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    吉良ボスです。めちゃくちゃ甘くなってしまった。
    急におセンチになってしまうよしかげと穏やかなボスのおはなし。
    捏造甚だしいので何でも許せる方向けです。

    #吉良ボス
    boss

    そろそろあいつが帰ってくる時間だ。
     くるる、と思いがけず可愛らしい音をならした腹を押さえつつ、ディアボロは顔を上げた。テレビ番組ではいつもの見慣れた顔の地方局のアナウンサーが天気予報を伝えている。日本語を学習中のこのイタリア人にはほとんど聞き取れなかったが、太陽のアイコンが並んでいるので明日も晴れるらしい。この時間帯は毎日の習慣で同じ番組の天気予報だけ見るようにしている。
     画面が小煩いCMに切り替わったのを見届けてから、こたつから立ち上がり、障子を開け、やけに広く長い武家屋敷の廊下(エンガワと言うらしい)に出て伸びをした。空が夕焼けに染まっている。長時間ノートパソコンの液晶画面を眺めていたため、夕日に眼球の奥がつきりと痛み、必要以上に長いまつ毛を瞬かせながら思わず目を細めた。
     綺麗な空だ。雲が複雑に形づくり、影を落とし空に燃えている。日本という国に興味はなかったが、故郷に負けないほどに緑は濃く、空は広く、移りゆく日々は美しかった。
     夕日を避けながらゆっくりとカーテンを閉めて歩く。この家は窓がやたらと多い造りになっている。日本の伝統的な家屋の造りはどれもそうなのだろうか。必要以上に人目を避けるディアボロには知る由もない。カーテンレールの甲高い音が広い屋敷に間抜けに響いた。
     
     ――あの呪われし荒木荘で、これ以上ない熱烈な愛の告白を受けいれ、逃げ出し、2人で吉良の家に転がり込んでからというものの、ディアボロのために開けられたカーテンを家主が帰ってくる前に閉めておくのはやがて習慣になったのだった。
     
     カーテンを掴む指の見慣れないきらめきに気がつき目をやると、綺麗に整えられた爪が夕日を反射しぴかぴかと光っている。昨日吉良が塗ってくれたばかりだ。夕方に夜を溶かしたような色。
    「珍しい色だろう?こんな色は僕の好みじゃなかったんだけどね、君に絶対に似合うと思って買ってきたんだよ。」
     帰ってくるや否や、うきうきとディアボロに丁寧に包装された小瓶を見せて熱っぽく語った。
     愛する存在にこんなことを言われて喜ばない人間はいないだろう。吉良は早々に食事と風呂を済ませると、やたらと時間をかけて丁寧にディアボロの指先を彩った。集中する横顔を素直に美しいと感じ、お礼にと痩けた頬にキスをすると、屈託なく笑い声を上げて猫のように擦り寄ってきた。いつもより柔らかい髪からは、同じシャンプーの香りがしていた。
     
     つやつやと光を反射しぷっくりと膨らんだ爪を眺めていると、自然と口角が上がる。褒められるのは慣れている。嫌いではない。それが本心から出た言葉であればだが。
     気難しい恋人は毎日のように大袈裟にディアボロを褒め、愛を囁き、蜂蜜のように甘やかし、そして時が来ると、情熱をぶつけるように自分本位にディアボロを殺した。
     全く狂った関係だ。世界中探してもこんな関係を保っている2人はいないだろう。
     ディアボロは愛することも、愛されるのも、あの小さな半身を喪ってからは慣れることが出来ず、この先も知ることはないと思っていたがこのちっぽけな日本人は違っていた。
     自分自身以外を信じることがない狂人同士が、一体どういう因果だろうか。
     
     玄関を横切ると、ふと家の外から聞きなれたエンジン音がした。砂利を弾く音。恋人は測ったように同じ時刻に帰ってくる。
    その音を聞いたと同時に、ディアボロはぐらりと目眩を感じ立ち止まった。急激に左右の視界が狭くなり、息が詰まる感じがして、頭の奥が酷く痛んだ。あぁ、また俺はアレに捕まるのか。せっかく爪を綺麗に塗ったばかりなのに。――いやだ、せめてもうすこし――――――
     急激に力が抜ける。視界にはノイズが走り、なにも見えなくなった。目を開けているのかどうかさえわからない。鍵が回り、玄関の扉が開く音と自分を呼ぶ声が聞こえたが、崩れるようにその場に倒れ込んだ。痛みも感じない。恋人が駆け寄る音が聞こえたが、ディアボロの意識はテレビを消したようにそこで途切れた。
     
     やがて真っ暗な世界から、先行して細い意識がゆっくりと浮上した。手のひらにじわじわと柔らかな温度を感じる。身体を抱えられているようだ。暖かい手が優しく髪をすく感触がして、小さく名前を呼ぶ声が聞こえてきた。血の通いはじめた重い瞼をあげると、見慣れた恋人の顔があった。
     目元が濡れている。充血し、瞳が左右に細かく揺れていた。空の青ではなく、海の青。深海に血を1滴垂らしたような美しいいろ。
    「おはよう、ディアボロ。」
    「……」
     ディアボロも恋人の名前を呼び返したかったが、甦った直後は身体が上手く動かない。吉良はかすかに動く唇を見て、表情を和らげると、語り始めた。
    「――母のことを思い出していたんだ。ずいぶん前の話だけど、僕が帰ってきたら、玄関で倒れていたんだよ。父が亡くなってから、母はずっと落ち込んでいたから、元気になってほしくて、贈り物をしたんだ。何を送ろうか、すごく考えたんだよ。
     母はすごく喜んでくれて、元気になったように見えた。とても誇らしくて嬉しかったんだ。それなのに、次の日には倒れてしまって……。母には複雑な感情はあるけど、やっぱり大きな存在だったんだよ。
    ――お前のすることは報われないんだって神様に言われた気がしてね。神様なんてこれっぽっちも信じていないけど、ひょっとしたらこのまま君も還ってこないんじゃないかって、すごく怖くなったんだ…」
     馬鹿だな。オレがお前を遺していなくなるわけが無いだろう。そう言いたかったが、舌がもつれ、まだ言葉を発することは出来なかった。意志を伝えるように力をこめて手を握り返すと、優しく握り返され、口元に導かれる。
     吉良は神聖なものに触れるように、手の甲にチュッと可愛い音を立てキスをし、頬を擦り寄せて、穏やかに笑ってみせた。
     爪の色が元に戻ってしまっている。あの小瓶の中身が無くなるまで、何度でも塗る必要があるとディアボロは考えていた。

    fin
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