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    ※女体化※
    ※ライだけが男のウイスキートリオです※

    R18は明日中に…!!

    気付きの話。「なあ、ライってバーボンの事どう思ってんの?」
    「……なんだ、藪から棒に……」
    「いやあ、どう思ってんのかなあって。ただのオレの好 奇心みたいなもんだよ」
     ……どんな好奇心だ。その言葉を飲み込みながらひとつ溜息を吐き出す。俺の次の言葉を唇に弧を描いて楽しそうに待つ男を一瞥してから再度溜息。「そんなに溜息吐き出すなよ、幸せが逃げるぞー?」
    「……うるさいぞ、こんな所に居る時点で幸せなんても のは無いなんてお前だって分かってるだろ」
    「あははっ!そうだな~……幸せ、って難しいよなあ」
     あっけらかんとしている。何でもないただの待機時間の雑談だ、話の中に出てきたバーボンは今現在は女狐に連れられてどこかに行っている、……どうせろくでもない買い物に付き合わされているんだろうと考えつくが……その中で暇つぶしに、目の前の…スコッチが買ってきた酒をふたりで適当に煽っている最中、と。
    「だぁってさあ、ライ、こんな魅力的な女が居て靡きやしない」
    「ただの仕事仲間だろ、それに俺は最初物凄く反対したんだ。男の俺と、女ふたりで組めなんてバカな話があるか」
    「あ~そう言う所、育ちが良いのが出ちゃってるんだよ なあライはさあ~」
    「……」
    「怒るなよライ、……オレはそう言う、女だから何して も良いだろって手を出してこないお前の事気に入って るんだよ」
     ちゃぷ、と残りの少ない酒瓶を揺らして笑うスコッチを見て今度は溜息ではなく舌打ちが出た。それにすら笑うこいつの事は嫌いじゃない、男だの女だの、そう言った垣根はないだろうとさっぱり言える所。……だからこそ最初の質問の意図が読めずに居る。
    『バーボンの事、どう思ってんの?』
     ……どう、とは。
     仕事仲間、以外に何があると言うのか。男だ女だ関係ないと言う癖にどんな答えを俺に求めているんだこいつは…と考えていれば、がちゃ、と扉が開いた。
    「あ、おかえり~」
    「ただいま、……なんです、酒盛り中?」
    「そうそう、あ、バーボンも飲む?」
    「飲む」
     けらけらと良い感じに酔いの回ったらしいスコッチは機嫌良く帰宅したばかりのバーボンに声をかけた。一方のバーボンはちらりと俺の方を見ただけで一切声をかけず脱衣所へ消えていった。「あーあ、ありゃあ機嫌良くないぞ」
    「……ホォー……、分かるものなのか」
    「酒に誘って迷いも無く答えるって事はなかなか振り回された、って事だよ」
     ソファから立ち上がって冷蔵庫から缶ビールだの缶チューハイだの、酒瓶だのを抱えて戻ってきた。……そこまで行くならつまみのひとつでも持ってこないか、いや良いかもう別に俺が取りに行けば。
     スコッチと入れ違いにソファから立ち上がって、殺風景過ぎるキッチンへと足を向ける、……殺風景と思うがスコッチやバーボンがいつの間にか揃えたらしい諸々が並んで居るのを見るに最初の頃の殺風景さからは少しかけ離れたものになったな、と少し感慨深くなった。建付けの悪い棚を開けようとした所で脱衣所の扉が開く、……危ない。勢いよく開けていれば肘が当たる所だった。少しの間。視線が交わった、じっと俺の方を見るバーボンのブルーグレーの瞳に自分が映っているのが分かる、……良く見なくてもこいつ、目でかいな。
    「なんですか、僕の顔に何かついてます?」
    「……何も」
    「女性の顔を不躾に見るのは関心しませんね」
    「……お前だって見てただろ……」
    「それはお前が見てくるからだろ!」
    「あーあーあー、ほらバーボン、こっち」
     なるほど確かに。
     これはなかなかに機嫌が悪いと見える。口喧嘩を吹っ掛けてくるのは日常茶飯事だが、原因のない喧嘩は流石のバーボンも吹っ掛けてくる事はない。……だが、今回に限ってはただ視線が合っただけでこれだ。スコッチが言う様に相当機嫌が悪い……いや、虫の居所が悪いとでも言うのか……適当に棚の中にあるつまみを数個、どうせつまむのはスコッチだろうと賞味期限だとかも見ずに掴んでひとり用(お前はここ、とバーボンに言われた)ソファへ腰を落ち着けてから空になった酒瓶や缶の転がるテーブルへ投げた。
    「ちょっと、危ないだろ中身入ってるやつに当たったらどうするんだ」
    「当たらねえ様にやってるよ」
    「あ、オレこれ好きなんだよ分かってるね~」
     袋の中からビーフジャーキーをふたつ。ひとつは隣に座っているバーボンの口に押し込んでいるのを横目にぬるくなった酒瓶を煽った。
    「今日は疲れただろバーボン、どこ連れてってもらったんだ?」
    「色々だよ、本当に色々。服屋さんだけで何件回ったんだろう。靴屋さんも……あとランジェリーショップにも行った」
    「へえ、可愛い下着とか買った?」
    「……僕はいらないって言ったんだけどベルモットが何着かは持っておきなさいって。ベッドに入った時の正装よって言うから……」
    「可愛いの買ったんだ?えーあとで見せてよ」
    「見せ、……見、…良いけど…」
     割と広めのソファで肩がくっつくほど近くでお決まりの会話で盛り上がるのをBGMにして酒瓶を空けた。空になった酒瓶を寄せてからスコッチの持ってきていた酒瓶を手に、……瓶オープナーを探す。さっきまでそこにあったはずなのに、少しだけテーブルの上を探していれば視界の端から瓶オープナーが顔を見せる。
    「これでしょ、探しているの」
    「……ああ、…ありがとう」
    「ふふん、」
     受け取ればどこか満足そうなバーボンが居た、何がそんなに機嫌が良いのか分からない。酒が入って機嫌が直ったのか……そうならそうで助かるな、無駄に突っかかって来ないのは。なんて、ぼんやりと考えながら瓶を開けて口をつける。しばらくお決まりのキャッキャとした会話をしているのを聞いて時計を見る、……良い時間になり始めた。いや、最初から良い時間だったが。
    「でも服かあ、最近買ってないなあ」
    「ははっ、今度ベルに連れてってもらったら?」
    「でもオレにつとまるかな~?」
    「大丈夫だよ、スコッチなら」
    「そう?……ライも上手くやりそうだよな」
    「……あ?」
     急に話を振られて驚いた。
     当然、スコッチとバーボンの視線が俺に向く。
    「知らん」
    「ははっ、ライは上手くやらなくてもやらされる方?」
    「……お前な」
    「怒るなって、……あー、そろそろ寝よっかなあ」
     座ったまま伸びをして欠伸をひとつ、バーボンを酒に誘ったのはお前だろうがと言う言葉は多分こいつには関係ないだろうと言うのはきっと、俺だけじゃなくてバーボンも分かっている。『おやすみ~』なんて軽快に片手を振って自室にしている部屋へ消えていく。

     ……、数分。
     静かな時間が流れた。お互いに言葉を発さず、ただ静かな時間だけが流れていく。……俺も寝るか、残りの酒だけは飲み干してから……いや、煙草も一本吸いたい。
    「……ライは」
    「……うん?」
    「女性の買い物とかに、着いていく事ってあるんですか?」
    「……そう言う事になれば着いていく事もあるだろうな」
    「……そうですか」
     再び無言の時間が流れる。会話が続かない、俺とバーボンの会話の潤滑剤はスコッチなのだと嫌でも思い知らされる。そもそも喧嘩を吹っ掛けてくる時はあれだけ饒舌に俺を責め立てる癖にただの雑談となるとこれだ。俺から話しかける事がないのも問題だと言われてしまえばそれまでなのだが……。「……あなた、荷物を持たせても文句ひとつも言わなさそう」
    「さあ……、俺の腕が千切れない程度なら言わないかもしれんな」
    「ふ、……お優しい事で」
    「そうでもない、……何をそんなに買うものがあるんだと思うだろうし、それを口に出す」
    「出すのは良くないですね?女性の買い物は楽しい時間なんですよ」
    「見ていれば分かるが、そんなに一気に買い込むものなのか?」
    「それは……人、によるでしょうけど……」
    「なら、お前はどうなんだ。お前は一気に服や、下着を買い込むか?」
    「へ、」
     ただ、純粋な疑問だった。驚いた顔、いつもよりひとまわり大きく開かれた瞳を見て『しまった』と思ってももう遅い。手にしていた缶ビールに視線が落とされるのを見て、今日一気買いに付き合ったバーボンにこの質問はないだろう。それに、俺たちと組む様になってから買い物なんてきっとろくに行けていないだろうに。
    「悪い、…忘れ、」
    「……僕、…は、あまり…一気には…買わない……」
    「……そうなのか」
    「…買わない、…ので、ひとりで持てるし、ひとりで行きます…」
     段々と語尾が小さくなっていく。視線も相変わらず下がったままでこちらを見ようとはしなかった。こう言う時なんと言うのが正しいのか、……答えは出ているが俺の事を毛嫌いしているこいつにそれを言って正しいのかが分からない。実際これが正解なのかも分かりはしない。
    「……今日の買い物でお前はたくさんの買い物袋を持って帰ってきたのか?」
    「そうですよ、…まあ、たくさんと言ってもそんなに多くはきっと無いんでしょうけど……」
    「そうか、……持つのが大変なら次がある時、連絡しろ」
    「え?」
    「迎えにくらいは行く、……ジンの奴に呼び出されてなければだが」
    「……ふふっ、やっぱりあなた、人の好さ滲んでますよ」
    「……、スコッチにも似たような事を言われたな…」
     スコッチに?とでも言いたげな目で俺を見る。ようやく俺を見たな、……視線が合う。不思議そうに向けられたブルーグレーを見て喉が鳴った。「……スコッチが、あなたにそんな事を?」
    「ああ、…育ちの良さが云々」
    「あははっ、確かに各所に出てるよなあ、あなた」
    「……お前たちも似た様なもんだろ」
    「あなたの場合は、人殺しみたいな顔してるのに、って言うのも付け加わるんですよ」
     笑顔が戻った。それだけで良い、笑った顔を見て少しほっとする。あんな顔のまま帰したら同室にしているスコッチに何を言われるか分からない、残りの少ない酒瓶を傾けて空にした。時間は既に日付を跨いでいる、……どこか機嫌が戻ったらしいバーボンの残り次第で寝るのを進めるか?
    「ライ」
    「……ん?」
    「……もう寝る?」
    「ああ……、まあ、特にやる事もないだろうし」
    「…なら買い物した袋持ってください」
     悪戯っ子の様に笑った。さっきの俺の言葉を言っているんだろう、…残りを煽って伸びをする。急にソファから立ち上がるものだから足元が覚束ないバーボンに片手を出す。『すみません』、と小さく言われる言葉を耳にしながら立ち上がってしっかりと立たせる。
    「……玄関か?」
    「へ、…あ、そうです」
    「そうか、……悪いが少しここを片していてくれるか?」
     俺よりもひとつ小さい頭が頷くのを見て体を離して玄関へ向かった、……大きな紙袋がふたつと小さな紙袋がふたつ。なるほど、確かにそれなりに買い物に付き合って買い与えられたのだろう。手に取って片付けをしているだろうバーボンの元へ戻る。
     空いた瓶だの缶だのを抱えてキッチンのシンクで中身を洗っている横を過ぎる、水の音を聞きながらローテーブルの上にお置きっぱなしにしていた煙草を一本、……一応換気扇の下に。隣に居るバーボンは何も言わない。静かに洗い物を済ませている。
    「紙袋、多かったでしょ」
    「……いや、まあそうだな。予想よりかは少なかった」
    「あははっ、もっとあると思った?」
    「ああ……あの女狐の事だ、でかい紙袋が五つ以上はあってもおかしくないなと思っていたんでね」
    「それは…流石に買いすぎ、かなあ…」
     驚いた様な声交じりに洗い終わった瓶や缶を適当な袋へ入れていく。資源別にする辺り、こいつも育ちが良いのが見て取れた、言葉にはしないが。洗い物の終わったらしいバーボンは隣で大人しく俺が煙草を吸い終わるのを待っている、…こう言う所は少し意地らしくて愛らしい部分だと思うがそれを口にしてしまえば直った機嫌を損ねる事になりかねん。
    「ライ」
    「…ん?」
    「お水、飲みます?」
    「俺は要らないが、お前は飲んでおいた方が良いだろうな」
     短くなった煙草を水道コックを捻って水で消す。綺麗に洗われた灰皿の中身の上に捨ててグラスをふたつ手にしているバーボンの目元を親指で擦る、…赤い。酒に弱い訳ではないだろうが疲れも祟ったかほんの少しだけ普段より目元が赤く熱い気がする、こいつの体温なんぞ知らないが。
    「……た、ばこ臭い」
    「そいつは悪かった」
     控え目に言われて手を離す、さっきまで煙草を挟んでいた手だ。そりゃあそうか。
    「酒を飲んだら水を飲むって教わりませんでした?」
    「知ってはいるが」
    「なら飲んで」
     押し負けた。手渡される水道水を一気に飲んで腹の中が水分で満たされるのが分かった、こんなんで眠れるのか。腹の中ちゃぷちゃぷだぞ。
    「スコッチはもう寝ちゃったかな」
    「さあ、…お前の下着見るのに起きてるかもしれんぞ」
    「見、……見るのに起きてるかな…」
     さっきの会話の流れを復唱しただけだが、途端に何か、思う事があるらしい。女同士の会話だ、俺には分からない何かがあるのかもしれん。男同士で下着を見せ合う…なんて事はした事あっただろうか。「あなたは下着とか気にするたちですか?」
    「……ん?」
    「こう、…そう言う事になった時に下着とか気にするタイプ?」
    「……あまり気には…いや、どうだろうな」
     思い出してみる。…今までセックスした女たちの下着なんて思い出せない、それは別にその女たちに対して何か感情を持っていたかいなかったかの違いなのだが。ふと考え込んでしまった。
    「…気にした事は無いな、ベッドに行った女の顔も覚えていない」
    「うわ、最低ですね」
    「……若かったんだよ」
    「ふうん、…じゃああなたはあんまり、気にしないんだ」
    「顔も覚えてない様な女だったらな」
    「…覚えている様な女性だったら?」
    「下着まで覚えているだろうよ、良く知る、見ている女相手だろ?」
     空のグラスを指で撫でて適当に洗いながら思った事を口にしたが、これはどうなんだ?と思った時には遅かったのかもしれない。洗ったグラスを受け取って水きり籠に入れたバーボンは小さく笑った。
    「じゃああなた、僕の下着は覚えられるんだ?」
    「……は、…あ、まあ、覚えているだろうな」
    「なら覚えておいてください」
     にこりと人の良い笑みを浮かべる真意が分からなかった。『ほら行きますよ』と紙袋を押し付けて自室にしている部屋へ足を向けるのを後ろから着いていく事しか出来なかった。
    『僕の下着は覚えられるんだ』?
    『なら覚えておいてください』?
     そもそも俺の前で服を脱ぐ事があるのかと言う疑問が浮かぶ。……風呂の時とか?間違ってでも俺が入る事はないが。
    「それじゃ、おやすみなさい。荷物持ってくれてありがとうございます」
    「……ああ、…おやすみ」
     ゆっくりと部屋の扉が閉まっていく。パタン、と静かに閉まる扉を見送ってひとり取り残されたリビングで少し、考えた。どう言う真意で、どう言う考えであの発言…?何も分からん。もしかしたら何も考えていなかったのかもしれないし、何ならこの先他の、……他?他ってなんだ。俺以外の奴に下着なんぞスコッチくらいしかいないだろ。そもそも俺が覚えているかどうか、の話だった、はず。
     ばたん。
     自室にしている部屋に入ってもなお考えはまとまらなかった。答えなんて無いんだろうきっと。あいつらの部屋がどうなっているかは分からないが、酷く殺風景な部屋を目の前にしてひとつ溜息。面倒臭い、思考放棄と言う訳ではない、見つからない答えを探すのは不毛だ。

                 ◇◇

    「……で?訳分かんない事言って部屋に戻ってきちゃった、と」
    「だっ、待っ……しょ、しょうがないだろ…!」
    「いやあ、多分ライはオレのパンツとか覚えてないと思うけどなあ。覚えててもバーボンのパンツだろ」
    「っ、いや、別に覚えてろって訳じゃ…」
    「だって前にオレ、仕事でスカート履く~ってなった時ライに『お前そんな足開くな、見せるな』って言われたし」
    「それはお前が悪いだろ!」
     眠気なのか疲れなのか酒なのか。部屋に戻る前に訳分からない話をしてしまった。それは自覚がある、けど自分を意識してくれていると言うのが分かっただけでも収穫と言う事にしておきたい。しておく事にする。
    「バーボンが帰ってくる前にさあ、どう思ってんのって聞いちゃったんだよなあ~オレ」
    「ハッ?!そん、何聞いてんだ!」
    「酒の勢いで聞き出せちゃうかなあ?って思ったけどガード固いねやっぱ」
    「バッ……カ、変な事聞くな!組織の人間に!」
    「ぽくないんだけどなあ」
     シングルサイズの各ベッドの上で喧嘩未満の言い合い。枕を抱えて足をばたつかせている僕を、楽し気に見ているだけだと思っていたのに思ったよりとんでもない事を事前に聞いている事を知ってしまった。何て事を。この、バカ!
    「……分かりやすいんだよなあ、バーボンは」
    「うるさいぞ……分かりやすくない…」
    「今日買った下着だってそうだろ~?すごいえっちだったもん」
    「あれはベルが!」
    「ベッドの中での正装だろ、取っ払っちゃうかもしれないけどそれでも正装だ。……それにいつも寝る時下着だろお前」
    「そっ……うだな…」
    「あははっ!」
     軽快に笑いやがって。恨みがましく隣のベッドに居るスコッチを見れば気付いたらしく微笑まれた。ムカつく。お前は良いよなスコッチ、仕事中も同じ所に居られて。僕はいつも違う所でお前たちに守られる立場だ、それを望んでいる訳じゃない。役割分担的にそうなっているだけ。……ふと、ベッドサイドに置いたままのスマートフォンが鳴る。スコッチのだ。ライがうるさいって連絡でも寄越してきただろうか、部屋は離れているから大丈夫だと思うけど少し騒ぎ過ぎたのかもしれない。スマートフォンの画面を見てから僕に人差し指を立てる、静かに、の合図だ。頷いてベッドの上で大人しくする事にする。
    「……はい、…ああすみませんって、…っはは、何もないですよ。……え?明日、…あー…はい、分かりました」
     相手はライじゃないな、組織の誰か。この口調から察するにジンではないしキャンティでもない、となると大体スコッチがこの対応するのはひとりしかいない。ベルモットだ。
    「ええ、…しませんよ。明日昼二時に。……ええ、…えっ、分かりました」
     ちらりとこちらを見て少し焦った様な声を出す。なんだ?何か不具合でもあったのだろうか、スコッチが呼び出されるって事は狙撃か…それとも僕やベルではないタイプの女性が好きな男の相手だ。スコッチは色白の黒髪美人だから。通話を切ってスマートフォンが投げ出される。
    「……どうした?何かあった?」
    「……バーボン、ライと喧嘩しないってオレと約束できる?」
    「え?なに、どういう事?」
    「…オレ、明日から一週間、ちょっと別行動なんだけど」
    「えっ」
     今日一番の声が出た。バカバカ、とスコッチが立ち上がって笑う。流石に部屋に響いた。
    「声でかいって!」
    「ごっ、めん……さっきあんな話?をしちゃったのにいきなり一週間って無理だろ!」
    「無理かもしれないけど無理じゃなくすんだよ!だってオレ居られないんだもん!」
    「ど、どう…どうしよう」
    「……喧嘩しない、仲良くできる?」
    「で……き、る」
    「よし、…オレも隙を見て連絡するから。ライにはオレから言いに行くよ」
    「……うん、」
    「そんな不安そうにするなよバーボン。大丈夫だから」
     不安じゃないかと言われれば、不安だ。普段何かある度に突っかかってしまうから。多分ライも思ってる、僕とライの間にスコッチが居ないと会話が上手く回らないなんて事。喧嘩したくてしている訳じゃない、はずなんだけどなあ。
    「バーボン、先に寝てて。ライに話してくるから」
    「……うん」
    「おやすみバーボン、大丈夫だよ」
     安心させる様なスコッチの言葉。大丈夫だろうか。なる様にしかならないんだけど、もう決まってしまっている事だから。ベッドから起き上がって部屋を後にする背中を見送って、思えばライの部屋に行った事、僕には無いなあなんて思ったりした
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