老媼藤の家を実弥がそろそろ出立かという時に、血相を変えて尋ねに来た人がいる。これは鬼の話かもしれないと血を吐くように相談しはじめたのが始まりだった。まず彼はあやしい出来事を町の交番の巡査に相談したところ、巡査は話を聞いて青褪めてぶるぶるしている。話にならないので藤の家に来た。
話はこうだ。驚風を病んだ子を看る灯明りに鳥の影が素早く往復する。その鳥の飛ぶのが早いと子供の息が切迫し、やがて熱が高じて終いには死んでしまう。その後に嘆きや葬式準備で目を離していると、遺骸が消えて産着が衣類だけになっている。そういうあやしいことがずっと続いているという話を聞いた。
「そいつァ鬼だな」
「来て下さい」
若い父親が掴んだ手は力強かった。実弥は引かれるようにしてその家に着くと、なぜか既に悲鳴嶼がいた。他の町内の者もいて、すこしおかしくなった女がげらげら笑って、ざまを見ろ!!おまえがうちの子の消えたのを婦人会で嗤ったからだ!!と笑う。
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