審神者歴2ヶ月の生理事件審神者になってから2か月目の朝。
なんだか嫌な予感がして目が覚める。
お腹が痛い。
それにこの感覚…。
まさかと思って布団を捲ると、思っていた通り赤い染みがあった。
やってしまった。
状況を理解するのに時間はかからなかった。
そういえば前回来たのっていつだっけ…。
あの時はお母さんに笑いながら話したな…。
そんなことを考えていると廊下を走る音がしてきた。
「あるじさま!もうあさですよ!まったくいつまでねてるんですか!」
ぼくがいないとだめなんですから!という声と共に襖が開く。
そこに居たのは私の初鍛刀である今剣だった。
「お、おはよう。今剣…。ごめんちょっと先行っててもらっても大丈夫かな…。」
誤魔化せるなんて思ってない。
なぜなら私は布団を捲ったままだったから。
襖からでも布団に付いた赤い染みは見えていただろう。
でも、それでも、隠したかった。
恥ずかしかったから。
優しい彼らがそれを見逃すはずもないのに。
「ど、どうしたんですか!?あるじさま!ちが!けがしたんですか!?すぐにやげんを_」
「待って!!」
大きな声が響く。
声に気付いたのか、今剣が遅いからか、部屋に近づく足音が聞こえてきた。
「待って…違うの…。怪我なんかじゃないの…。寝てたら治るから…。大丈夫だよ…。大きな声出してごめんね。だから先に_」
「朝からなんの騒ぎ〜?俺と安定の部屋まで声聞こえてビックリしちゃった。」
待って、この声…。
姿を現したのは加州清光。
私の初期刀で私の好きなひと。
「なんだ。主起きてるんじゃ…ん………。って何その血!!どうしたの!?それ!!」
「あ、えっと、これは……」
「今剣すぐ薬研呼んできて!」
「いわれなくてもわかってますよ!すぐつれてきますね!」
「あっ………」
待って待って待ってよ。
清光に生理で布団汚しちゃったことバレた。
恥ずかしくて、顔が、目尻が、どんどん熱くなるのがわかる。
涙が出そうになる。
泣きそうな私を心配して清光は隣で声をかけてくれる。
それが余計に辛くて耐えられなかった。
「大将!」
「や…げん…」
今剣が呼んできたのだろう。
どう伝えたんだろうか。
薬研の他にも粟田口や三条のみんなもいる。
もう布団は元に戻しているから見えないはずだけど。
"血が出ていたこと"は伝わってしまっているようだった。
薬研は部屋に来て私を見たらなんとなく察したのか、他のみんなを部屋から出してくれた。
「大将…大丈夫か…?」
「生理…だったの……ただの生理……。大袈裟に伝わっちゃったみたいだね。ごめん。」
笑って答えたつもりだったけど、多分上手く笑えてなかったんだろうな。
薬研は優しい顔で応えてくれた。
「あぁ、月のものか。安心しな。痛み止めは持ってきてる。なにか血を止めるものは持ってるか?」
「ない…審神者になってから初めてなの…生理くるの…。どこに売ってるのかもわかんないし汚した布団とか服とかどうしたらいいかわかんない…。」
分からない。分からないんだ。なにも。
そう言って笑うと薬研は困ったような怒ったような顔をした。
あぁ、怒らせてしまった。
私が無知な子供だったから。
「ごめん……。」
「ん?あぁ、大将に怒った訳じゃねぇよ。ちょっと政府にな。」
「?」
「まぁ気にすんな。じゃあ血を止めるものは用意しとくよ。とりあえず痛み止め飲んで寝てな。歌仙の旦那と燭台切の旦那に頼んでお腹に優しいもの作ってもらうから。」
そう言うと薬研は薬と水を置いて出ていってしまった。
あんなに恥ずかしかったのに、出ていって欲しかったのに、一人になると途端に寂しくて仕方がなかった。
ぼーっとしているとまたお腹が痛くなってきた。
薬研のくれた薬を飲んで横になる。
下着にも服にも布団にも血が付いているせいで、ものすごく変な感じがする。
「………情けないなぁ。」
独り言が部屋に響く。
薬研が説明してくれたのか、あの後部屋に入ってくる子はいなかった。
横になっているとだんだん瞼が落ちてきて、気付くと意識が無くなっていた。
目が覚めると枕元に雑炊と新しい薬、それからナプキンが置いてあった。
え!なんで!?どこから!?
という疑問は浮かんだもののとりあえず着替えようと重い身体を起こす。
「うわ……思ってたより血まみれだな……。」
歌仙に怒られちゃうかな…なんて、心配をしながら新しい服に着替える。
着物を着るのにも慣れたものだ。
ふと時計を見るともう12時を示していた。
雑炊は食べたもののお腹は空いたまま。
時間も時間だし大広間に行こうと襖を開けた時だった。
「主…大丈夫…?」
清光だ。
「え、あ、清光…。もう大丈夫…。」
「………」
「………」
「「ごめん!え、」」
声が重なる。
「あ〜……主から良いよ。」
「え…あ…じゃあ…えっと……朝変な態度でごめん…。」
「俺こそ…ごめんね。気付いてあげらんなくて。あのあと薬研から聞いた。俺いたの嫌だったよね。」
「そ、そんなことない!」
「そんなことないよ…。清光居てくれて嬉しかった。心配してくれたの嬉しかった。でもそれ以上に恥ずかしかったの…。自己管理できてなくて…。」
「実はね、本丸に来てから生理になってなくて。ここ、神気で溢れてるでしょ?だから、生理来ないものなのかなって、勝手に思ってたの。でもそうじゃなかったし、対応もわかんなくて無知だった自分が恥ずかしくて……。それで………。」
言葉にしてたら恥ずかしくて悲しくて涙が出てきて。
上手く言葉にできてる自信もないし、聞き苦しいだろうな…と思うが、涙が止まらない。
どうしよう…どうしよう……
ぎゅっ
「……清光…?」
「主なんも悪くないから大丈夫だよ。そりゃ不安だよね。知らないとこで知らない神様と歴史守る、なんて。ごめん。支えきれてなかったね。俺初期刀なのに。」
そう言って抱きしめながら頭を撫でてくれる。
もう何も言葉が出なかった。
涙が止まらなかった。
しばらく泣いてようやく涙が止まった時に色々話をされた。
女性の審神者は就任したての時に生理不順が起きやすいこと。
本来初期刀や初鍛刀には生理についての説明があること。
その他女性ならではの問題について政府が伝えておくはずだったこと。
そしてこれらの事がなぜか私の本丸には伝えられていなかったこと。
薬研が怒りながら出ていったあとにこんのすけに問いただしたそうだ。
本丸にいる刀剣男士全員に説明した後、生理用品を支給してくれたという。
また、今後定期的に送ってくれることも約束させたそうだった。
薬研すごい。
(あとから聞いた話歌仙もものすごい勢いでこんのすけに怒っていたらしい。)
その後、薬のおかげて痛みもなく、清光のおかげで精神的にも落ち着いた私は大広間へ向かった。
入るや否や短刀たちに抱きつかれ、こんのすけには延々と謝られ、夕餉は生理の時に摂取するといいビタミンなんかが沢山取れる献立になっていた。
混乱しているうちに就寝時間になり、あれよあれよと自室へ送り届けられた。
「ねぇ、主。」
部屋に戻ると清光に声をかけられる。
「主が苦しんでたのに俺、なんも出来なかった。俺今回のことでちゃんと勉強したからさ、いつ主がこうなっても対応出来る。
だから…」
そこまで言うと清光は黙ってしまった。
なんだろう…と次の言葉を待つ。
「だからさ、ずっと俺を傍においてよ。俺絶対折れずに主のこと守るし、助ける。
だから、お願い。」
清光は真っ直ぐ私の目を見て言った。
プロポーズみたいな言葉に固まる。
そんなの、そんなの、
「狡い………。そんなの断れない……。」
「ありがとう。清光。こちらこそお願い。私の傍でこれからも私と一緒にいて下さい。」