フランム兄弟ピアノコンサートレポ20××年2月2日 13:00開場 13:30開演
プログラム
第一部
エチュードOp10-1 ショパン(ロロ)
MC1
子犬のワルツOp64-1 ショパン(ジャン)
MC2
エチュード Op10-4 ショパン(ロロ)
エチュード Op25-11 「木枯らし」 ショパン(ロロ)
MC3
エチュードOp10-5「黒鍵」 ショパン(ジャン)
エチュードOp25-9「蝶々」 ショパン(ジャン)
MC4
前奏曲Op3-2 「鐘」 ラフマニノフ(ロロ)
ラ・カンパネラ パガニーニ/リスト(ロロ)
~休憩~
エチュードOp10-1 ショパン(ジャン)
即興曲Op90-2 シューベルト(ジャン)
クシコス・ポスト(ネッケ)
MC5
ハンガリー狂詩曲第2番 リスト(ロロ)
MC6
英雄ポロネーズ ショパン(ジャン)
MC7
ピアノソナタ第14番「月光」 ベートーヴェン(ジャン)
MC8
ピアノソナタ第23番「熱情」 ベートーヴェン(ロロ)
第二部 連弾
プリモ(高い方):ジャン
セコンド(低い方):ロロ
ハンガリー舞曲第5番 ブラームス
MC9
ピアノ協奏曲第2番第1楽章 ラフマニノフ
トルコ行進曲 モーツァルト
MC10
組曲より「ワルツ」
アンコール
MC11
パイレーツオブカリビアンより「彼こそが海賊」
MC12
剣の舞 ハチャトゥリアン
エチュードOp10-1 ショパン(ロロ)
MC1
「皆様、本日は我らが兄弟のコンサートにお集まりいただきありがとうございます。此度は私と弟のジャンが好む曲をお披露目する、といった趣旨のコンサートとなります。どれも有名な曲ばかりで題名は知らずとも皆様も一度は耳にしたことのある曲でしょう。第一部は私とジャンが交互に弾く形式を取りますが、プログラム順ではございません。ジャンの奴が……いえ、申し訳ございません。我が愚弟がプログラム順に弾くなんてつまらないと宣いランダムに弾く形式となりました。この場を借りて謝罪させていただきます」
「なんでよぉ、お兄さま!お兄さまだってノリノリだったじゃん!」
(舞台下手から登場するジャン)
「こら、ジャン。嘘をつくな」
「ご紹介に預かりました、弟のジャンです。みんな、よろしくねぇ」
「私を無視するな。そして、紹介などしていないぞ」
「そんなことより、お兄さまが弾いた曲紹介した方が良くない?」
「……。皆様、先程お披露目した曲ですが」
「ショパンのエチュードOp10-1!」
「……です。ショパンという名前は皆様もご存知でしょう。かの有名な作曲家は練習曲を27曲作っております。練習曲と題を掲げていますが、芸術性が高く、発表会やコンサートなどで選出されることが多々あります。今回のコンサートでも例にもれず、幾つか選曲しております。そしてOp10-1はエチュードの中でも難易度の高い楽曲となっております。個人差はあると思いますが、作品10の中では1、2を争う難易度でしょう」
「ちなみにお兄さまはショパンのエチュードの中でどれが一番好き?得意じゃなくてさ」
「Op25-11。通称木枯らしだな。今回も選んでいる」
「僕もお兄さまの木枯らし好きぃ!みんなも好きだよね?」
(拍手をする観客)
「止めたまえ、ジャン。お客様が困惑しているだろう」
「良いじゃん。後でお兄さまの木枯らし聴けるの楽しみにしてるね」
「ならばお前は次に弾く曲目の説明でもしなさい」
「何言ってんの、お兄さま。ランダムに弾くんだから教えちゃ面白くないじゃん!」
(マイクをロロに渡して椅子に座るジャン)
「……仕方ない奴だな。それでは私に代わりまして、愚弟の演奏をお聴きください」
子犬のワルツOp64-1 ショパン(ジャン)
MC2
「聴いてくれてありがとう。これは僕がとっても好きなショパンの曲、子犬のワルツだよ。有名だからみんな知っているよね?」
「落ち着きのないジャンに似合っている曲だな」
「何それぇ!」
(客席から笑い声が上がる)
「でもさぁ、お兄さま。子犬のワルツってショパンがくるくる回ってる子犬を見て即興で作ったって逸話があるの知ってる?僕はそういうイメージがあるから軽やかに弾いてるんだけど、お兄さまが弾くとなんだかドーベルマンが威嚇しているようなワルツになるよね」
「馬鹿も休み休み言え。誰がドーベルマンだ」
「子犬みたいな可愛らしさは僕の方が上だよねぇ。えへへ」
「全く。お前はそうやって同じような曲ばかり選出するのだから……」
「そういうお兄さまだって、ドーン、ガーン、短調ー!みたいな曲ばかりじゃないのさ!」
(客席から笑い声が上がる)
「次の曲もそんな感じじゃない?」
「……否定できないな。次の曲は……」
「だめぇ!お兄さま!」
「なんだ、ジャン」
「言ったらつまんないの!」
「わかった。わかった、ジャン。それでは私から二曲続けてお聴きください」
エチュード Op10-4 ショパン(ロロ)
エチュード Op25-11 「木枯らし」 ショパン(ロロ)
MC3
「お兄さま、またショパンのエチュード!」
「良いだろう?お前の楽しみにしていたOp25-11、木枯らしを弾いたのだから」
「むむむー!それは良いけどエチュードばっかりはつまんないの!」
「つまる、つまらないの問題ではないだろう。此度のコンサートは各々好きな曲を弾くという話になっていたはずだからな」
「じゃあ僕ももっとエチュード選べばよかったぁ。僕はお兄さまと違ってちゃんと色んな作曲家から選んだもんね」
「そうは言うが、お前もショパンばかりではないか?」
(今回のプログラムを見ながらロロが言う)
「しーっ!しー、なの、お兄さま!」
「さて、愚弟は置いておきまして。先ほどの二曲はショパンのエチュードより、Op10-4、そしてOp25-11木枯らしです。一曲目のOp10-4は先ほどの10-1に比べれば易しい曲ですが、エチュードの中では高難易度にあたる曲です。有名な副題は無いこの曲ですが、クラシック曲好きの間では好む人が多い人気な曲でしょう」
「あ、副題っていうのはね、革命のエチュード!とか木枯らし!とかそういうやつね」
「ここにいる者であればそのくらいの知識はあるだろうが」
「えー?でもほら、カジュアル愛好家勢もいると思うよ?僕もそうだし」
「ピアノで食っている者をカジュアル愛好家とは言わん」
(客席から笑い声が上がる)
「じゃあ次は僕の曲だね。僕も二曲弾くんだ。何が良いかなぁ?可愛い曲にしようかな」
「どれでもいい故、早く準備をしろ」
「はぁい」
エチュードOp10-5「黒鍵」 ショパン(ジャン)
エチュードOp25-9「蝶々」 ショパン(ジャン)
MC4
「なんだかんだ言って僕もお兄さまに合わせてエチュードにしちゃった」
「Op10-5、黒鍵のエチュードとOp25-9、蝶々だな」
「うん。僕この曲たち可愛くて好きなの。黒鍵のエチュードは人気だし、有名だし、可憐な感じだし!あっ、ここでみんなにクイズね。黒鍵のエチュードって、殆ど黒鍵を弾いているからそういう風に呼ばれているんだけど、左手は白鍵もちゃんと弾いているの。では、右手は全部黒鍵を弾いているでしょうか。合ってると思う人!」
(ちらほら手を上げる客)
「間違っていると思う人!」
(こちらもちらほら手を上げる客)
「正解はねぇー、どっちも正解、かな!」
「そのような曖昧な問題を作るんじゃない」
(笑う客たち)
「ショパンの書いた原典では右手は全部黒鍵なんだけど、弾きやすく改良された楽譜では左手で弾くところを右手で弾いてねって書いてあるから、そこだけ白鍵を弾いているんだよ」
「66小説目のF音だな」
「もう、お兄さま。そうやって難しく言うから敷居が高くなるんだよ」
(椅子に腰かけて該当箇所を弾くジャン)
「ここのファをショパンは左手で弾いてねって書いてあるんだけど、後の版では弾きやすいように右手で弾くように変化してるんだ」
「ちなみにお前はどっちて弾いているんだ?」
「僕は手がちっちゃいから右手じゃないと弾けないの。お兄さまはちゃんと弾けるでしょ?」
「勿論だ」
(該当箇所を弾くロロ)
「皆さま、同じ曲でも弾き手が違うとこうも違うものなのです」
「ほんとー!僕、お兄さまみたいに脳筋じゃないから、力強く弾けないの」
「お前の得意な曲に力強く弾く英雄ポロネーズがあることを、私は知っているぞ」
「もう、言わないでよぉ!」
「確かに、お前は軽やかに弾く曲の方が多いのだが……。二曲目もそのようだな」
「うん。Op25-9の蝶々ね。この曲初めて聞いたっていう子多いんじゃない?エチュードの中ではどっちかって言うとマイナーだもんね。でも僕この曲好きなんだぁ」
「隙あらばコンサートの度に選曲しようとしてくるからな」
「うん!やっぱり自分の好きな曲ってみんなに聴いてほしいじゃん?それにさ、今日帰ったら僕の上げた動画を見てほしいんだけど、この曲って右手を上から見ると蝶々みたいにぱたぱた弾いているんだ。だから副題が蝶々って言うの」
「その話は初めて聞いたが本当か?」
「えーっと……、わかんない!」
「真偽も確かめずに公の場で言うな。全く、お前は……」
「だめだめ、ストップ!お兄さまのお説教は長くなっちゃうから次の曲、いこ?」
「……仕方がないな。それでは皆様、今度は私から二曲弾かせていただきます。この曲の終了後、二十分間の休憩を挟みますので今のうちに曲紹介を軽くいたしましょう。良いな、ジャン」
「うん、良いよ。お兄さまの大好きな鐘とラ・カンパネラだよね」
「何故お前は私の言葉を盗むのだね。……。次の曲はラフマニノフの前奏曲op3-2、鐘、とリストのラ・カンパネラです」
「どっちも人気の曲だよね。特にお兄さまが弾くとすっごく格好いいの!重々しい鐘とワルツみたいなラ・カンパネラ!」
「そのようだな。皆様にとってもこの二曲はどちらも説明不要かと思います。それではお聴きください」
休憩(20分)
エチュードOp10-1 ショパン(ジャン)
即興曲Op90-2 シューベルト(ジャン)
クシコス・ポスト(ネッケ)
MC5
「こら、ジャン!何故三曲も続けて弾いた!事前の打ち合わせと違うだろうが」
「あっ!バレちゃった!逃げなきゃ!でも舞台上だから逃げられないよぉ」
「お前は日頃から馬鹿な行動ばかりするが、今度という今度は」
「だめ、だめ、お兄さま!お小言はまた今度聴くから曲の解説させてよ、ね?」
(上目遣いでおねだりをするジャンを見て客席から拍手が沸き起こる)
「……ここはお客様に免じて許そう。それで、何故三曲続けて弾いたのだね」
「あのね、本当は即興曲90-2とクシコスポストだけ弾く予定だけだったんだけど、お兄さまのOp10-1を聴いて僕も弾きたくなっちゃったの」
「矢張りお前は馬鹿だな」
「もぉ!僕はお兄さまより馬鹿じゃないもん!みんなだって同じ曲でも弾き手によって曲の雰囲気が違うなって感じたでしょ?それを知ってもらいたかったの。お兄さまが弾く10-1は曲っていうよりハノンとかチェルニーとかのザ・練習曲って感じだけど、僕のはコンサート向きの曲、って感じじゃない?性格が出てるよねぇ」
「それは私が度の過ぎた真面目で面白みのない男だと言っているようなものだが、違うか?」
「うーん、難しい話はわかんないや」
(舌を見せてとぼけるジャンを見て客席から笑い声が上がる)
「話は変わるけど、二曲目の即興曲Op90-2って二面性がある曲で僕好きなんだよね」
「お前が重々しい短調が入った曲を好むとは意外だな。いつもショパンの明るいワルツや軽やかなエチュードを弾いているイメージだからな」
「うん、お兄さまの言う通りだよ。でもね、僕、シューベルトってなんか優等生な感じの曲作ってるイメージあったから、この短調の部分で面白いなって思ったの」
(ジャンが即興曲Op90-2の短調部分を軽く弾く)
「その辺りはどちらかと言えば私の好む曲調だ」
「やっぱりぃ。お兄さまそういう曲ばっかりだもんね。で、さ。此処での一番好きなところは強く弾いてね、って指示があるところに限って、音がこうやって重なるの」
(ジャンが左手でシレミ#の和音、右手でファ#を弾く)
「所謂不協和音、というものだな」
「そうそう。でもベートーヴェンみたいに綺麗な不協和音でしょ?それ知ってから面白いなって思って好きになったの」
「お前もたまにはまともな理由で曲を好きになるのだな」
「何それ!馬鹿にしないでよぉ!」
「そして三曲目だが」
「あ、話逸らした!」
「クシコス・ポストという曲だな。……この曲はピアノになじみのない方でもご存じの方が多いでしょう。クシコス・ポスト、とは輝石の国の東側の地方の言葉で郵便馬車という意味のようです。曲の難易度は低めでオクターブに手が届くのであればピアノを習いたての子どもでも弾けるものでしょう。しかし、弾ける事と人に聴かせるように弾く事は違います」
「全体的に早めだし、案外音が跳躍してるし、打鍵ミスしやすいんだよね。しかも誤魔化しづらいから、音外したってすぐわかっちゃうもん」
「ピアニストと思えぬ言葉だな」
「えへへ。でも楽しく弾くのも重要だよ。あ、あとね。お兄さまが次弾く曲でこの曲のメロディが出てくる箇所があるんだ」
(ジャンがクシコス・ポストの41小説目から軽く弾く)
「ここなんだけど、みんな気づくかな」
「分かりやすい故、気づくだろう。それでは皆様の耳にこのメロディが残っている内に弾かせていただきます」
ハンガリー狂詩曲第2番 リスト(ロロ)
MC6
「お聴きいただきありがとうございます。リスト作曲、ハンガリー狂詩曲第2番でした。この曲はジプシーが躍る曲を元に作曲されたと言い伝えられており、ゆっくりとしたLassan(ラッサン)と速い部分のFriska(フリスカ)という二つの部分で構成されています。この構成はチャルダッシュと言い、緩急の対比で魅了するものとなっています」
「さすがお兄さま!曲の知識はすごいね!」
「お前が知らぬだけだろう」
「それに僕ね、最後のカデンツァも好きだよ」
「そうだな、カデンツァについても説明せねばならないな。皆様、最後のフィナーレ前のこのメロディですが……」
(ロロがカデンツァのメロディを弾く)
「この部分はカデンツァと言い、楽譜には一切記載のない箇所となります。リストがここは弾き手の好きなように奏でろ、と楽譜に書いてあるのです」
「要するに、俺の作った曲っぽく弾いて見せろー!っていうリストからの挑戦状だね」
(客席から笑い声が上がる)
「そこまでは考えていないと思うがね……。才能豊かな弾き手であればアドリブで弾くこともありますし、自身のカデンツァを楽譜にして公開しているピアニストもおります。ですので、このカデンツァを含めたハンガリー狂詩曲第2番は私しか弾けないものとなっています」
「お兄さまは楽譜作ってないもんねぇ。僕のカデンツァは楽譜にしてネットに上げてあるから、帰ったらハンガリー狂詩曲第2番の動画を見てね!」
「さて、そろそろ曲数も少なくなってきたが、まだ次の曲を言うつもりはないのかね」
「うん。まぁ、そろそろみんな流れがわかってきていると思うけど、流れを壊したくないし。じゃあ僕からも一曲弾くね」
英雄ポロネーズ ショパン(ジャン)
MC7
「みんな、ありがと!有名なショパンの英雄ポロネーズを弾いたよ」
「先ほど名前を出した力強く弾く曲、だ。ショパン自身も、この曲は私の生涯で最も力強いものだ、と語ったという有名な逸話があるくらいだからな」
「そうそう。最初から力強くって、かっこよくって、なんていうか……すごいよね!」
「語彙力はどこへ行ったのだね。表現力が乏しいピアニストとは嘆かわしい」
「いいの!僕は言葉じゃなくて音で表現するから。でもさぁ、僕、この曲好きなんだけどいっつもポロネーズかポロネーゼか迷っちゃうんだよね」
「ポロネーゼとはなんだね。パスタの亜種かなにかかね」
「えへへ。そんなこと言ってたらなんかお腹空いてきちゃった!お兄さまが弾いている時におやつ食べちゃお」
「それを許可すると思っているのかね、ジャン。次の曲もお前が弾く曲だぞ」
「あ、そうだった!第一部はあと二曲。ベートーヴェンのピアノソナタだけだね。僕たちのコンサートによく来ている子たちならどっちがどっち弾くかわかっちゃうかも!」
「そうだな。因みに、ジャン。お前はベートーヴェンのピアノソナタの中でどの曲が一番好みなのだね」
「僕はねぇ、月光の第二楽章!綺麗だけど暗い第一楽章と激しい第三楽章に挟まれた可憐な花って感じで、僕みたいだもん」
「……。自画自賛は止めたまえよ、ジャン」
「でも、そうやって言ったの、お兄さまが一番最初だよ?」
(客席から黄色い歓声が上がる)
「ば、馬鹿な、馬鹿なことを言うな!ほら、早く曲を弾きたまえ!」
「あっ!お兄さま!恥ずかしがって帰っちゃった!」
ピアノソナタ第14番「月光」 ベートーヴェン(ジャン)
MC8
「みんな、予想通りって顔してる!」
「こら、ジャン。そのように言うんじゃない」
「だってぇ、僕はみんな事驚かせたいんだもん」
「しかし、お前の月光は皆に好評だぞ。皆様、そうでしょう?」
(客席から拍手が沸き起こる)
「えへ!ならいいや!ベートーヴェンのピアノソナタの中で一番有名な月光を弾かせていただきました!」
「ベートーヴェンの三大ソナタの一つである月光は皆さまでも一度は聴いたことがあるでしょう。三大ソナタは悲愴、月光、熱情の三つを指します」
「ここで問題ー!三大ソナタの中でベートーヴェン自身がつけた副題があるんだけど、どれだと思う?」
「今度はきちんとした解があるのかね」
「あるよぉ!悲愴だと思う人!」
(ぱらぱらと手を上げる客)
「月光だと思う人」
(多くの人が手を上げる)
「熱情だと思う人!」
(残りの客が手を上げる)
「正解はね、悲愴でした!」
(ジャンが悲愴の第三楽章の冒頭部分を弾く)
「今回は選曲しなかったけど、第一楽章はお兄さま、第三楽章は僕の弾いた動画がアップされているから、良かったら見てね」
「第二楽章が最も有名なのだが、我々はどちらも不得手でして。鋭意製作中です」
「きっとお兄さまが弾いて動画出してくれるはず!」
(客席から期待を込めた拍手が沸き起こる)
「ジャン、適当な事を言うのは止めなさい」
「お兄さま、いいじゃん。減るものじゃないし。それより最後の曲、お兄さま弾いてよ!僕、お兄さまの熱情大好きなんだぁ!」
「初耳だな。その場しのぎの言葉ではなかろうな?」
「う……うん!僕はあんな力強い熱情弾けないからすごいなーって思ってるよ。みんなも楽しみにしてるみたいだし、早く聴きたいなぁ」
「では、第一部最後の曲を弾きます。ベートーヴェンでピアノソナタ第23番熱情です。お聴きください」
ピアノソナタ第23番「熱情」 ベートーヴェン(ロロ)
休憩(20分)
第二部
ハンガリー舞曲第5番 ブラームス
MC9
「皆さま、お聞きいただきました曲はブラームスのハンガリー舞曲第5番です。この曲はオーケストラ版が有名ですが、もともとはピアノの連弾曲として作成された曲なのです」
「本当はピアノ二台で弾くんだけど、連弾はやっぱり一台で弾く方が楽しいもんね」
「第二部は私と愚弟の連弾をご披露させていただきます。ジャンの提案により、第一部よりも砕けた私たちの演奏を見ていただこうという……くだらない提案ですが、楽しんでいただけたら幸いです」
「くだらなくないって!お兄さまだって楽しいの、僕、知ってるんだから」
「何を言う、ジャン」
「余計なことかもしれないけど、連弾用の楽譜を作ってるのはお兄さまなんだ。で、その楽譜通りに弾かないのが僕」
「全く、楽譜を作る意味など無いに等しいのだが……。ある程度目安を決めておかねば音楽として成立出来なくなってしまうからな」
「でも僕のアドリブに乗ってくれるの、お兄さまだけだから、僕はお兄さまと一緒に弾くの大好きだよ」
(客席から黄色い声が上がる)
「馬鹿な事を言うんじゃない。次の曲に行くぞ」
「はぁい、お兄さま。次は二曲続けてお聴きください!」
ピアノ協奏曲第2番第1楽章 ラフマニノフ
トルコ行進曲 モーツァルト
MC10
「ラフマニノフと言えばピアノ協奏曲第2番!ってくらい有名な曲だよね。第1楽章はお兄さまが好きそうな曲調でさ」
「そうだな。確かに第1楽章は私の好む曲ではある。以前オーケストラと弾いた時は天にも昇るような心地だったな」
「その時のお兄さま、すっごくかっこよかったの!今回弾かなかったけど、第2番の第三楽章はファンファーレみたいで格好いいから僕はそっちの方が好きなんだけどね」
「そうだな。機会があれば第三楽章も披露してみよう」
「で、次の曲は、ピアノソロ曲なんだけど、無理やり連弾にしてもらったの」
「披露するたびにジャンのアレンジが酷いことになっている気がするのだがね。……皆様はどうお考えでしょうか」
(客席から拍手が沸き起こる)
「……成程、酷いという事ですね」
「違うよぉ、お兄さま!すごいってことでしょ!」
(客席から笑い声が上がる)
「さて、ジャン。次の曲で最後になるが、言い残したことは無いかね」
「お兄さま、それは悪役の台詞っぽいよ。最後の曲は僕とお兄さまが大好きな曲!ハチャトゥリアンの仮面舞踏会なの」
「仮面舞踏会のなかでも一番有名なワルツだな。華やかな曲で最後を飾るに相応しい」
「みんな、今日は此処まで聴いてくれてありがとう。次の公演はどこだっけ」
「薔薇の王国だ。輝石の国の公演はこれで最後の予定だが、国外公演が薔薇の王国含め、数か所程予定しているな」
「そう!久しぶりのお外だから楽しみ!本場の薔薇ジャムのロールケーキたくさん食べるんだぁ」
「お前は食べ物の事ばかりだな。……さて、皆さま。最後までお楽しみください」
組曲より「ワルツ」 ハチャトゥリアン
アンコール1
MC11
「皆さま、アンコールありがとうございます。此処まではクラシック音楽を奏でておりましたので、趣旨を少しばかり変え、映画音楽を弾かせていただきます」
「パイレーツ・オブ・カリビアンより、彼こそが海賊!聴いてねぇ!」
パイレーツオブカリビアンより「彼こそが海賊」
アンコール2
MC12
「みんなまだ聴きたいの?じゃあ、この曲やらないと僕たち帰れないね」
「こら、ジャン。舞台で走るんじゃない」
「でもみんなが待ってるんだもん。最後くらいはっちゃけて帰ろうよ、お兄さま」
「仕方ないな。皆様、お聴きください。ハチャトゥリアンで剣の舞です」
剣の舞 ハチャトゥリアン