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    さくや

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    さくや

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    太古に書いてたやつ

    ボーイミーツエンジェル1.青

    果てしなく広がる青い空、太陽が燦々と輝く文句のつけようのない晴天。心地の良い風が全身を撫でていき、小高いところに建っているためまるでミニチュアのような街を見渡せるこの場所、病院の屋上が司のお気に入りの場所だ。
    病気のせいでこの病院に入院している妹の咲希のお見舞いのあと、この場所に来て街を見下ろし、まるで世界を掌握したような気分になるのが好きだった。閉鎖されている訳ではないが、一際風が強いためこの場所にいるのは大体司だけだった。
    今日も咲希に漫画や自由帳を届けにいって散々笑い合ったあと、この場所を訪れていた。
    屋上の扉は、強風のせいで開けるのに苦労するのだが、今日はいつもより風が強いのか扉が中々開かなかった。
    ふんっと体全体を使ってドアノブを引っ張るとやっと固く閉ざされていた扉が開いた。
    「っいてて…」
    扉が空いた反動で尻餅をついてしまった。風のせいでドアは開きっぱなしになって司を拒むようにひっきりなしに風が吹き込んでくる。
    その風に抵抗するように未だ天井に向いている体を起こし、扉の内側に入り俯いていた顔をあげるとそこには息を呑む光景が広がっていた。
    1人の青年が柵を乗り越えて建物の端っこに立っていたのだ。風に煽られて髪の毛は揺れているのに身体はびくともしない。
    凛と背筋を伸ばし青空をただ眺めている。
    「天使だ」
    気がついたらそう呟いていた。
    青年の着ている服は患者衣と呼ばれるもので青く、髪も紫色に空色のメッシュと絵本の中の真っ白な天使とはほど遠い筈なのになぜかその青年は天使である思った。
    一際強い風が吹きバタン、と扉が閉まる音がすると共に天使の視線がこちらに向いた、と同時にふらりと彼の身体が傾いた。
    危ない!司は分け目も振らず天使の元へ走った。
    間一髪、彼は柵を片手で掴んでいたので落ちることはなかったが司は柵にかけられた彼の手首をぎゅっと両手で握っていた。触れた手は細く、血が通ってないのかというほど白く冷たかった。
    「おや、僕を助けようとしてくれたのかい」
    突然声をかけられたことにびっくりして、つい手首から手を離すと彼が柵を乗り越えこちら側に着地する。
    「うん、天使さまが無事でよかった」
    「天使さま?もしかして僕のことかい」
    思わず口に出してしまったことが恥ずかしくて赤くなった顔のまま頷いた。
    「ふふ、そうかい、でも残念ながら僕は一応キミと同じ人間さ。類って名前がある。君は?」
    「オレは天馬司です。」
    「司くんか、よろしくね」
    そういうと微笑み手を差し伸べてくる。それにおずおずと手を重ねる。その手はやはり冷たかった。
    「類はここで何してたの」
    そう聞くと類はなぜか少し悲しそうな顔をしたあとすぐ取り繕うように笑顔に戻った。
    「空を見てたんだ」
    「柵の内側でも見れると思うけど、どうしてあんなに危ない場所にいたの?」
    「もっと近くで見られるかなって思ってね、でもそんなことはなかったよ、落ちるって思ったときは流石に怖かったかな」
    さっきの光景を思い出してしまい患者衣の袖をぎゅっと握る。すると頭にぽすんと類の掌がのり、優しく司の髪を撫でた。
    「ごめんね、キミにそんな顔をさせたい訳じゃなかったんだ。もう危ないことはしないと約束しよう」
    溢れ出てくる涙を親指で優しく拭って抱きしめてくれると金木犀の香りがふわりと顔前に広がった。香りと、少し冷たい体温に安心感を覚えて心地が良かった。
    一通り泣き終わったあと辺りを見渡すと街はもう茜色に染まりかけていた。
    「そろそろ帰らないと家族を心配させてしまうね」
    離れていく温度になんだか寂しさを覚えて不安が胸を満たす。
    「また会える?」
    震えた声でおずおずと尋ねる。
    「キミがまた此処に来てくれるならね、今度は泣き顔じゃなくて笑顔を見せてほしいな」
    「必ずまた来るよ!」
    「うん、待ってるね」
    最後にもう一回頭を撫でてじゃあね、と手を振ってくれる。それに元気よく振りかえし、帰路につくべく急いで階段を駆け降りた。
    外に出て振り返り、屋上を見ると類は病室に戻ったのかそこにはもういなかった。


    _________________________

    その日から咲希のお見舞いの後、類と一緒に過ごすということが司のルーティンに加わった。咲希のお見舞いに行く日は週に3、4日程度で今日はその日だ。季節は移り変わって夏、帰りの会が終わると急いで昇降口まで走り、校門を抜け、汗が滴るのを無視して病院まで直走った。
    かたかたとランドセルから教科書やノートがぶつかる音がする。背中の重さを感じないほど司は病院に行くのが毎回毎回楽しみで仕方なかった。今までは別れ際、寂しそうな咲希の顔を見るのが心苦しくて病院に向かう足が重かったが類が待っていると思うと自然と足取りも軽くなる。
    そんなことを考えていると目的地についた。
    エレベーターで病棟がある階まで上がり、顔馴染みの看護師に挨拶をして咲希の元へ向かう。
    学校であったことを話したり、絵本を一緒に読んだりしているとあっという間に面会終了時間が来てしまった。
    咲希はとある難病を抱えていて疲れさせることはあまり良くないため、面会時間が定められているのだ。
    やはり寂しそうに笑う咲希に心を痛めながら病室を後にし、約束の屋上に向かった。
    階段を駆け上がり、屋上へとつながるドアを開けるといつもどおり空を見上げている類がいた。柵の内側にいるということに安堵して、類に声をかけた。
    「類!」
    「司くん、今日も来てくれたんだ」
    類は柵にもたれかかっていた身体を起こした。
    「類と会えるのを楽しみにしてるんだ」
    「それは嬉しいね、僕も司くんといるの楽しいよ」
    そういうと類は司の頭を撫でてくれた。ついつい目をつむって擦り寄ってしまう。類の手は優しくて心地よいのだ。
    「今日は類に見てもらいたいものがあるんだ!」
    「へぇ、なんだい?」
    「妹の咲希を笑顔にするべくショーというものを考えてきたんだが、練習として類に見てもらいたいんだ!」
    「へぇ、ショーか。いいね、僕でよければぜひ見せてくれないかい」
    「本当か!では終わった後にアドバイスをしてくれると助かる」
    類は背中を柵にもたれさせ三角座りをした。
    「ではいくぞ、ある日…」
    昨日ベッドの中で考えていた喜劇を類の前で演じた。
    時々類が笑い声を溢してくれるのに嬉しくなりながら、最後にめでたしめでたしと締めると、笑顔で拍手をしてくれた。
    「ど、どうだったか?」
    「司くんらしさが出ていてとても面白かったよ、これなら妹くんも笑顔になってくれるはずさ」
    「本当か!」
    「うん、僕が保証するよ」
    そういって頭を撫でてくれる。
    「咲希に披露するのが待ち遠しいな、類も笑顔になってくれたし、スターの道へまた一歩近づけたな!」
    「スター?」
    「あぁ、世界中の人を笑顔にするのがオレの夢なんだ」
    類は一瞬目を丸くした後、すぐに破顔した。
    「キミならきっとなれるさ」
    夕日に照らされた類の柔らかい笑顔は今まで見た中で一番綺麗だった。意識した途端、じわじわと体温が上昇して心臓の鼓動が頭に響く。
    全身が熱い、鼓動が早い。今まで経験したことのない感覚に戸惑ってしまう。
    「司くん?」
    固まる司を不思議に思ったのか、類が心配そうにこちらを見てくる。
    「大丈夫かい?」
    立ち上がって司の前まで来ると顔の位置が同じ高さになるようにしゃがみ込んだ。
    ふわりと香る金木犀の香りが益々類の存在を知らしめて頭がくらくらする。
    「暑さにやられて体調が悪くなったのかな」
    そう言うと類は司の髪をかき上げておでこを近づけてくる。拒否をしようとするが体が動かない。
    ぴとりと司の額に類の額がくっつけられる。
    目の前に類の長いまつ毛が見える、それからすっと通った鼻筋、それから___何か柔らかいものが唇に触れている。
    「え、」という短い声と共にそれは離れていった。
    目の前には驚いた顔の類がいる。オレは今、何をしたのだろうか。唇と唇をくっつける。咲希が読んでいた漫画の中にそんな絵があったような。あれは確か恋愛を題材にした少女漫画だった筈だ。急浮上してきた感情の名前にさらに鼓動が早まってくる。
    喉を掻き毟りたくなるようなもどかしさと、泣き出したくなるような切なさが体を走る。思えば空を見上げていたあの姿に一目惚れをしていたのかもしれない。
    「好きだ」
    喉をついて出たその言葉は酷く掠れていた。
    遠くで鳴く烏の声がやけに頭に響く。
    類は一瞬目を見開くと、直ぐに笑顔になり笑い声を上げて笑い出した。
    「なっ!笑うところじゃないぞ!オレは本気だ!」
    笑われてしまったショックで声が裏返ってしまった。
    「ふふ、いじけないでおくれよ」
    笑いながら類は司の膨らんだほっぺをつつく。
    「キミがあまりに真剣だからおかしくって」
    「やっぱり揶揄っているじゃないか!」
    「そうじゃなくて、嬉しかったのさ」
    類はそう言うと照れたように目を伏せた。
    「そ、それって」
    「僕も司くんのこと好きだよ」
    「じゃあ、オレとお、おつきあい?してくれるか」
    少女漫画で得たうろ覚えの知識をフルに活用して言葉を紡ぎだす。
    すると類の表情が少し翳ったが直ぐに笑顔に戻った。
    「それはできない、ごめんね。キミはとてもかっこ良くていい子だから、僕なんかじゃなくていずれ素敵な女性を見つけて幸せになるべきなんだよ。」
    自嘲気味に類は笑う。そんなのあんまりだ。
    「で、でも!オレは類と一緒に居たい、これからもずっと!」
    「ずっと、か、僕は幸せ者だなぁ。じゃあもし、司くんが大きくなってもまだ僕のことが好きだったら、僕のこと迎えにきてよ」
    「ああ、必ず迎えに行くよ!約束だ」
    小指同士を絡めあって誓う。
    夕暮れの空の下顔を染めてけらけら笑う2人の笑い声が響いた、瞬間忙しなく鳴り出す何かがそれを掻き消していく。
    今まで居たはずの茜色の屋上がだんだんと遠くなり、見えなくなっていく。まだここに居たいのに、類の側に居たいのに
    その思いは虚しく司の世界はどろりとした暗闇に溶け、意識が真っ白に染まった。

    2.白


    夢と現があやふやになった境界線から浮上するように重い瞼を押し上げると、いつもの天井が見えた。間違えなく司の部屋だ。鳴き続ける目覚まし時計を手探りで探し当て止める。ようやく部屋が静かになると、深く息を吐いた。
    懐かしい夢を見た。正確にいうと夢じゃなくて昔の記憶だ。未だに冷たい手の感触が残る頭に手を伸ばす。
    たしか彼の手の大きさもこのくらいだった気がする。
    そう思うと自分も随分とあの頃から身体的に成長したのだと感じる。大切な記憶だった筈なのにどうして今まで忘れていたのだろう。釈然としない感傷と幼い恋情に浸っているとばたばたとけたたましい足音が近づいてきて、部屋の扉が荒々しく開けられた。
    「お兄ちゃん!いつまで寝てるの、遅刻するよ!」
    「咲希、」
    さっきまで見ていた小さい咲希とのギャップで言葉が詰まってしまう。
    「お兄ちゃんどうしたの?体調でも悪い?」
    「いや、大丈夫だ」
    これ以上咲希に心配かけまいとベッドから降りながら時計を確認すると、いつもは学校に着いているはずの時刻だった。
    「ま、まずい!急がなければ!」
    冷やりとした汗が背中をつたうのを感じながら階段を駆け下りる。
    急いで制服に着替え、髪型を整えたあと朝ご飯を食べることなく家を飛び出した。
    学校に着いた頃には授業開始を告げるチャイムが鳴っていた。
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