ひなまつり 雛祭りって俺達男には関係ないって思ってる。実際、女の子の健やかな成長と健康を願うお祭りらしいからほんとに関係ないし。でも何故か大石の機嫌が朝から良かった。自分じゃなくて妹のお祝いすることがそんなに嬉しいの?俺の家もねーちゃん達が居るからお祝いするかもだけど、嬉しいとかそういう感情には全然なれなかった。
「ねー、おーいし、なんで今日そんなに嬉しそうなワケ?」
「え?そんなふうにみえるかい?」
気になって聞いてみたけど、終始ソワソワ、ニヤニヤしているだけで教えてくれなかった。
「あっそ。」
「気になるのかい?英二。」
髪型は置いといて、いつもは頭もいいしテニスも上手いしかっこいいダブルスパートナーって思ってたけど、今日だけは正直ちょっとおかしい。しつこくもっと聞いて欲しいって感じだったから聞いてあげた。
「そりゃ、そんなにニヤ…ソワソワされたら気になるっしょ。」
すると流暢に話し始めた。
「なんたって今日は雛祭りだからな!雛祭りって言ったら女の子のお祝いの日だけど、うちには妹が居るからお母さんが雛あられやひし餅、ちらし寿司とか、なんたって蛤のお吸い物を用意してくれるんだ!」
あー。納得。
「おーいし、蛤のお吸い物好きだもんね。」
大石が目をキラキラさせて「そうなんだよ!」って嬉しそうに言うから俺にも少し嬉しい気持ちが移った。
今日の部活は、大石は絶好調すぎていた。俺もチョコレーツのライブの前は部活も勉強もなんでも頑張れるからそれと同じ原理なんだろうって思った。大石にとっての"推し"は蛤のお吸い物???
家に帰るとうちも蛤のお吸い物が夕飯にあった。大石が好きなこの汁?はどんな味なんだろ?って思って意識して味わってみたけど、よく分からなかった。不味くは無いけど特別好きという感じでもなかった。ちらし寿司のいくらの方が美味しいしとか思いつつ大石は大人なんだなあって思ってちらし寿司のいくらを食べた。
俺も蛤のお吸い物作れたら大石喜んでくれるかな…?
「かーちゃん!俺にもこれの作り方教えて!」