蟻の恩返し 豊松丸はじっと地面を見つめておりました。そこは小笠原館の薪小屋の前の、日陰も無い場所です。
豊松丸が熱心に見つめていたのは地面を這う蟻でした。無数に蠢く黒々とした蟻を、豊松丸は大きな目でじっと見ているのです。蟻たちは死んだ虫に集って、巣との往復を繰り返していました。蟻は規則的に動くこともあれば、急に動きを止めてみたり、数が多くなれば出会い頭にぶつかることもありましたから、そんな蟻たちの動きを豊松丸は飽きることなく見ていました。
すると行列から外れたところいる蟻に気付きました。その蟻は一匹で、あまり動こうとしません。豊松丸はその蟻の前まで移動すると、目を見開きました。どうやら蟻は弱っているようです。
2467