混ざって消えたフレグランス 赤葦が木兎との同棲を始めてから数年が経ち、騒がしい彼との生活にも慣れてきたある日、変化が訪れた。
最初はいつもよりハグを強請ってくるだけで微笑ましいものだったが、積極的に甘えてくると言うにはあまりに頻繁にハグを求め、今では赤葦の衣服をこっそり抱き締めている姿まで見かけた。そして、最近の彼は決まって、赤葦自身や衣服を抱き締める時、すぅ……と大きく息を吸い込み深呼吸をするのだ。
木兎から甘えられるのは悪い気はしない。むしろ彼に求められるのは嬉しく思うし、人生で一番の幸福だ。それでも、あまりに過剰に求められると、何か不安にさせているのではないかと心配になる。特に最近はただ甘えていると言うよりは何かを探しているようにも感じられ、恋人になったからには必ず彼を幸せにしようと決心していた赤葦は、何が原因か毎日頭を悩ませていた。
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