Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ◎da

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 🍺 💮 😇
    POIPOI 2

    ◎da

    ☆quiet follow

    HIDE AND SEEK!開催おめでとうございます!

    沖安:そしかいしてない
    JKの恋バナに巻き込まれた安室と、盗み聞きしていた沖矢さんの話。

    後日赤安の沖安プレイR18上げる予定です……。

    好きな人の話。 この世で最強と言われる彼女たちに、怖いものと言うのは存在しない。

    「あむぴってさあ、恋人とか居ないの?」
    「……え?」
     注文のサンドイッチをテーブルへ運んだ時にそう問われた。キラキラとした瞳が向けられる。きっと今の彼女たちくらいの年齢だとそう言ったことに興味津々なお年頃なんだろう。
    「居ないなあ」
    「えー!そんなイケメンなのにぃ?!」
    「あ!わかった!今居ないとかなんでしょ!」
     きゃあきゃあと口々に質問が投げられて少しだけ気負けしそうになるが、努めて冷静に『今も昔もそういう人は居ないなあ』と言えば、やはり不満そうにつやつやとした唇を尖らせていた。
     彼女たちは多分、大人の恋愛に興味があっただけで僕の恋愛に興味があった訳ではないだろう。丁度、気になった所に居たのが僕だったって言うだけの話。……そして今も昔も恋人が居ないと言うのは嘘じゃない。本当に居ないのだ。
     すでに僕の恋愛話はないと見切りをつけた彼女たちは他の話に華を咲かせている、それを聞きながらテーブルを後にする時、視界の端に映った姿。
     ……沖矢昴。
     いや、中身はもう断言してあいつだとわかってるのにどうしてまた僕がシフトに入っている時にここにやってくるんだこの男。静かに珈琲を啜っている。……いや静かなだけマシか、と思う僕も僕なのかもしれない。
    「あむぴ、好きな人も居ないの?」
    「え?……うーん、そうだなあ……」
    「てか、あむぴっていくつだっけ」
    「君たちから見たらおじさんの年だよ」
    「あむぴがおじさんって全然想像出来ないな~」
     どうやら彼女たちは忘れていなかったのか、思い出したのか話をぶり返す。
     好きな人。居なかった訳じゃない。
     好きになったって叶わない事を知っているから、諦めたんだ。不毛な恋は自分の手で終わらせるしかないしした所で叶う訳はない。男が男を、それも壊滅させようとしている場所に属している男を好きになったって未来なんてものは存在しない。

     ……はず。
     とは言え、その男は名前も姿さえも変えて今、この場所に居る。……なぜ?考えた所で答えは見つかりなんてしないけど、変に疑問が生まれてしまうのだから仕方がない。あと店が暇だからどうしても考え事をしてしまう。
    僕の悪い癖だ。直さないといけない。
    「ね、好きな人は?」
    「そんなに気になるのかい?」
    「気になるよ~あむぴの好きな人ってどんな人なのかなって」
    「んー……面白くないと思うけどなあ」
    「面白いとか面白くないとかじゃないんだって!」
    「……僕の好きだった人は、綺麗な人だったよ」
    「綺麗な人?顔が?」
    「ふふ、顔…顔と言うより所作かな。立ちふるまい」
    「立ちふるまい……」
     言葉を復唱する。なるほど……と言う声も聞こえて何となく擽ったい。彼女たちは若く、そういうのまで気にしてしまうものなのだろうか。ひとりに至っては手にしたスマートフォンを熱心に見ているからきっと、立ちふるまいについて調べているのかもしれないな、なんて思った所で少しだけ反省する。
     シンクにある皿やマグカップを洗って、小綺麗にした後、ちょっとした仕込みをしておく。明日の僕や、年下の先輩が少しでも楽になるように。
    「でも、あむぴ。その人に告白とかはしなかったの?」「しなかったなあ、……それにその人、恋人が居たからね」
    「ええー!!」
     今日一番の大声が店内に響く。思わず口元に指を当てるがその前に本人たちも気付いたらしく口を抑えていた。
    「えっ、えっ!じゃあ恋人が居る人をあむぴは好きになっちゃって、しんどくなかったの?!」
    「しんどい……辛いって?うーん、辛く、はまあ、あったけど仕方がない事だなって」
    「えー!それで諦めちゃったんだ?」
    「まあ、……そうなる、かな……?」
     まさかここまで込み入った話になるとは思わなかった。思わず店内の隅に居る男を見てしまう、……彼は相変わらず珈琲を飲んだりしながら、手元にある文庫本に目を落としていた。表情自体は読み取れない、だから何を思って何を考えているのかはわからないままだった。
    「奪っちゃえばよかったのにー……あむぴならできたんじゃないの?」
    「そんなに簡単に言わないの、簡単な事ではないんだから……それに、向こうが僕のことを好きになるかなんてわからないだろう?」
    「そうだけどさぁー……」
    「……ふふ、君たちがそう言ってくれて嬉しいよ。君たちはどうか、幸せな恋愛をしてほしいな」
     そう言ってみても彼女たちは何となく納得をしていない顔をしてグラスに残ったアイスティーを飲んでいた。
     ……数年経ってから、まさか本人が居る所でこんな話をする日が来るとは。何となく羞恥心に駆られてしまった。
    「あむぴも幸せになってほしいなあ」
    「え?僕?」
    「うん、幸せになってねあむぴ。あたしたち応援してるから!」
    「あはは、ありがとう……?」
     ぐっ、と親指を立てられる。そうして彼女たちは店を後にした。
     店内に残ったのはあの男と僕だけで、何となく気まずいと言うか、静寂だけが流れている。彼女たちの帰ったテーブルを片していると声をかけられた。「すみません」
    「えっ、……あ、ご注文ですか」
    「ええ」
     無心でいたから心臓が跳ねた。
     まさか声をと思ったが、ここは店だから注文の際は店員である僕に声をかけるか……と納得をして注文用紙とペンを出す。
    「ご注文は?」
    「珈琲のおかわりと、……」
     そこで言葉が切れた。注文用紙から視線が上がる。
     ばちっ、と普段は閉じているはずの瞳と目が合った。なんで開いてんだよ、と口から出てきそうになったところで飲み込む。深い緑の瞳、あの目を見るとどうしてもダメなのだ。なのになぜか、それが気に食わないらしいこの男は途切れた言葉の続きを言うこともなく僕を見ている。
    「……珈琲のおかわりと、いかがします?」
    「いえ、……小腹が空いたと思いまして」
    「ああ……それで迷っていると、」
    「ええ……あ、そう言えばサンドイッチが有名らしいですね?そちらを」
    「……かしこまりました」
     失礼だとは分かっているけど、どうしてもこいつと目を合わせて話すことが出来ない。そもそも糸目だからどこを見ているのか分からない、と言うのもあるけど。カウンターの中に戻って注文の品をと、したところでふと顔を上げる。
    「っ、…」
     なんで顔を上げているんだ、びっくりした。何より、顔がこちらを向いていたから僕のことを見ていたんだと思うけど。
    「……あ、そうだ、沖矢さんは恋人とかいらっしゃらないんですか?」
    「恋人、ですか。いませんよ、学業優先ですから」
     何となく見られているだけなのが居心地悪く感じて話してみればこれだ。何が学業優先だこいつ、涼しい顔でしれっと言いやがる。「へえ~…今までに恋人がいたことは?」
    「今まで、ですか……ないとは言いませんが……」
    「あくまで今、は居ないってことですもんねえ」
     自分でも思う、なんだこの会話って。いつの間にか読んでいた本は栞が挟まれているし、会話に集中するつもりなのか。僕は手元に集中して目を合わせないように。言葉の終わりが、なんとなく優しさを含んでいるのが酷く心地悪い、こんなところでこいつに優しくされる義理がない。
    「安室さんこそ、モテそうなのに」
    「さっきの会話、聞いていたんですか?」
    「……耳に入ってきてしまうんですよ、すみません」
    「……構いませんけど、…と言うか聞いていたなら分かるでしょう。片思いが忘れられないって言う話も」
    「……、まあ、…」
     少し言葉が濁る。サンドイッチを作りながら軽く視線を上げてみたあいつは、何かを考えるように口元へ指を当てていた。何を考えているかは分からないが、ろくでもないことだと言うのは何となく分かる。もしくは何も考えて居ないか……ただ煙草が恋しいだけなのかもしれない。
    「おまたせしました、珈琲とサンドイッチのセットです」
    「……ありがとうございます」
     少しだけ微笑んで席を離れる。カウンターの中へ戻ってからも、店内にはあの男と僕しか居ないものだから二人分の呼吸音だけが響く。
    「どんな人だったのか、聞いても?」
    「…先程聞いていたんじゃないんですか?」
    「…恋人が居る方を好きになった、と言うことくらいは」
    「それが大体の、全てのことですよ」

     そう、全てなのだ。

     息が詰まりそうな任務の合間にだって、器用に時間を見つけて逢瀬を重ねて、仲睦まじい。優しいひとだと今でも思う。そんな隙間のないところへ僕の気持ちをねじ込めることもない。ただそこにある幸せを壊そうとだなんて僕は思えなかった。「安室さんって」
    「……なんですか?」
    「お優しい方なんですね」
    「……どう、…どこを見てそう思ったんですか?」
    「お相手の、その好きな方の幸せを願われたんでしょう?」
    「幸せを、って言うか……」
     なんて前向きな意見なんだ、思わず言葉が詰まってしまう。うつむき気味の前髪の隙間から視線を向けた先にはサンドイッチを食べ終えて珈琲カップへ口付けるところだった。そこで僕のが、こいつのこと見てることに気付いて嫌になる。
     そして、多分幸せとか、僕は願っていない。あれだけ嫌いを全面に出して生意気を言っていた自覚がない訳じゃない、まあそれも今にして思えば好きの裏返しみたいなものだったのかもしれないけど。それを認めることはあの頃しなかったっけ、だから言葉にしないまま長い時間を過ごしてきた。それは今だって変わらない。
    「……沖矢さんは、もし好きな人に違う想う人が居たらどうするんですか?」
    「私に?……そうですねえ……」
     一度言葉が途切れる。考えたことありませんでした、みたいなこと言われると思っていたからそのまま言われるのを想像していた。それがまさかちゃんと考えるとは思わなかった。
     なのにその言葉の続きが聞きたくて息を潜めてしまう、ああそうだ、僕はまだ恋をしているんだと思う。一生伝えられないこの思いを墓場まで持っていくんだと思う。だから先程した質問に、ちゃんとした答えなんか要らない。聞いたところで意味はない。「……いや、あの、沖矢さ、」
    「好き、はちゃんと言葉にしてしまうと思いますね」
    「……え」
    「叶わなくても届かなくても、本人に伝えることはしなくとも。それが分かるような言葉を伝えてしまうと思います」
    「……、それは、また…どうして…?」
    「自己満足、だと言われてしまえばその通りなんですが……私の存在を知ってほしいから、ですかね」
     『存在を知ってほしいから』……自分と言う存在を相手の中に食い込ませたいなんて、どこまでこの男…と口から出そうになるところで飲み込んだ。
    「……沖矢さんに好き、を向けられる方は大変ですねえ」
    「はは、そんなことないですよ。寂しいだけです」
    「寂しい?」
    「私が居るのをなかったように振る舞われるのが寂しいだけ、だから主張して行くんですよ」
     あっけらかんと当然のように言うから心拍が上がる。つとめて冷静に。子供じみた真似はしていないと思ったけど、いや、……別に僕のことを言ってるなんて誰も一言も言っていない。『なかったように振る舞われるのが寂しい』、よく言えたものだな。
    「好き、と言う感情は悪いものではありませんよ、安室さん」
    「…学業を優先にしているのに、そんなことを仰るとは思いませんでした」
    「はは、今、がそうなだけですよ」
     トートバックの中に文庫本をしまいながらそう続けた。サンドイッチも珈琲も綺麗に平らげているのを見て、この会話を続けるためのものだったのだと分かってもやもやとした感情が生まれる。
     なんだよ、忘れていた、隠していた感情だったのに。本人にそう言われるとは…女子高生の恋バナからは予想していなかった。いや、一番予想していなかったのはその恋バナに沖矢昴が聞き耳を立てていたことだけど。
    「お会計、お願いしても?」
    「あ、はい」
     レジの前に立って伝票をひらつかせているのを見て、濡れた手を拭いから対面に立つ。何となく、またのおこしを、と言うのが憚られるが今は安室透なので言わなければいけない。
    「ありがとうございました、……」
     言葉が詰まる、分かっているのに。安室透だから言わなきゃいけないのに。おつりを手渡したままの姿勢で固まってしまった僕を見ながら、困ったように眉が下がるのが視界の端に映る。ああその顔、僕の好きな人の顔にそっくり。
    「……またのおこしを、」
    「ええ、…珈琲もサンドイッチも美味しかったです」
     それはどうも、言葉にならない。レシートを几帳面にも財布の中にしまって、なんだその財布、お前財布なんか持っていたのか知らなかった。普段カードかマネークリップだろ、……沖矢昴だから持っているんだろうな、なんて分かっているのに少し面白くて笑ってしまった。「……安室さん?」
    「ああ、いえ……あなた、僕の好きな人に似てるなあ、って。思っただけです」
    「…あむ、」
    「ありがとうございました。今日は駅前のスーパーが卵とかお安いですよ、お時間があるのならぜひ」
    「……ええ、寄ってみますね」
     カランカラン。
     小さく頭を下げてゆっくり扉が閉まっていく。窓の外をのんびりとしたペースで歩いていくのを見送って伸びをする。余計な一言だった。自覚はある。
     けれど言ってしまった言葉だし、もう取り消せないし。好きな人だって言うのは間違いじゃないし。本人だって言っていたし。
    『存在を知ってほしいから』……、好きな人はもう死んでいる、と言うことになっているけどきっと僕の意図は分かっているんだろう。あのひとが、僕の好きな人なら。
    「……ん、?」
     席を片付けようとした時に目についたナプキン。小さく文字が書いてある。
     時刻指定。予定は何もない、今出来たけど。エプロンのポケットにねじ込んで、何事もなかったように。

    「……嫌い、だけど好きだなあ、…」

     静かな店内に独り言。誰も聞いていないから言えること。
      
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏💖💖💖💖💖😍😍💘💘👏👏👏🙏❤❤❤☺💖❤❤❤❤☺😭😭👏👏👏👏💖💖💖💖💖💞💞💞💞💞💞💞💞💞☺💖💖💖💖💖💖💖💖💖👏👏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator