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    さくや

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    さくや

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    ホムンクルス×研究者の🌟🎈作業進捗です。
    序盤のためほぼモブしか喋りません。
    推敲もしてません。

    電子回路、異常なし。関節の可動域、問題なし。身体の損傷チェック、問題なし。バッテリー準備オーケー。
    空のチェックボックスに印を素早くつけた後、机の上に鉛筆を放った。

    「いよいよ、か」

    閑散としただだっ広く冷たい部屋に、ぽつりと声がこだまする。
    緊張により震える指で頸にある電源ボタンを押せば、起動音がして、数秒あとには睫毛を震わせ、ゆっくりと瞼が開き琥珀色の瞳が現れ此方を捉えた。
    その様子に息を呑みながら込み上げてくる涙を抑え、まるで赤ちゃんに声をかける母親のように優しさを込めて挨拶をする。




    「おはよう、__くん。」



    _________________________

    2xx5年 5月17日 午後12時09分


    午前中の勤務時間が終わり、ランチタイムになるとカフェテリアに人がなだれ込むのが此処の日常だ。今日も今日とて白衣を着た連中やスーツを着た人たちが腹を満たそうと昼食に群がっていた。

    「相変わらずこの時間帯の此処は騒がしいなァ。どうにかなっちまいそうだ。」
    「仕方ないわよ、ここでしか食事がとれないんだし。それよりも早く座って頂戴。お腹減ってるのよ。」
    「わかったって、おい、蹴るなよ溢れるだろ」
    「早く座らないアンタが悪いのよ」
    険悪な雰囲気の男女が言い争いながらテーブル席へとやってくる。
    「まあまあ、スティーブもジェニファーもそうカッカしなさんな」
    「ちょっとリュカ、先に食べてるんじゃないわよ」
    「おっと、お次はこっちに標的が移ったか。まあそんな事はどうでもいいんだ。面白い噂話を手に入れたんだ。聞きたいか?」
    眼鏡を中指でくいっとあげ、痩躯の男は不敵に笑う。
    「どうせまた誰と誰がデキてるとかヤったらしいとかくだらないものだろ?まァ、この女の愚痴を永遠と聞くよりはマシか。」
    「なによ、アンタの昔の武勇伝を聞くよりよっぽどいいわ。」
    「なんだと!!」
    剛健な男が強かな女に向かって吼える。
    「ほらほら、そう大きな声出すなって。びっくりされるだろ。それに今回の話はスティーブが言うような内容じゃないさ。」
    「あら、珍しいわね。"自称"情報通のアンタが他人のくだらない色事以外のことを持ってくるなんて。」
    「ボクのことをそんな風に思ってたのかよ。まぁいい本題に入ろう。お前たち、カミシロってやつ知ってるかい?フルネームはカミシロルイで、ジャパンからきてる研究員さ。」
    剛健な男は腕を組んで考え込む。
    「カミシロ?誰だァ?そんなやつウチの研究所に居たかァ?」
    「えーと、確か3年前くらいにここの研究室に配属された人よね?ほら、配属されて少しした時に大きな噂になったじゃないの。」
    「あァー?どんな噂だったっけ?」
    痩躯の男は周りの様子を伺うようにキョロキョロした後声を潜めて話し始めた。
    「その、あんまり大きな声で言えないけど、えっと、ほら"あの所長"の愛人なんじゃないかって噂さ。」
    「あ、思い出したわ、確かにそんな話もあったなァ。最近は全然聞かない話だからすっかり忘れてたわァ。」
    「おい、もう少し小声で話せって!あと数週間でスッパリ噂が消えたのも、何らかの上の圧力で鎮火されたって噂もあるんだ。」
    「マジかよ、でも俺カミシロってやつの姿見たことねェわ。そもそも男か女なのかも知らねェし。ジャパンの男女の名前についての知識がねぇんだわ。」
    「ボクも分かんないね」
    剛健な男が背もたれにもたれかかり、痩躯の男が食べ終わった皿の上にフォークを置くと強かな女が口を開いた。
    「彼は男性よ。私、上司が休んでた時に何度か所長室まで手紙を届けに行ったことがあるの。大抵所長が不在で対応してくれたのが彼だったわ。すっかり噂が消えた後だったから話すの忘れてたけど。」
    「おいおい、そんな大事な情報を隠し持ってたなんて酷いじゃないか。それでどんなヤツだった?実はボクも見たことないんだ。」
    「すらっとした高身長で物腰が柔らかくて顔も整ってたるわよ。それにどこか色気があってミステリアスな雰囲気だったわ。少し日本訛りがある英語だったけど心地よい声をしていたわね。もし彼がこのカフェテリアに居ようものなら間違えなく女の子が放っておかないわ。」
    「まさにハイスペックってことかぁ。所長室にいたってことはやっぱりあの噂は本当だったのかな。」
    「多分、そうなのかもしれないわ。妻がいるのに美少年を侍らせてる好色家らしい所長の事だもの。って何よスティーブ、急に黙っちゃって。」
    「いや、そのォ。お前もそのカミシロみたいな人が良いのかなって」
    剛健な男が食べ終わった皿を見つめながらぼそっと言う。
    「まあアンタみたいな筋肉ダルマよりかはいいわよね、イケメンだし」
    「お、おう。そっかァ。」
    肩を落とす男に気付いていないのか、女は紅茶に口を付け中々美味しいわねと呟いた。
    「あ、あー、その本題へ戻ろう!件のカミシロの新しい噂についてだ!」
    「どうしたの?急に大声出しちゃって。まぁいいわ、続けて。」
    「彼、ホムンクルスの生成に成功したらしいんだ。」
    「それって本当?この研究所でも今まで何人もの研究者が生成に失敗しては廃棄してるって聞いたけど。」
    「それが本当らしいんだ。同僚が通りかかった時にたまたま少しドアが開いてて検査をしてるところを見たっていうんだ。」
    痩躯の男が食い気味に早口で話す。
    「でももしそれが本当ならとっくに噂が広がってるはずだけどなァ」
    「そうよ、その同僚が嘘をついてるんじゃないの?」
    「いやいや、ボクの情報を疑ってるのかい?」
    「だってソースが曖昧だもの。そんなの信じられないわよ。」
    女は紅茶が入ったティーカップを置き、端末で時刻を確認して昼休憩を終えようと立ち上がると、遠くでどよめく声が聞こえた。
    「どうしたのかしら、また実験動物が逃げ出したとか?」
    「いや、それなら瞬時にアナウンスがかかるだろ。何か事件が起こったのか?」
    だんだんと騒がしくなる声と、何かを捌けるように押し寄せてくる大衆の波に押されながら何とか直立していると、剛健な男が女の肩を支えた。
    「なんだ、」
    人より頭一つ背が高い隣にいる男がある方向を見つめて唖然としているが、身長が低い女には見えない。固まる男に軽くよじ登り、人垣を強引に突き破ると信じられないものが眼前に広がっていた。
    「あれは__」

    そこには前に見た時より少し髪が伸びた白衣姿の紫色の髪の青年と、白い服を着た金髪の青年がカフェテリアの席に座り食事をとっていた。手掴みで口に運ぼうとする金髪の青年に笑顔を綻ばせながらフォークの使い方を教え、口の周りを拭ってやっている紫の青年は唖然としている周囲の視線を意にも介さず、食事を続けている。大勢の人に囲まれながら優雅に食事を取る彼らは、自然光が差し込むのも相まって、まるでそこだけ絵画のような美しい非日常的な光景だった。
    しばらく誰もが時が止まったように彼らの様子を呆然と見つめていたが、無慈悲にも昼休憩の終わりを告げるチャイムがなった。みな抜け落ちた魂が戻ったかのようにいそいそと食器を片付け始め、止まっていた時間が動き出した。
    会衆が蜘蛛の子が散るように仕事場に戻っても、女は暫くそこから目が離せなかった。
    「お、おい。いい加減俺から降りてくれないかァ」
    男にそう言われてやっと我に帰る。
    「ぁ、ええ、すまないわね」
    「心ここに在らずって感じだけどどうかした?」
    「大丈夫よ。ただ、」
    「ただ?」
    いつも少し触れただけで崩れてしまいそうな、淋しそうな顔をしてたからそんな顔も出来るのね、と思って。
    「いいえ、何でもないわ。早く仕事に戻らないと!リュカ、アンタ先輩の研究を手伝ってるんでしょ。」
    「あっ!そうだった!お先失礼するね」
    そういって痩躯の男は慌ててバタバタと走っていった。
    「ほら、アンタもいくわよ。」
    待ってくれよォ、とのたまう男を無視してつかつかと仕事場に戻る女の表情は優しかった。
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