は兄へ一方的に話しかける。普通の人よりも魔力の強い弟は箒などを使わずに空を飛ぶことを好んでいた。それ故に空を浮遊しながら兄にじゃれつくことなど日常茶飯事であった。ロロは弟ごと本を机の上に置き、椅子に腰かけた。
「全く、お前が煩いせいで、副会長と補佐が帰ってしまったではないか」
「いいじゃない、お兄さま。副くんも補佐くんも気を遣ってくれたんだよぉ」
にこにこと笑みを浮かべながら弟はロロの膝の上へ横になる。まるで猫がじゃれついてくるようだ。ロロはマジカメで見た猫が液体のようになっている動画を思い出した。
「僕ね、本当はこの後お買い物に行こうかなって思ったんだけど、せっかくお兄さまと二人きりだから……ここで、しちゃう?」
「万年発情期の猫め」
作業を始めようとしたロロだったが、弟に絡みつかれてはすることも出来ない。開いた本を閉じ、弟の頭を撫でた。
「ここは神聖な学び舎だぞ。するわけがないだろうが」
「じゃあ……お兄さま、一緒にお買い物して、寮に帰ってきたらしようよ?それなら良いでしょ?」
言い出したら聞かない弟の性格をロロは熟知していた。兄は仕方なく今日中に終える仕事を放棄した。
「……買い物には付き合ってやる」
「やったぁ!じゃあ行こ!窓から出るね!」
「ば、馬鹿!止めなさい!危ないだろうが!」
廊下まで響くロロの声を聞いて副会長と補佐は小さく笑いあっていた。
(了)