ほとぼりは冷めない「「じゃん、けん、ぽん!」」
「よっしゃっ!」
「くっ…」
盛大に揺れるオレンジと青のツートン、只のじゃんけんにしては熱量がおかしい2人を見ながらKAITOが女子2人に尋ねる。
「どうしたんだいあの2人」
「えっと…」
「うーん」
杏とこはねが言い淀む。
言いたくないのか言えないのかその様な雰囲気だ。少し躊躇したのち杏が意を決した顔で答える。
「私達も横で聞いてただけなんですけど…どっちが上をやるか揉めてる…みたいな…?」
一瞬理解が遅れたが2人が付き合っている事、一線は既に超えている事を思い出したKAITOは察した。
「あっ、なるほど…」
「カイト、そういう事女子に聞かないの」
「不可抗力だよ!」
隣のテーブルに座っていたミクに諌められ、杏とこはねは苦笑いで返す。ミクも分かっていて注意した節はあるが一応ちゃんと言ってくれるのがミクである。
「でもなんだか珍しいね、人前で揉める子達じゃないと思ってたけど」
確かにそうなのだ。彰人と冬弥は付き合っている事を隠していないが見せびらかす様な事もしていない。距離は常に近いが人前でイチャつかない、ふと目線をやるとコッソリ手を繋いでいたなんてレベルだった筈だ。もしかしたらこれまでもこんな事はあったのかもしれない、ただ人前で揉める事は無かった。
「でもまぁ今日は凄かったし、仕方ないの…かな?」
「凄かった?」
「飛び入りで参加したイベントで2人のパフォーマンスが凄かったんだよ」
チーム限定のイベントにMCで参加するんだと三田が話していた事を思い出し練習後に冷やかしに行ったところ、うっかりフロア中に煽られ飛び入り参加をした。練習で喉が充分に温まっていた甲斐もあり結構良い順位まで食い込んだのだ。
「2人が特に調子良くてさ、最前列の奴ら全部喰ってやる!!みたいな勢いだったんだよね」
「もう少し歌いたかったんだけど飛び入りだし時間が無くて」
「なるほど」
ミクやKAITOもなんとなく状況が読めてきた。ステージ上での熱がまだ残っている…まあ、そんなところだろう。
「次勝った方が勝ちだかんな」
「あぁ」
「えっ!まだ終わってなかったの!??」
杏のツッコミは2人に届かない。
決めようとしている内容は置いておいて2人の攻防はなんとなく男子小学生を彷彿させた。先に3回勝った方が勝ちなんて言ってた事を思い出しこはねは小さく微笑んだ。
「「じゃん、けん、ぽん!」」
「」
絶叫と共にオレンジがくずおれる。
しっかりと開かれた手のひらを震わせる彰人を見下ろす冬弥の手は勝利のピースサインを示していた。
「彰人はやはり俺のことをよく見てくれてるんだな」
「は?」
悔しさのままにぶっきらぼうに返す彰人をニコニコと笑顔で見つめながら冬弥が再度口を開く。
「この前司先輩に指摘されたんだ、俺は緊張したりここぞという時によくグーを出すと。彰人も気づいていたんだろう?」
「あの野郎!」
ここにいないセンパイに向かって盛大に悪態が吐かれる、だがしかしいくら叫ぼうが結果は何も変わらない。ここぞのタイミングで裏をかく事ができてそれはもう満足そうにシルバーの瞳が細められる。
「彰人」
「…おぅ」
「行くか」
冬弥が彰人の手を引く。出口へ向かいながらカウンターにいるMEIKOに声をかけた。
「メイコさんお騒がせしました」
「…しました」
「はーい、また来てね」
「小豆沢と白石もまた明日」
「またね」
「ばいばーい」
別に嫌では無いが悔しさの方が勝ちなんとも言えない顔をした彰人は冬弥に左手を引かれながら女子達に挨拶代わりの右手を振り、そのまま店の外へと去って行った。
「私達も帰ろっか」
「うん」
こうして小さな嵐は過ぎ去ったのであった。
翌日
甘ったるい雰囲気で練習場所に来たにも関わらず、何事もなかったかの様に練習をこなす2人を見て杏とこはねは感心してしまったのだがそれはまた別のお話。
-Fin-